狂天使化の果実
セカロン伯爵邸中央広間・・・
屋敷内に警報が響き渡ってから数分後何かが崩れ落ちる音が聞こえ、セカロン伯爵達は中央広間を後にして地下に存在する隠し部屋へと向かって行った。
ただ一人取り残されてしまったリリエルソ。
この場から逃げようにも脚に取り付けられた足枷によって身動きが取れずにいるのだ。
足枷は重くとても一人では持ち運び事が出来るはずもなく、ましてや女性では尚更動かす事も不可能だ。
それに繋がれている鎖には分厚く、破壊しようにも専用の工具がなければ破壊出来なく、その工具もまたこの場にはない。
つまり今リリエルソはどうする事も出来ずに、助けを求めるしか出来ない状況なのだ。
(い、一体何が起こっているの・・・私はこれからどうなるの・・・)
状況を確認しようにも身動きが取れない状況のリリエルソはただ祈る事しか出来なかった・・・
そして伯爵達が中央広間を去ってから数分後・・・中央広間の扉が開かれる。
中に入って来たのは一人の男性であり、防具を身に纏っていることからこの屋敷の警備兵だと判断し、リリエルソは助けを求めようとしたがその表情が曇る。
何故なら中央広間に入って来た警備兵はリリエルソが奴隷として売られた時に最初にあった警備兵であり、印象は最悪であったからだ。
(あの男・・・私の事を気味の悪い厭らしい目付きで見ていたあの男だ!)
中央広間に入って来た警備兵はリリエルソに気がつくと、一瞬怯えたような態度をする。
警備兵の返り血なのか血を滴らせていて、その表情は恐怖に支配されていたようだ。
一体外で何が起きているのか、そんな疑問が頭に浮かんでいるとリリエルソを確認した警備兵が近づいてくる。
その瞳は明らかに正気ではなく、異常な雰囲気を醸し出している。
『こ、来ないで!』
近づいてくる警備兵に向かって叫ぶリリエルソ。
しかし足枷をしている身動きがとれない女性の叫びなど聞く耳をもたないのか一向に歩みを止める気配は無いようだ。
『は、はは・・・もう駄目だ』
そう言いながらリリエルソに向かって走って行きリリエルソを捕まえる。
身動きが取れないリリエルソは簡単に警備兵に捕まってしまい、仰向けにされ両手を拘束されてしまう。
『離して!離してよ!』
必死に抵抗するが女性と男性では明らかに筋力の差があり、ましてや相手は訓練を積んでいるのでリリエルソが必死に抵抗しても拘束が解ける気配はない。
『みんなアイツに殺られるんだ・・・だったら最後に犯していかねぇとなぁ!』
そう言いながらリリエルソの着ている服を剥ぎ取る警備兵。
その瞳は狂気と恐怖・・・そして欲情しておりどう考えてもリリエルソを犯すつもりだ。
『いや!離して!離してよ!』
リリエルソ言う事など聞く耳など持たずに、警備兵も鎧を脱ぎ始め・・・リリエルソを犯そうとする。
『お前は売られたんだろ?可哀想になぁ・・・』
『だったら・・・』
『この世界は残酷なんだ・・・怨むならこの世界を怨むんだな!』
そう言いながら警備兵は自分の欲望の塊でリリエルソを犯そうとしようとする・・・より速く中央広間の扉が破壊され扉の破片がリリエルソ、警備兵の元まで飛んで来る。
『嘘だろ・・・ 』
『えっ・・・』
中央広間の扉を破壊して中に入って来たのは一体の疫病の狂天使。
全長は1.5mと疫病の狂天使としては小柄だが、その右手は異形な形をしている。
右腕のみが巨大化してしまっていて、疫病の狂天使よりも巨大化であり長さにして2m程度ほどある。
またその右手が鋼鉄の輝きを放っていて、鱗のように覆われている。
太さも丸太ほどの太さであり、何よりもその右手の先端が鋭利な鉤爪状になっているのだ。
人間など容易に引き裂き、鉄すらも引き裂けそうなほどの右手を持った疫病の狂天使がリリエルソと警備兵を視界に捕らえる。
『く、来るな!?来ないでくれ!』
必死に叫び、リリエルソの事などお構い無しに逃げようとする警備兵。
しかしながら不幸な事に自身の脱ぎ捨てた鎧に足を取られしまい転倒してしまう。
リリエルソも今まで以上に必死に逃げようとするがやはり足枷の重みよって身動きが出来ずに・・・リリエルソは抗う事を止めて命を手放す事にする。
目を閉じて死を受け入れる・・・
(あぁ、私は死ぬんだ・・・リアエごめんなさい)
目を閉じ死を受け入れたリリエルソ。
最後に抱いた願いは娘であるリアエへの懺悔の言葉であった・・・はずであった。
『や、止めろ!止めてくれ!』
疫病の狂天使はリリエルソには見向きもせずに警備兵の元まで飛んで行く。
そしてその鋭利な右腕で逃げている警備兵を捕まえると・・・地面に叩きつける。
けたたましい音と共に叩きつけられてしまった警備兵だが、運の良いことに・・・いや、運の悪いことに気絶することはなかった。
激痛が全身を伝わる中でもその意識はしっかりとしており、叩きつけられてしまった衝撃により鼻が折れ、頭からは血を垂れ流した悲惨な状態だ。
手足も動く気配はなく、どうやら逝かれてしまっているようだ。
『きぃぃぃぃぎやぁぁぁぁぁ!』
疫病の狂天使の叫びが中央広間に木霊する。
その咆哮は歓喜の叫びのようであり、誰かを失ったようなそんな悲しみの叫びのようにも感じられる。
『ど、どうして・・・』
困惑したように叫ぶ疫病の狂天使を見つめているリリエルソ。
何故近くに居た自分ではなく、少し離れた場所に居た警備兵を狙ったのか不思議なようだ。
(痛い・・・痛い痛い痛い痛い!?)
叩きつけられてしまった警備兵に対して疫病の狂天使が力を込め始める。
ミシミシと嫌な音を立てながら潰されて行く警備兵。
必死に酸素を補給しようとしているのかヒューヒューと警備兵から音が聞こえて来るが・・・次第に音が小さくなり、そして・・・ベキッ、ベキッと音を立て始める。
『た・・・助け・・・』
押し潰されている警備兵が必死に助けを求めようとリリエルソの方へと手を伸ばす。
(助けて!?私を犯そうとした奴が何を言っているの!?)
必死に助けを求める警備兵を嘲笑うように疫病の狂天使を力を込め・・・べちゃりっと音を立てて警備兵は疫病の狂天使に潰されてしまう。
まるで車に轢かれた蛙のようになかってしまった警備兵。
辺りには血の池と言うべき光景が広がり、一面に血生臭い不快な臭いが漂っている。
『う、うぁぁあぁ・・・』
堪らず吐いてしまうリリエルソ。
いくら自分を犯そうしてきた外道でも同じ人間なのだ、目の前で潰されてしまっては吐いてしまうのも仕方のないことなのだ。
『はぁ・・・はぁ・・・つ、次は私か・・・』
吐くのを終えたリリエルソがこちらを見ている疫病の狂天使に気がつく。
この世界全てを怨んでいるかのような瞳は視界に入る全ての物を破壊しそうなほどであり、異形の右腕はその世界を破壊する手立てなのであろう。
身動きの取れないリリエルソ。
そして疫病の狂天使はリリエルソを数秒間、数分程度見つめ・・・中央広間の壁を破壊し出て行く。
目の前にリリエルソが居るにも関わらずにだ。
『どうして・・・』
疫病の狂天使のありえない行動に呆気にとられてしまうリリエルソ。
それもその筈である。疫病の狂天使というのは話は通じなく、ただ目の前の物を破壊しつくす破壊の化身と言われている。
人間だろうが、動物であろうが、壁でだろうが、目につく全ての物を破壊する破壊衝動のみの化け物のはずだ。
しかし何故かこの疫病の狂天使はリリエルソに対して全く興味を示さなかったのだ。
疫病の狂天使の行動を考えても一向に答えが出る気配はない。
『分からない・・・』
リリエルソが独り言を呟いていると伯爵邸が大きく揺れる。
何事かと驚いていると、伯爵邸の屋根がベリベリと音を立てながら剥がれていく。
いや・・・剥がれていくと言うよりは剥がされていくと言った方が正しいようだ。
それはまるで巨人の手によって屋根が剥がされるように、木の枝のような物が屋根に巻き付き剥がしているのだ。
『あ・・・えっ・・・』
あまりの衝撃に言葉を失ってしまうリリエルソ。
伯爵邸の屋根が剥がされそこから見える光景・・・それはリリエルソの常識からあまりにもかけ離れていたからだ。
『木の化け物・・・』
伯爵邸の屋根を引き剥がした者の正体は巨大な木の化け物であった。
顔らしき部分は見当たらないが、覗き込まれているであろう雰囲気がそこにはあり、そして・・・巨大な木の化け物に向かって魔導弾が放たれる。
伯爵邸に残っていた警備兵らしき人物達の悲鳴と共に放たれた魔導弾。
放たれた魔導弾が木の化け物に直撃するが・・・その表面を少し焦がす程度のようだ。
魔導弾の他にも無数の矢や、投擲物が木の化け物に直撃するがまるで効いている雰囲気は無い。
そしてその引き剥がされた屋根から入って来る者がいる・・・この世界の絶望の象徴・・・疫病の狂天使である。
それも一体や二体では無い。
数にして十体前後の疫病の狂天使が伯爵邸へと入って来たのだ。
『何なんだお前ら!?』
『外の連中は何をしていたの!?』
『に、逃げ・・・』
疫病の狂天使が伯爵邸内へと入ってきたことによって伯爵に仕えている人々、警備兵達の混乱した様子が聞こえてくる。
突如として現れた疫病の狂天使に戸惑っているようで・・・途中から悲鳴が混じり始める。
『助けてくれ。止めてくれ』っといくら叫び、懇願しようともそんなことはお構い無しに虐殺し始める。
『あら?こんなところに・・・』
突如として後ろから聞こえてくる声に思わず振り向いてしまうリリエルソ。
すると其処にはいつの間にか一人の女性が立っていた。
その女性は美しく。同性であるリリエルソですら惚れてしまいそうなほどの美人であり、リリエルソが今まで会ってきたどの女性よりも美しいと断言出来る。
もしかすれば帝国皇帝の妃よりも美しい言えるかもしれない・・・実際に会った事が無いので何も言えないが。
『はじめまして・・・私の名前はマリアティアス・V・ヘリエテレスと申します』
マリアティアスと名乗る女性はスカートを捲り、優雅にお辞儀をする。
その姿もまた美しく、気品に溢れている。
よく見ると顔だけではなくスタイルも抜群なようであり、着ている服も見事な物を着ている。
シスターなのであろうか、聖職者の衣装に身を包み、黒を基調とした色合いに所々に決め細やかな刺繍が施され、着ているスカートの両脇には十字架が描かれていて腰には分厚い・・・聖書らしき物を腰に下げている。
まるで天からの使い・・・聖女と言っても過言ではないほどの女性なのだが・・・その首には不釣り合いな首輪が嵌まれている。
胸の辺りで切れているが・・・
『・・・聖女さま?お迎えに来てくれたのですか?』
突如として現れたマリアティアスに混乱してしまい、思わず見たままを口にしてしまうリリエルソ。
そんなリリエルソを見て、少し照れくさそうに頬を赤らめるマリアティアス。
『お迎えに来たわけではごさいませんよ・・・お話をよろしいでしょうか?』
そう言いながらリリエルソの元まで近づき隣に座るマリアティアス。
どうみても異常な光景なのだがリリエルソは素直にマリアティアスを受け入れる・・・何故なら
(そっか・・・これは夢なんだ・・・きっと夢なんだね。だってそうでしょ・・・突然屋根が引き剥がされたと思ったら数十体の疫病の狂天使に、木の化け物。それにこんな綺麗な人が私の隣に要るんだからこれは夢なのね)
巨大な木の化け物に、数十体の疫病の狂天使、そして絶世の美女とのなんともありえない組み合わせを夢だと思い込んでしまうリリエルソ。
いや・・・むしろその方が幸せなのかもしれない。
理解出来ないと拒絶するよりは夢だと思い受け入れた方が楽なのだから。
『はい。喜んで!』
『それは良かったです。えっと・・・まず始めにこの屋敷の主・エヌジィ・ジェルマン・セカロン伯爵は何処にいますか?』
『あの男達なら地下に避難すると言っていました』
『なるほど・・・ありがとうございます。とても助かりました』
手を合わせてリリエルソの笑顔で感謝するマリアティアス。
その姿は一枚の絵画のようであり・・・リリエルソもまた笑顔になってしまう。
『あ、あの・・・聖女さまはどうしてこのような場所に?』
夢の中で何を言っているんだとリリエルソは心の中で自分自身に問いかけるが・・・聖女さま・マリアティアスは笑顔で答える。
『貴女方を救い、伯爵を懲らしめる為に来た』っと。
そう言われて思わず泣き出してしまうリリエルソ。
いい年の大人が人前で泣き出してしまうのはどうかしていると思ったが、どうせ夢の中なのだと思い込み・・・マリアティアスに抱きつき泣き出してしまう。
マリアティアス抱きつかれた最初はびっくりしたのか戸惑い、そしてゆっくりとリリエルソの後ろに手を回し抱き締めてくれる。
『よしよし・・・辛かったでしょうね』
そう言いながらリリエルソを撫でるマリアティアス。
伯爵邸に連れて来られてからというもの、リリエルソは言うのも憚られるような事を伯爵からされ、そして今日この日の為に過激な・・・事を散々されてきてしまったのだから。
リリエルソは地下で見た女性達の事を思い出す。
伯爵に、伯爵と同じような言うのも憚られるような趣味の連中の慰みものにされてしまった女性達の目には生気がなく、虚ろな瞳の女性や、常に怯えている女性達のことを。
『せ、聖女さま・・・私の他にも多数の女性が地下の牢獄に囚われてしまっています』
『夢の中で何を言っているんだ』っとリリエルソは思う・・・しかしリリエルソも本当は気がついているのだこの出来事が夢ではないと。
この地獄のような世界の中でも救いはあるのだと・・・
そしてこの聖女・マリアティアス・V・ヘリエテレルと名乗る女性ではあればそれが可能だと。
他の部屋からは疫病の狂天使と戦う音が聞こえ悲鳴も聞こえてきているが、そんなことはどうでもよいのだ。
『わかりました。それよりも・・・』
そう言いながらマリアティアスは自分の手に風の属性魔法を付与させ、風の手刀を作り出しリリエルソの足枷の鎖を断ち斬る。
その事にリリエルソが驚いていると、マリアティアスが懐に手を入れ・・・真っ赤な林檎を取り出す。
色艶がよくとても美味しそうな林檎だ。
リリエルソは思わず唾を飲み込んでしまう。
伯爵邸に来てからというもの食事は満足に与えて貰えず、そして時には不快な・・・下劣なトッピングがしてある時もあったのだ。
果物などの新鮮な果実が食事に出てくることは一向になかったので思わず唾が出てしまったのだ。
『お腹は空いてはいませんか?』
そう言いながらマリアティアスはリリエルソに林檎を差し出す。
その林檎を躊躇なく受け取るとリリエルソはかぶりつく。
林檎はその見た目通りに新鮮でとても瑞々しく、またこの林檎には蜜が入っていたようで甘く一噛みごとに幸せが訪れていくるようであった。
『美味しいですか?』
『はひ。とっへも』
『そうそれは良かったです・・・』
美味しそうに林檎を食べながら返事をするリリエルソ。
頬を膨らませながらむしゃむしゃと食べているとマリアティアスは笑いそして・・・
『貴女も導かれて何よりです』
そう言いながらマリアティアスはこの場を去る。
そして中央広間にはリリエルソが横たわっていた。
伯爵邸隠れ地下室
地下室には中央広間にた八名と、セカロン伯爵、そして執事の合計十名が避難している。
この地下室は大人数名が平気で寝泊まりが出来るような巨大化な地下室となっており、地下室と言っても一部屋だけではなく、伯爵秘蔵の葡萄酒の部屋、食料貯蔵庫、財宝部屋、そして魔導石部屋と複数の部屋がある。
そして今伯爵達は伯爵秘蔵の葡萄酒を飲みながら、薫製肉を食べている。
外での騒ぎが収まるまでこの地下室で凌ぐ算段なようだ。
『しかし・・・伯爵さまの屋敷を襲撃してくるとは余程の愚か者のようですね』
『然り・・・しかしながらその愚か者を侮ってはいけませんよ。足元をすくわれかねませんので』
『相変わらず伯爵さまは慎重派なようで』
そう言いながら伯爵と一緒に葡萄酒を飲んでいる小太りの男性。
どうやら伯爵達は伯爵邸が何に襲われているのか知らないようだ。
それもその筈である・・・この地下室はかなり頑丈に作られていて、地下室へは特定のルートでなければ入って来れなく、また地下室への扉もかなり分厚くできている。
『まだ警報は解除されていませんでした』
そう言いながら戻ってくる執事。
その表情は優れてはいなく疲れている感じだ。
警報が鳴り響いてから数十分は経過しているのにも関わらずに警報が鳴り止まないのは、襲撃して来た連中が多くまだ倒しきれていないからなのか・・・それとも襲撃して来た連中が強敵であったのか。
そんな事を執事が考えていると笑い声が響き渡る。
こんな時に・・・っと誰だと思い笑い声のした方向を見てみると、其処には葡萄酒のボトルを手に持った一人のまだ若い男が笑っていて、酔っているのか顔は赤らんでしまっている。
『執事さんよぉ・・・そんなに気にする必要はねぇんじゃねぇか?』
『しかしシグレスさま油断は禁物ですので』
『そんなことはねぇって・・・だって伯爵様のバックにはあの大貴族・グレン・カツラズラ・ストレーツ公がいるんだからよぉ!』
そう言いながら持っている葡萄酒をラッパ飲みする男。
どう考えても酔っており、この事態を全く気にしている様子はない。
酔っている男に同調するように口々に『そうだ。気にする必要はない』っと他の男達も頷いたりしている。
しかし・・・そんな男達の期待を裏切るように運命は動き出す。
突如として地下室の扉が音を上げて軋み始めたのだ。
ミシミシと音を立てながら・・・少しではあるが扉がゴキリッと音を立てずれる。
すると少しずれた扉の隙間から木の枝のような物が地下室へと侵入してくる。
まるで水が亀裂に浸透するように木の枝は少しずつ地下室へ侵入してくると・・・その影響からなのか扉がだんだん形を変え・・・ぶち破られる。
『ひ、ひぃぃぃ!?な、何なんだよ!?』
『こ、これは一体!?』
『な・・・何かいるのか?』
扉をぶち破られた事によって驚愕している伯爵達。
さっきまで葡萄酒を片手に持っていたシグレスは尻餅をつき、酔いが覚めたのか目を見開いてしまっている。
そして・・・ぶち破られた扉から一人の女性が地下室へと入って来る。
『お、お前は!?』
入って来るた女性を見て再び驚愕する。
何故なら地下室へと入って来た女性の名前はマリアティアス・V・ヘリエテレス・・・伯爵が死刀の黒狼に拉致するように依頼したターゲットだからだ。
『貴方がエヌジィ・ジェルマン・セカロン伯爵様ですか?』
そう言いながら伯爵の方を指差すマリアティアス。
マリアティアスのその行動に対して執事が伯爵を守るように立ち、腰に帯刀している刀に手を掛ける。
マリアティアスが不審な行動をした際に直ぐに抜刀出来るようにする為だ。
『伯爵様の知り合いですか?』
『なんと美人な・・・それにスタイルも抜群だ!』
『こ、この事態を引き起こしたのはまさか・・・』
突然現れた絶世の美女と言えるマリアティアスの姿を見て興奮する者や、何故このような場所に現れるのか不思議に思う者等様々な反応をしている男達。
『やっぱり貴方がエヌジィ・ジェルマン・セカロン伯爵様なのですね』
男達の反応を確認や、執事の動き、この場の雰囲気で伯爵を見事に見つけ出すマリアティアス。
その事に対して執事、伯爵の顔色は優れていない。
当然である。
自分たちが拐おうとした女性がいきなり目の前に自ら現れたのだ。
それに・・・自分の屋敷の地下室に、鋼鉄の分厚い扉をぶち破って入って来たのだ動揺しない方がどうかしている。
『い、いかにも私がエヌジィ・ジェルマン・セカロン伯爵だ。し、シスター様はどのようなご用件で此方に来られたのかな・・・?』
緊張し、言葉が思うように出ないながらも懸命に、マリアティアスの反感を買わないように話しかける伯爵。
その額からは雨粒程の汗をかいている。
『実は伯爵様にお願いしたい事があって来たのですが・・・』
そう言いながらマリアティアスは恥ずかしそうに、頬を赤らめながら伯爵に話しかける。
その行動に興奮する伯爵、執事以外の男達。
絶世の美女の恥じらいながら懇願してくるのだ男であれば気持ちが揺らぎ、興奮してしまうのも仕方のないことだ。
特に・・・このような下劣な趣味を持っている男達であるなら尚更だ。
『そ、そのお願いとは何かね・・・』
『そうですね・・・とりあえずは帝国で活動している裏の組織について、そして貴方がよく利用している奴隷売買をしている者達のリストを貰えないでしょうか?』
そういい終えるとぶち破られた扉から複数体の疫病の狂天使が地下室へと侵入してくる。
悲鳴を上げて、マリアティアスに助けを求める男達だが・・・疫病の狂天使の暴虐は止まらない。
『エヌジィ・ジェルマン・セカロン伯爵様・・・貴方だけは助けて差し上げます。私の望む物をくれるのであれば』
そう言いながら伯爵に笑い掛けるマリアティアス。
その笑顔はとても魅力的であり、とても狂気的であった・・・




