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出撃

 スペルオーネ帝国・帝国首都ダグマオーネにある帝国会議室


  つい先日に会議をしたのにも関わらずに、再び帝国会議室には会議をするために集まっていた。

  シエン・ユネルメンス・フェール・ゼナーガ王弟を筆頭にジュラ・レイジスト・ウルエイオ。ディズ・エンドルフィン・オーカルス。グレン・カツラズラ・ストレーツ公の四名が会議をしている。

  床に伏せてしまった帝国皇帝リプロ・デクリメンス・フォール・ゼナーガは出席を見合わせている。

  何故つい先日に会議をしたのにも関わらずにまた再び集まったのかというと・・・現在帝国内で起きている事件に問題がある。

  その内容とは数日前から帝国南部の都市との連絡がつかないとことだ。

  しかもその事を確認しようとした者達とも連絡がつかないのだ。


『それでは今回の議題についてなのですが・・・やはり帝国南部都市に軍を派遣した方がよいと思われます』


  そう発言したのは帝国騎士団団長であるジュラ・レイジスト・ウルエイオであり、その事を同調するようにグレン・カツラズラ・ストレーツ公も頷いている。

 

『確かに騎士団長の言うことも最もですが・・・やはり私は軍を派遣するよりは私の風の属性魔導師の精鋭部隊を派遣をした方がよいかと・・・彼らならば空を飛べますし』


  そう発言したのは帝国魔導団団長のディズ・エンドルフィン・オーカルスだ。

  確かに風の属性魔導師の精鋭部隊であれば空も飛べ、上空からの偵察が可能だ。

  つまりディズが言いたいことは先に優先すべき情報収集の部隊であり、情報が集まってから軍等を派遣をした方がよいという考えだ。

  それに対してジュラの考えとしては既に帝国南部の都市と連絡がつかないこと事態が既に緊急事態であり、情報収集等は二の次に帝国南部に赴く方が先だという考えだ。


『確かに帝国の軍事力を担う二人の団長の言うことは最もであるが・・・私としては魔導団団長の考え方に賛成ですね』


  そう言い切ったのはシエンであり、シエンの手元にはディズから貰った資料がある。

 

『しかし王弟陛下。帝国南部にある都市と連絡がつかないというのは明らかに非常事態であり、私としては即刻軍を動かした方がよろしいかと』

『ふむ・・・確かにそうかも知れないが、軍を派遣するのであればそれなりの費用がかかりますからねぇ』


  そう言いながら考え込むような仕草をするシエン。

  帝国南部に軍を派遣した場合の費用について考えているようだ。


(このままでは埒が明かない・・・こちらも数名の貴族とも連絡がつかないというのに)


  情報収集等せずに一刻も早く軍を派遣したいたい思うグレン。

  グレンとしては費用など考えずに軍を派遣して欲しい思い、多少の費用も自分が支払ってもかまわないと考え・・・発言しようとすると突如として会議室の扉が開けられる。

  今は会議室中であり、会議をしていた四人全員が扉の方を振り向く。

  すると其処には息を切らせた警備兵がおり、普段は着ている筈の鎧を身に付けていない。


『か、会議中失礼します・・・て、帝国南部首席のオルフ様から皆様にお話があると』


  この場には相応しく無い礼儀を欠いた警備兵の行動だが、その事を咎める者はおらず警備兵に問いかける。


『どうした!一体何があった!?』

『オルフ様が深手を負ってしまってしまい、現在治療薬剤師が治療を試みておりますが・・・回復は困難かと』

『あのオルフが深手だと・・・』


  そう言いながら驚愕するディズ。

  無論ディズの帝国南部首席のオルフの事は知っている。御歳50歳になる老人であり、熟練の風の属性魔導師だ。

  最近歳を気にし始めてきてはいるが、まだ帝国南部首席の座を護っている魔導師であり、四方に存在する首席の中でも一番の高齢だ。

  そんな長年の経験や、積み重ねてきた技術を持っている筈のオルフが深手を負っているのだ・・・その意味がこの事が分からない者は誰もいない。

  つまり・・・今現在帝国南部は何者かの襲撃にあっているのだと。


『会議は今をもって終了する!警備兵直ちにオルフの元まで案内せよ!それと騎士団団長と魔導団団長は軍を派遣する準備をしておけ!』

『よ、よろしいのでしょうか』


  そうシエンに問いかけるのは書記長の地位に属している男性だ。

  整った顔立ちに似合う黒眼鏡をしている男の名前セロン・ラッシュラック・ウルドロス。

  何故彼が困惑しているのか・・・その理由はシエンが皇帝であり、自身の兄であるリプロ・デクリメンス・フォール・ゼナーガ皇帝の許可も得ずに軍を動かすが許されるのかということだ。

  現在は床に伏せてしまってはいるが今でもスペルオーネ帝国の皇帝はリプロ・デクリメンス・フォール・ゼナーガ皇帝であり、王弟であるシエン・ユネルメンス・フェール・ゼナーガ王弟では軍を動かす事が不可能だからだ。


『兄上には私から説明する・・・それよりも一刻も早くオルフの方へと私は向かう!』

『お供しますよ。王弟陛下』


  そう言いながらシエン、グレンはオルフの元へ。

  ジュラとディズは軍を編成する為に会議室を後にする。


 

  帝国軍医療病棟


  ここには帝国の最新鋭の魔導技術によって作られた病棟であり、研究機関だ。

  常駐の治療薬剤師の他にも各属性の錬金術師もおり、帝国で一番の医療機関とされていて・・・一般の人間を治療するのはかなり稀だが、王族・貴族御用達の機関だ。


『こ、これは王弟陛下にストレーツ公・・・今回はどのようなご用件で?』


  突然病棟内に高級魔導車・・・特に魔導車の中でも一番高級とされいるヴェルツ車が来た事に驚き、急いで迎えに出向く医療機関の最高責任者、アラト・スラッグ・エルバトーラが中から出てきたシエンとグレンを見て驚いた様子で問いかける。

  いきなり皇帝の次にこの国で偉い人物と大貴族と言われている人物が出向いたのだ、慌てるのも当然である。


『アラト・スラッグ・エルバトーラか・・・我々はオルフに会いに来た、案内せよ』

『か、かしこまりました』


  そう言ってシエンとグレンを案内するアラト。

 

『ここです・・・王弟陛下、ストレーツ公正直に申し上げますがオルフさんはもう既に・・・』


  そう言われてオルフと面会するシエンとグレン。

  アラトに言われた通りオルフはかなりの重症であり、話すのも儘ならない状態であった。

  辛うじて話せてはいるが・・・現在の帝国の技術をもってしても回復は見込めない、致命傷だ。


『こ、これは王弟陛下にストレーツ公殿!?』


  突然現れたシエンとグレンに対して驚いているオルフを介護している看護婦が慌てて敬礼をしようとするが、両名に不要とジェスチャーされ再び介護に戻る。


『オルフ一体何があった!?』

『挨拶は不要。君程の腕前があるのにも関わらずにこれ程の・・・』


  致命傷と言いかけたシエンが言葉を飲み込む。

  流石にこの状況ではいくらなんでも不適切だと判断した為だ。


『え・・・えき・・・疫病の狂天使がしゅ、出現しました』

『疫病の狂天使だと!?』

 

  そう言われて驚愕と同時に疑問が浮かぶシエン。

  確かに疫病の狂天使は脅威であり、普通の人間では勝てない相手だ。

  しかし、オルフは高齢とは言え帝国南部では首席で、それに少なからずに疫病の狂天使とは交戦経験がある筈であり、不利と判断した場合は撤退することも出来たはずだ。

  それが出来ない・・・もしくは帝国南部首席という地位にいるオルフでさえ対象することが出来ない疫病の狂天使の出現・・・明らかに非常事態であり、そうであれば精鋭部隊を派遣する必要があると考えずていると・・・


『か、数にして約50体の疫病の狂天使が帝国南部を襲撃して来ました!』

『な、なん・・・だと』

『て、帝国南部はかいめ・・・う、ヴぁぁぁ』


  シエン達が驚いているとオルフが吐血し始めた・・・そして看護婦の介護も虚しくこの世を去る。

  オルフの最後の言葉に驚き、呆然としているシエンとグレン。

  これまでに帝国内で確認出来ている疫病の狂天使の同時出現は五体・・・他国に情報が漏れないように速やかに討伐したので大事にはならなかったが、今回はその時の十倍・・・比較にならない数だ。

  そしてその疫病の狂天使によって帝国南部が壊滅しまったということ。

  何故これ程の数の疫病の狂天使が南部に集中して出現したのか?何故もっと早くその事を知ることが出来なかったのか?

  多数の考えが思い浮かぶが・・・どれも納得のいく答えにはいたらない。

  それよりも・・・


『・・・帝国南部へは帝国騎士団を一個師団と帝国魔導団から一個大隊を派遣させる』

『王弟陛下・・・私も支援いたしますぞ』

『ストレーツ公感謝します』

『感謝などなさらずに・・・私も帝国の一員です。食料、物資等は私が準備いたします』

『アラト・スラッグ・エルバトーラ医院長!至急南部に派遣する人員を選別せよ!』

『かしこまりました!』


  シエンの呼び掛けに答えるように各人員が行動して行く。



 帝国中央騎士団本部


  帝国に存在する騎士団の中でも選りすぐりのエリートが集められている中央騎士団本部。

  会議を中断して戻ってきた騎士団団長ジュラ・レイジスト・ウルエイオに付き従うのは参謀長の地位にいる女性・・・エルロ・ジュッテウロ・レモネードの顔色は優れてはいなかった。

  その理由は帝国南部に残してきた自分の母親達との連絡が付かず、団長から急遽南部へと派遣する人員を選別してほしいと頼まれたからだ。

  詳しい話は知らないが何か良くない事が起きていると直感が告げているからだ。


『伝令!参謀長は居られますか?』


  そう言って入ってきた警備兵と共に現れたシエンに驚き、直ぐ様に敬礼して挨拶をする。

 

『参謀長、団長から部隊の編成については聞いているな』

『はい。聞いております王弟陛下』

『そのことなのだが・・・帝国南部へと派遣する部隊を一個師団にせよ!人選は君に任せるが・・・少なくとも今日中に早急に編成したまえ』

『か、かしこまりました!』

『物資、食料等はストレーツ公が準備なさる。それに魔導団一個大隊と治療薬剤師を中隊規模連れて行く。その準備もしたまえ』


  そう言われて自分の中の直感がさらに鋭くなるエルロ。

  騎士団一個師団に魔導団一個大隊、そして治療薬剤師を中隊規模・・・明らかに帝国国内においてもかなり規模の派遣であり、数十年前の王国との戦争から数えて二番目に値する規模だ。

  何故それほどの規模が必要なのかエルロには聞く義務がある・・・いくら王弟陛下と言えども部下に説明する為に必要なのだ。

  しかし・・・聞いてはいけないと直感が強く警告してはいるが・・・


『王弟陛下・・・何ゆえその規模の必要なのですか?』


  『ふう』っとシエンが深呼吸し、気持ちを落ち着かせ話す・・・今帝国南部で何が起きているのかを・・・



  帝国帝都グラスチュアオーネ城中央広間にて・・・


  帝国帝都の中央に位置する最も安全な場所にて数十名の人々が集まっている。

  彼らは後日帝国南部へと赴き、暴れているであろう疫病の狂天使を討伐するために集められたのだ。

  帝国騎士団団長を筆頭に、帝国第一師団師団長、同じく副団長、歩兵部隊部隊長、重歩兵部隊部隊長、騎馬部隊部隊長、魔導砲撃部隊部隊長、弓兵部隊部隊長、野人部隊部隊長等を筆頭に騎士団からは一万名規模の師団の各部隊長が集まっている。

  帝国魔導団からは帝国魔導団副団長、帝国魔導団風の属性魔導団団長、帝国魔導団火の属性魔導団団長、帝国魔導団水の属性魔導団副団長、帝国魔導団土の属性魔導団副団長を筆頭に六百名。

  そして帝国軍所属治療薬剤師から団長を始めとして百名の代表が集まっている。

 

『さて、詳しい話は以上だ。何か疑問、質問のある者は?』


  集まった面々に説明しているシエン。

  帝国南部で起きたであろう出来事を聞いて言葉に出来ない人や、言葉を失ってしまう人など数名が黙ってしまっている。

 

『し、質問をよろしいでしょうか?』


  そう言って手を上げたのは帝国南部に赴く治療薬剤師の一人であり、まだ若い男だ。

  他の面々と同じようにシエンの話を聞いて顔色は優れてはいないが、それでも確認しなければならないと思い意を決して手を上げたのだ。


『質問を許可します』

『ありがとうございます王弟陛下。それで質問なのですが・・・騎士団や魔導団の方々と違い我々治療薬剤師は疫病の狂天使に対して有効的手段を持っておりません。疫病の狂天使と接触した場合はどうすればよいのでしょうか?』

『君たちは治療の要、極力疫病の狂天使と避けて行動してくれたまえ。いざという時はその場の判断で撤退を優勢してくれ』

『了解いたしました』


  そう言われて安堵のため息を溢す若い男。

  一様男も帝国軍に席を置いているので基本的な戦闘は出来るが、他の専門の面々に比べれば戦闘力は低い。

  疫病の狂天使と戦闘になればまず勝てないが・・・それでも命令で戦えと指示があるのであれば戦わなければならないとシエンに質問したのだ。


『王弟陛下、私からも質問よろしいでしょうか?』


  続いてシエンに質問するのは帝国魔導団風の属性魔導団団長だ。

  許可をするシエン。


『我々、風の属性魔導師なのですが・・・先行し、帝国南部がどのような状況になっているか確認した方がよろしいのではないでしょうか?』


  そう言われて少し考え込むシエン。

  確かに大抵の風の属性魔導師は空を飛ぶ事が可能であり、魔力を消費して魔導車並みの速度が出せる者もいる。

  それに空を飛ぶのであれば地上を走るのとは違い、障害物等を気にせず一直線に進む事が可能だ。

  今、帝国南部がどのような状況になっているのかは不明・・・であれば風の属性魔導師で偵察するのも一つの手かも知れないが・・・シエンの頭に過るのはオルフの姿だ。

  帝国南部首席であるオルフが殺られたということはつまり並大抵の風の属性魔導師では意味がない・・・選りすぐりのエリートでなければ意味がないのだ。

  しかし・・・もし、その面々を選び先行させたとする。

  無事に誰一人欠けることなく戻って来たのであれば問題無い。寧ろ帝国南部がどのような状態になっているのかという情報が手に入るのだ上出来と言ってよい。

  だが・・・情報収集へと赴いた風の属性魔導師達が全員誰一人として帰って来なかった場合はどうであろうか?

  貴重な風の属性魔導師を失うだけではなく、風の属性魔導師達が討ち取られたとなれば全体の士気に関わる。

  特に先行しなかった風の属性魔導師達の士気は最低となるであろう。


『その事についてなのだが・・・先行はしない』

『何故でしょうか?我々であれば必ず遂行出来ます!』


  自身を持って答える帝国魔導団風の属性魔導団団長。

  シエンがもう一度断ろうと口を開こうとしたその時・・・中央広間の扉が開け放たれる。

  何事かとこの場にいる全員が振り向く。

  今現在中央広間は貸切状態であり、誰かが入って来る事は出来ないようになっている。緊急事態以外は・・・

  なのでまた緊急事態なのかと不安に思っていると・・・中に入って来た人物を見て驚愕する面々。

  それはシエンとグレンも例外ではなかった。


『・・・この騒ぎは何事か!?』


  そう言って入って来たのはスペルオーネ帝国皇帝、リプロ・デクリメンス・フォール・ゼナーガである。

  数名の近衛兵に、専属の治療薬剤師、そして書記長であるセロン・ラッシュラック・ウルドロスも共に入って来る。

  突然の皇帝の来客に困惑していると、お供の近衛兵がその手の槍で地面に叩く。

  その事によって気がついた面々は行動を開始する。縦に割れ、シエン・ユネルメンス・フェール・ゼナーガとグレン・カツラズラ・ストレーツ公までの道が出来上がる。

 

『シエンとストレーツ公か・・・これは何事だ』

『あ、兄上・・・』


  リプロがシエンに向かって問いかける。

  その瞳は病にかかっているのにも関わらずに、覇気は健全で、シエンを睨み付ける。


『・・・皇帝陛下。この場の面々は帝国南部に赴く面々であります!』


  シエンの代わりに答えたのはグレンだ。

  何故貴様が答える・・・そんな瞳でグレンを睨み、気持ちを落ち着かせる為に深く息を吸い込む。


『そうか・・・グレン貴様の発案か?』


  大貴族であるグレン・カツラズラ・ストレーツ公を貴様呼ばわり出来るのは皇帝しかできない。

  床に伏せているからと言っても未だに帝国全軍の指揮は皇帝であるリプロにある。

  なのにも関わらずに自分に許可を得ずに軍を動かすなど言語道断であり・・・場合によってはその爵位を剥奪されかねない。

  いくら大貴族だとしても、有能だとしてもだ・・・


『いや・・・兄上私の発案だ』


  そう言ってグレンより一歩前に出て答えるシエン。

 

『だろうな・・・この面々をストレーツ公では集められまい。特に、帝国騎士団団長ジュラ・レイジスト・ウルエイオを動かす事は私・・・もしくは貴様しか出来ないからな』

『皇帝陛下。報告が遅れたのは申し訳ございません。火急に、速やかに行動しなければなりませんでしたので・・・』


  そう言って弁解しようとしたジュラだが、リプロによって止められてしまう。


『私はお前を信用していたのだがな・・・がっかりだよジュラ・レイジスト・ウルエイオ』


  そう言って大きなため息をつくリプロ。

  それに対してなんとも言えない雰囲気になってしまう。


『兄上・・・報告が遅れた原因は全て私にある。どうかこの者達を許してほしい・・・そして帝国南部にこの面々、帝国騎士団一個師団、帝国魔導団一個大隊、帝国軍所属治療薬剤師を一個中隊を帝国南部へと派遣する許可をいただきたい』

『なんだと・・・』

『只今帝国南部では疫病の狂天使が約五十体・・・が暴れているとの状況にあります』

『皇帝陛下!我々を帝国南部へと派遣してください!』


  ジュラの一言でこの場に集まった各部隊長が一斉に頭を下げる。

  帝国皇帝リプロ・デクリメンス・フォール・ゼナーガは周りの面々を見渡す・・・一斉に頭を下げた各部隊長、そして懇願しているシエンとグレン。

  嘘偽りの無い・・・真実を告がれたリプロだが、その答えは非情であった。


『ならん・・・何ゆえその規模の軍を動かす?それに疫病の狂天使が約五十体だと?騎士団団長貴様はその襲撃現場、その数の疫病の狂天使を見たのか?』

『いえ・・・私ではございません。帝国南部首席であるオルフ・プルギズ・オルファジオが見たと証言しております』

『なるほど・・・では他に見た者は?』

『・・・帝国南部から来たのはオルフ・プルギズ・オルファジオのみ、そしてそのオルフも既に死んでしまっている』

『なに!?』

『瀕死の重体で飛んで来たらしく我々と会話した後に死んでしまった』


  そう言われて考え込むリプロ。

 

(嘘とは思えないな・・・確かにここ数日帝国南部からの人の流れが悪い・・・いや、帝国南部から人が来ていないのか?)


  ふとこの最近の帝国の人の流れを考える。

  リプロは病にかかってしまったが為にここ最近街に出て行っていないが・・・


『だが、駄目だ・・・その大部隊を派遣はしない、その代わりに風の属性魔導師達による偵察をさせる』

『皇帝陛下!?』

『兄上!?』


  その決定に不服なのか一斉に声をあげる。

 

『兄上非常事態なのです!』

『貴様、この俺の決定が間違ってい・・・』


  激昂してしまったからのかリプロが咳き込み、苦しそうにしている。

  側に控えていた治療薬剤師が薬を飲ませて落ち着かせようとするが・・・予想以上に体調が悪化しこの場を去る。



『・・・どうしますか王弟陛下』


  気まずい雰囲気の中で、ジュラが切り出す。

  帝国南部へと派遣しようとしていた部隊が皇帝の一言によって派遣出来なくなってしまったが為に、どうすればよいのか分からなくなってしまったのだ。

  この場の面々はシエンの呼び掛けによって集められた面々で、全員がシエンを見ている。


『・・・この場の面々に問う。皇帝陛下の指示に従い風の属性魔導師による偵察を優先するか?それとも皇帝陛下の命に逆らい私を信じて帝国南部へと赴くのか?』


  そう言われて周りを確認する面々。

  そしてこの場の全員が頷き答える『帝国南部へと赴き、人々を救う』っと。


『了解した・・・ならばこの私シエン・ユネルメンス・フェール・ゼナーガの名において命じる!各員戦闘準備!帝国南部へと赴き疫病の狂天使を討伐する』


  その言葉を聞き、一斉に叫ぶ面々。

 

『帝国南部へと疫病の狂天使討伐にはこの私シエン・ユネルメンス・フェール・ゼナーガも同行する。しかし!優先するのは私の身を守ることではなく疫病の狂天使の討伐、及び住民の救出である。非常に厳しい戦いになるこの場の全員が生きて帰れる保障等は何処にも無い!しかし・・・諸君らは志願してくれた。ならば全力でこの任務に当たれるようにこの私も全力で援護する!各員解散!明日に備えよ』


  中央広間にいた面々が解散し、この場に残っているのはシエンとグレンのみだ。


『よろしかったのですか王弟陛下?』

『仕方あるまい・・・あのままではあの場に集まった面々の不安、そして私自身の評価が下がってしまうからな』

『しかし、この行為はもしかすれば皇帝陛下に弓を引く行為とみなされるかもしれませんよ』

『・・・王位戦争。出来れば避けたかったなのだがな』


  そう言ってため息をつくシエン。

  その表情は疲れてはいるが決意に満ちていた。



  帝国南部とある街にて・・・


  街は至るところに破壊の後があり大きく抉れた地面に、巨大な切り傷が壁にはある。

  そして街のあちこちでは怒号や、悲鳴が聞こえ、火柱や爆発が響き渡る。

  現在この街は疫病の狂天使の襲撃に会い、警備兵と帝国軍が必死になって疫病の狂天使を倒そうとしているが・・・多勢に無勢、象の群れに挑む蟻の如く一人、また一人と疫病の狂天使の餌食となってしまう。

  そんな悲惨な・・・数多の悲劇が生まれている街をスキップしている人物がいる。

  ローブを羽織っているのでその表情、格好は分からないが年齢的にはまだ子供であろう。


『ねぇ・・・そろそろこの街も終わりだよ。次は何処に行くの?』


  明日の天気でも聞くような軽い、そして楽しそうに話かける。

  周りでは悲劇が繰り返されているのにも関わらずに・・・


『そうですね・・・そろそろ帝国も動き出して来る筈でしょうし、心の準備をしておいてくださいね』


  ローブの人物の問いかけに答えたのは同じローブを着ている人物。

  背は先ほどの人物よりは高く、そしてローブを着ているのにも関わらずに目立つ胸・・・女性である。


『やった!ついにあいつ等を殺せるの!?』

『そうですね・・・私の見立てでは帝国騎士団団長ジュラ・レイジスト・ウルエイオか、もしくは帝国魔導団団長ディズ・エンドルフィン・オーカルスのいずれかが来る筈です』

 

  非常に嬉しそうに笑うローブの人物。

  その右腕は異常な姿になっているが・・・

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