25 vsジェノサイドキッカー
次回、ジェノサイドキッカーの反撃…!
それと新作小説を掲載いたしました。
本作がお好きな方でしたら、同じく楽しんでいただけると思います。
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紫煙ただよう薄暗いバーのなかに、俺はいた。
周囲にはソファに脚を投げ出して座るガキども。
右手にはタバコ、左手には鎖が握られている。
鎖の先は、足元に跪く女の首輪に繋がっていた。
犬のように四つん這いになっている女の背中は、主人の足置きになっている。
女たちは屈辱的な扱いも文句ひとつ言わず、主人の靴に熱心に舌を這わせていた。
その倒錯した世界の最深部……玉座のような豪華な椅子に座るガキが、俺に向って口を開く。
「まさか、探してた壺仮面がノコノコと俺のアジトにやって来るとはねぇ……」
玉座のまわりには、四人の女たちが取り巻いている。
肘かけの前にかしずくふたりの女は、酒とタバコを手にしており、王に向って捧げていた。
足元の女は右と左、ガキのそれぞれの革靴を舐めている。
俺はよくわからない世界観に困惑しきりで、後頭部をボリボリと掻いていた。
「なぁ……ひとつ聞いていいか? 女どもに靴を舐めさせてるのは、何か意味があんのか?」
すると、どっとした嘲笑が俺を包む。
「ハッハッハッハッハッ! この壺野郎、なかなか面白れぇじゃねぇか!」
「ああ! そのマスクはスベってるけど、ギャグセンスあるぜ!」
「イイ男ってのはなぁ、女に靴を舐めさせるもんなんだよ! そんなこともわかんねぇーのかぁ!?」
「まぁ、マスクなんざ被ってるところを見ると、マトモに見れねぇほどブサイクなんだろ!」
「ブ男には一生わかんねぇーだろうなぁ、この気持よさ! ギャーッハッハッハッハッ!」
たしかに理解できなかったので、俺は本気で首を傾げる。
「……首輪で繋いでるってことは、女たちはすすんでやってるわけじゃねぇんだろ? なんでそれがイイ男ってことになるんだ?」
「ああん!? ナニ言ってんだテメェ!? 俺たちがムリヤリやらせてるとでも言いてぇのか!?」
「おい、言ってやれ! 俺たちの靴が、舐めたくてたまらねぇってことをな!」
ひとりのガキが手にしていた鎖を、乱暴に引っ張りあげる。
足元の女を首輪で吊り上げ、無理矢理に上を向かせていた。
女はアザだらけの顔を歪めながら、震える声を絞り出す。
「は、はひ……くつ、なめたい……ですっ……」
「ホーレみろ、どうだ! 女たちは俺たちの靴が舐めたくてたまらねぇんだ!」
「本当は靴以外の所が舐めたいんだけどな、それは躾のためにおあずけにしてあるんだ! 夜までガマンできねぇから、こうやって靴を舐めてんだよっ!」
下卑た笑い声が、あちこちから沸き起こる。
俺は、話が通じねぇなぁと思っていた。
「いや……完全に言わされてるじゃねぇーか。それにお前らがイイ男かっていうと、正直微妙だし……」
すると、跪いていた女たちからクスクス笑いが起こる。
どうやら笑いのツボを突いてしまったらしい。
プライドを傷つけられた微妙なツラのガキどもが「なんだとぉ!?」と一斉に立ち上がる。
「……待て」
玉座から立ち上がり、奥から歩み出てくるボスらしきガキ。
熱くなっていた番犬どもは、まさに主人から待てを命令された犬のように引き下がった。
「お前さんが、このたまり場のボスか」
俺のすぐ前まで歩いてきたボスは、斜に構えたニヤケ顔で、ハンと笑い返してくる。
「そうやって、知らないフリして強がって………無理すんなよ、壺野郎」
知らないフリして、って、本当に知らないんですけど……と思っていたら、ボスは鋭い蹴りを放ち、俺の眼前で寸止めした。
「これで思い出したか……『精鋭高専』の『ジェノサイドキッカー』を……!」
周囲が「ヒューッ!」と囃し立てる。
「出たあっ! ジェノサイドキッカーさんのカミソリキック!」
「相変わらず、白い靴がまぶしいぜ!」
「知ってるか!? あの靴、元々は黒い革靴だったらしいぜ! 数え切れないほどの女に舐めしゃぶられて、あんなに白くなったんだと!」
「エナメルみてぇに真っ白なのに……マジかよっ!? どんだけ多くの女をコマしてきたっていうんだよっ!?」
「そう、女にモテすぎるあまり、ついたもうひとつの名が『ハーレム王』……!」
「ああ、壺仮面のヤツ、完全にビビってやがる……! カチコチに固まってやがるぜ!」
「殺人キックにハーレム王……! ふたつの偉大な称号を併せ持つ男を前にしたら、誰だってそうなるって!」
「だよなぁ、男としての器が違いすぎる……! ビビっちまうのも無理はねぇーって!」
「そのうち漏らしちまうじゃねぇーのか!? ギャーッハッハッハッハッハッ!」
『ハーレム王』とやらは、黒いワイシャツを袖まくりしていた。
両腕にはびっしりとタトゥーが入っている。
「『ハーレム王』ってわりには、女に愛されたことはないんだな」
「……なに?」
靴の裏を向けたまま、睨み返してくるハーレム王。
「そのタトゥー、ぜんぶニセモノだろ? 女から本当に愛されているのであれば、真実の愛を示すアザが浮かび上がるはずだ」
すると、大爆笑がバーを席巻した。
「ぎゃーっはっはっはっはっは! くるっ、苦しい! マジ、マジ苦しいっ!」
「ひゃーっはっはっはっはっはっ! し、真実の愛だってよ!」
「わーっはっはっはっはっはっはっ! 真実の愛のアザを信じてるなんざ、おとぎ話の見すぎだって! 乙女かよ!? へんなマスク被ってるクセに、ロマンチスト!」
俺はまたしても、首をかしげた。
「……でも、お前ら全員腕に真実の愛っぽいタトゥーしてるじゃねぇか。おとぎ話とバカにしつつも憧れてるんだろ? 女からの真実の愛に」
「う……うるせぇよ! 顔も見せらんねぇようなブ男に、言われたくねぇーよ!」
「そうだそうだ! そのマスクを取りやがれ! 女どもの前で、笑いモノにしてやらぁ!」
再び挑みかかってこようとする雑魚ども。
しかしボスからひと睨みされて、すごすごと腰を降ろす。
「お前らは手ぇ出すな。この壺野郎は俺がやる。『皆殺しのジョニー』をヤッたヤツだ……タイマンでやらなきゃ、『ジェノサイドキッカー』の名がすたるってもんよ」
「いいけど……足、ずっとあげてて疲れねぇか?」
「シュッ!」
入れ替わるように一閃した右の蹴りを、俺はスウェーしてかわす。
ヤツは軸足を入れ替えてもなお、飽きもせずに足を振り上げたままだった。
そして、唖然としていた。
蹴りが当たったと思ったのによけられちまったから、ビックリしてるんだろう。
ニヤケ顔からも笑みがすっかり消えている。
周囲の雑魚どもも「やった!」と立ち上がったのだが、ぬか喜びに終わっていた。
「あの……揃ってアホ面してるとこ悪いが……お前の左足は、もう使えなくなっちまったぞ」
すかさずヤジによる反論が飛んでくる。
「なぁーに言ってんだ壺野郎、偶然かわしただけのクセに!」
「百歩譲ってなんかしたとしても……蹴ったのは右足だ! 使えなくなるとしたら右足だろ、バーカっ!」
「左右もわからねぇなんて、小学生かよ! おハシを持つほうが右で、お茶碗を持つほうが左でちゅよー!? ぎゃーっはっはっはっはっはっ!」
部下の罵りに笑みと余裕を取り戻したボスは、ゆっくりと右の蹴り足を降ろす。
カーペットの床に接地させようとした瞬間、
「うぎゃああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーっ!?!?!?」
麻酔なしで歯を抜かれたような絶叫とともに飛び上がる。
「……溶岩の中に、足を突っ込んだみたいだろ……? お前の右足は、もう床に付けられない……。だから左足は、もう蹴り足として『使えない』……これでわかったか? って、聞いちゃいねぇか」
ボスは俺に背を向け、キンタマを蹴り上げられたみたいに片足でぴょんぴょん跳ねまわっていた。




