24 強い男の証
「ふざけんなあっ!? テメェ、怪しげな術を使いやがってぇ! ウチのチャンピオンを使い物にならなくしたオトシマエ、どうつけてくれんだぁ!?」
ジョニーを連れ、へんてこクラブを後にしようとする俺を……ボスはダァンとテーブルを叩いて呼び止めてきた。
「なんだよ、チャンピオンを倒したら『オトシマエ』のかわりにしてくれるって言ったじゃん。じゃあ次はどいつを倒したら許してくれんだよ」
「テメェ自身の命で償うんだよっ! やっちまえっ!」
周囲を囲んでいた黒服どもが、飛び出し式のナイフを手に襲いかかってくる。
俺はひょいとかわして、目と目の間を突いた。
「うがっ……!? 目、目が……目がぁぁぁぁーっ!?」
「な、なにも……なにも見えねぇっ!?」
「な、なんだ!? いきなり真っ暗だっ!? 真っ暗になっちまった!?」
ナイフを取り落とし、両手で目を押さえてうずくまる黒服ども。
「……そのナイフで女どもの目をえぐってきたんだろ? それで、少しはやられる側の気持ちがわかったか?」
俺はそう言いながら、マスクのアップリケをひっくり返した。
そしてボスのほうに向き直る。
「な、なんなんだよ……お前……!? そのマスク……怒ってんのか……!? そ、そんな脅しがこの俺に通用するとでも……ヒイッ!?」
震え上がるボスの首根っこを掴んでやると、シャックリみたいな声をあげた。
「そんなに怖がらなくてもいい。むしろ怖いモノを見なくてすむようにしてやっから……未来永劫に……」
貫禄のある顔のシワも、今では情けないほどに震えている。
ほうれい線の刻まれた鼻筋のあたりを、チョンと押し込む。
「うううっ!? めっ……目が……!? 目がぁぁぁぁぁっ!?」
するとボスは、焼けた油を眼球に垂らされたみたいに、ソファの上でのたうち回りはじめた。
この『Fクラブ』のVIPルームは、もはや地獄絵図の様相を呈している。
そういう責め苦の地獄があるかのように、誰もが目を押さえて絶叫していた。
いつの間にか客どもは全員いなくなっていて、下の格闘場はもぬけのカラ。
下敷きになったままのチャンピオンが、ひとりさびしく倒れていた。
裁きの一部始終を目の当たりにしたジョニーは、すっかり落ち着かない様子で目を泳がせている。
「あ……アンタ……いったい、何を……何をやったんだ……?」
「ああ、ちょっと目を見えなくしてやっただけだ」
「ちょ、ちょっとって、そんな……! ううっ!?」
マスクごしに俺が睨んでいることに気づいたのか、ジョニーはビクッと肩を震わせる。
「……お前はそれと同じことを、女相手にやろうとしてたんじゃねぇのか?」
「そ、それは……しょ、しょうがねぇだろ! 強くなるために……必要だったんだ! この『Fクラブ』のファイターになるために……! 『Fクラブ』のファイターになれば、最強の男に……暴力で稼げる男になれるって……!」
「……女を虐げるヤツが強いだなんて、俺は認めねぇよ。ところで、女たちはどこに囚われてるんだ? 案内しろ」
「……助け出すつもりか? やめとけよ、女たちを逃がさないために目を見えなくしてるんだぞ? 自由にしてやったところで、すぐにまた他のヤツらに捕まって、似たようなことをさせられるのがオチだ……!」
「いーから、案内しろって」
不承不承のジョニーから案内されたのは、『Fクラブ』のバックヤードだった。
人が近づいてきた気配がわかるのか、牢屋に入れられたボロ布一枚の女たちは、怯えたように身を寄せ合っていた。
「……でかい錠前だな、こりゃ開けられないから、あきらめたほうが……」
……ゴトン!
ジョニーが言い終わるより早く、俺は漬物石みたいなごつい錠前を破壊していた。
格子戸を開けて中に入ると、女たちは隅っこに這い逃げていく。
「お願い……もうやめて……もう許してください……」
「痛いの、嫌ぁ……もう痛いの、嫌なのぉ……」
「もう……乱暴しないで……お家に……お家に帰してぇ……」
宙に視線をさまよわせながら、いやいやと顔を振る女たち。
俺はその一人の腕を掴む。すると、狂ったように暴れだした。
「いやあっ!? もういやあっ!? 大勢の前で見世物みたいに乱暴されるの、もういやあああっ!?」
「……落ち着け、俺は助けに来てやったんだ。ちょっと、じっとしてろ」
俺は、そっと女の頬に手を当てる。親指で、女の瞼を開いた。
瞳の形は崩れ、白い膜に覆われたようになっている。
両手を使って、ひとさし指でこめかみを、親指で目頭のあたりを押してやった。
「……これでよし、すぐに目が見えるようになるぞ」
すると、女は信じられない様子で目を瞬かせていたかと思うと、
「……え……? う、ウソ……? み、見える……!? ずっと見えなかったはずの目が……!?」
何十年もさまよっていた暗闇の洞窟から出て、外のあまりの眩しさに困惑するような表情。
それに加えて宝くじの1等に当たったかのような、戸惑いが入り混じった表情。
女は喜びとも悲しみとも、悩みとも驚きともつかない、複雑な表情を浮かべていた。
しかし……希望だけは確かに感じとれる。
先ほどまで瞳は型くずれしたうえに濁っていたのだが、いまや宝石のように澄み、輝いていた。
「……よし、お前はもう自由だ。もうここを出てもいいんだが……ちょっとだけ外で待っててくれるか?」
「……は、はいっ!」
女はまだ現実が受け入れられていないような表情だったが、素直に頷くと、牢屋の外に出て待機してくれた。
ひとり治した時点で、女たちはもう暴れなくなった。
黙って俺の治療を受け、視力と希望に満ちた表情を取り戻し、牢の外へと出て行く。
その最中、『Fクラブ』の関係者らしき男たちが入ってきたのだが、ジョニーがのしてくれた。
囚われの女たちを全員治したあと、俺は紙とペンを借りて一筆したためた。
それを女たちに、服と一緒に渡す。
「生活に困ったら、この手紙を持ってハイラウトかダリスかタラッティアへ行け。手紙があれば魔力列車もタダで乗せてもらえるはずだ」
解放するだけでは、またロクでもねぇやつらに捕まっちまう……そう考えた俺は、ここでちょっと王の権力を使わせてもらうことにした。
俺の直筆の手紙があれば、俺が統治する国では厚遇を受けられるようにしてあるんだ。
女たちはこの国にはもういたくないらしく、そろって他の国へと行くという。
俺とジョニーは駅まで女たちを見送ってやった。
列車の窓から身を乗り出し、見えなくなるまで手を振ってくれた女たち。
軽く手を振り返してやる俺に、ジョニーは言った。
「……なぁ、壺仮面……アンタ、本当に何者なんだ……? 裏社会のヤバいヤツらを相手に、ひとりで戦って……店を乗っ取るどころか、女たちを助けてやって……そのうえ、そのあとの生活まで面倒見てやるなんて……」
「女は守る。それは男として当然のことだろ」
「女を守るのが、当然……? 自分の女でもねぇのにか?」
「ああ。助けを求めてるならな」
「……アンタみたいな男、初めてだよ。いままで会ってきた強いヤツは、みんな女を虐げてきたのに……俺はそれが、強い男の証だと思ってたのに……」
「弱い女を虐げるだけなら、強い男じゃなくてもできるだろ。でも弱い女を守るのは、強い男じゃないとできねぇんだ」
「女を守るのは、強い男じゃないと、できない……か、そうかもな」
噛みしめるようなジョニー。
俺は豆粒のようになった魔力列車を眺めながら、大きく伸びをした。
「さぁて……時間がかかっちまったが、ジョニー。お前はどこの学校だったっけ?」
「……え? 俺か? 俺は……『マルヴァチタ義賊学校』だけど……」
「そうか、じゃあ、コイツにサインしてくれるか?」
バッ! と俺がジョニーに突きつけたのは……『タワークエスト』の同盟用紙だった。
次回、ジェノサイドキッカーと対決…!
それと新作小説を掲載いたしました。
本作がお好きな方でしたら、同じく楽しんでいただけると思います。
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓




