08 デコボコ生徒会の挑戦
ワーワーキャーキャーという悲鳴から逃れ、俺はひと気のない塔の隅っこに来ていた。
ここまで来れば、追われることもないだろう……と思い、梁の上に腰掛けてひと息ついていると、下の小部屋にいるプリーストローブの三人組が目に入った。
一瞬、追っ手か!? と勘違いしてビビっちまったんだが、どうやら他校の生徒らしい。
ウチの学校よりだいぶ質素なクリーム色のローブをまとう少女たちは、なにやらひそひそ話をしていた。
高身長、普通、低身長と、見るからにデコボコトリオといった感じの三人娘。
あたりが静かなせいか、聞き耳を立てるつもりもねぇのに自然と話し声がこっちまで届く。
「ここまで来れば、ひとまずは安全ですわね」
三人のなかでもひときわ小さな、地底族の女の子が仲間のふたりを見上げながら言った。
「クリエル会長、これからどうします?」
事務的な口調で応じたのは、三人のなかでも中くらいの平地族の女の子。
クリエル会長と呼ばれたちびっ子は、飾りのついたゴムで髪を子鹿みたいに結い上げている。
頭を動かすたびにぴょこぴょこしてかわいらしいが、その子供じみた髪型とは反比例するような、落ち着いた表情だ。
「落ち着くのです、リリンド副会長。今回の『タワークエスト』では失敗は許されませんから、慎重にまいりますわよ」
しかし、三人組ではいちばん大きな高原族の子が、我慢できなさそうにどすんどすんと身体を上下させた。
「クリエル会長ぉ! 今回の『タワークエスト』でいい成績を取らないと大変なことになるってウワサ、やっぱり本当だったんですねぇ!? だったら早くしましょうよぉ!」
そう言いながら大きな貧乏ゆすりをするたび、ローブの上からでもわかるほどの、大きな胸がぶるんぶるん揺れる。
たまらなく肉感的だが、髪はおだんごで顔は草食系の眼鏡っ子と、会長に負けないギャップを放っている。
「落ち着いて、レイアン書記。まずは、クリエル会長の話を聞きましょう」
大きなレイアン書記を見上げながら、たしなめるリリンド副会長。
リリンド副会長は、切りそろえられたぱっつんのおかっぱ頭に、起伏の少なそうな表情。
他のふたりのようなギャップはなく、ひたすら無表情を貫いている。
呼び方からするに、三人は生徒会の人間なのかな?
小さな地底族が、クリエル会長。
中くらいの平地族が、リリンド副会長。
大きな高原族が、レイアン書記。
マトリョーシカみたいな三人組が会話している様は、なんだか滑稽だ。
特に間に立つリリンドは、話す相手によって見上げたり見下ろしたりと忙しい。
「そのウワサというのは本当なんですか? クリエル会長」
「……レイアン書記の言うとおりですわ。今回のタワークエストにおいて、我が『イポモニ純真女学院』が最優秀賞を受賞しなければ、我が校は大変なことになる……それは間違いありませんわ」
「大変なことって、何なんですかぁ!?」
「まさか……クリエル会長……?」
クリエルは、リリンドとレイアンを交互に見つめる。
首が疲れそうなポーズを維持したまま、こくりと頷いた。
「そう……。女神イラーハを最初に崇拝したという、伝統ある我が『イポモニ純真女学院』が……廃校となってしまうのですわ……!」
「ええええーーーーーーーーーーっ!?!?」
衝撃の告白に、ひとり絶叫するレイアン書記。
すでに予想していたのか、リリンド副会長は眉ひとつ動かなさい。
「しっ……! 静かになさい……! よからぬ輩に見つかってしまいますわ……!」
クリエル会長はレイアン書記の口を塞ごうと、手を伸ばしてぴょんぴょんしているが、ぜんぜん届いていない。
かわりにリリンド副会長が背伸びをして、レイアン書記の口を塞いでいる。
話してる内容はシリアスだが、デコボコトリオのやりとりは見ていてなんだか微笑ましい。
俺が秘かにやさしい気持ちになっていると、ふと遠くから、『よからぬ輩』っぽいヤツらがゾロゾロと歩いてくるのが見えた。
俺は鉄骨を伝って、よからぬヤツらの元へと行ってみる。
「なぁー、ホントにいるのかよ? その、イロモノ女学院とかいうヤツらが」
「おうよ、ヤツらは人間を攻撃できねぇから、いつも隅っこのほうに隠れてんだよ」
「なんで人間を攻撃できねぇんだ?」
「なんか、女神の教えを守ってるらしいぜ、人間は傷つけちゃダメなんだとよ」
「人間は傷つけちゃダメって……この『タワークエスト』じゃ、狩ってくれって言ってるモンじゃねぇか」
「おうよ、だから『タワークエスト』でも万年最下位……ヤツらは必死になってポイントを稼ぐんだが、いつもブン取られてるんだよな」
「ヤツら何をしても抵抗してこないんだぜ、ひっかくのもダメなんだとよ」
「マジかよ? それじゃ、やりたい放題じゃねぇか」
「そう、だから他の学校のヤツらに持ってかれちまう前に、俺たちで頂いちまわねぇとな……!」
「それに……ヤツらはすぐリタイヤしちまうんだが、今回はそれもさせねぇ……コイツで繋いで、逃がさねぇようにするつもりだ」
「そうか……それで首輪を持ってきてんのか」
「おうよ、この首輪で犬っころみたいで引きずりまわして、ポイントを稼がせるってわけよ」
「女学院ってことは、女ってことだよな……!? まずは俺たちで味見したあと、塔の外で客を取らせれば……いいポイント稼ぎになるじゃねぇか……!」
「でもよ、この『タワークエスト』は中継されてるんだろ? そんなことしてバレたら、ヤバくねぇか?」
「いや、『タワークエスト』には多くのヤツらが参加してるから、ぜんぶは中継されねぇ。主に中継されるのは、成績上位の学校の、主力のヤツらだけ……。俺らみてぇなはぐれ者と、万年最下位の学校じゃ、中継なんて来るわけがねぇんだ……!」
「なるほどぉ……! それじゃ、やりたい放題ってわけか……!」
「そうか……それなら俺も安心して、やりたい放題できるな」
「……なっ、なんだテメェ!? いきなり降りてきて、ビビらせんじゃねぇよっ!」
「あっ、コイツ……! たしか壺仮面とかいう最低ランクのヤツじゃねぇか!」
「ちょうどいい、イロモノ狩りの前に、コイツを首輪にかけてやろうぜ……!」
「そりゃいいな……! ハダカにひん剥いて、塔の外にでもぶらさげてやるか……!」
「そのニヤけた壺の仮面も、ひっぺがしてやらぁ……!」
俺は、剃りこみやモヒカン、逆立てた髪のDQNどもを見据えながら、マスクの前面を手で覆う。
マスクにあつらえてある『笑う人面壺』はアップリケになっていて、動かせるようになっているんだ。
壺が180度回転したのを見て、DQNども一歩後ずさった。
「なっ……壺の顔が、ひっくり返った……!?」
「ニヤけ顔が、怒り顔に変わったぞ……!?」
「なんだ……!? 怒ってる、ってことか……!?」
「しゃらくせぇ! F- - -の雑魚が怒ったところで、何ができるってんだ! それに、こっちは10人……! かまわねぇ、ギタギタにしてやれっ!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「リリンド副会長、レイアン書記……わたくしは必要とあらば、今回ばかりは悪鬼羅刹になるつもりですわ……!」
「ま……まさか……クリエル会長……! 掟に背くつもりですかぁっ!?」
「だから、今回の『タワークエスト』では、塔に入るのは生徒会だけに限定したんですね」
「そう。他の生徒たちには、塔の外で奉仕活動をするよう命じてありますわ。全校生徒の代表であるわたくしが、掟を破る姿など、見せるわけにはまいりませんから……!」
「でっ、でもぉ、クリエル会長って、もうすぐ卒業じゃないですかぁ!? 女神イラーハ様の掟を破ったりしたら、退学させられて、進学もできなくなりますぅ……!」
「かまいませんわ……! あなたたち後輩を、廃校で悲しませるくらいなら……わたくしは喜んで、地獄にも落ちますわ……!」
「く……クリエル会長ぉぉぉん!」
「むぎゅっ!? は、離しなさい! レイアン書記っ……!」
「……そろそろ移動しましょう。長居しすぎると、他校の生徒に襲われます。レイアン書記、そのままクリエル会長を抱っこしたまま移動して」
「はっ……はいぃ! もう絶対、クリエル会長を離しませぇん!」
「むぎゅーっ!?」
素人くさい忍び足で、部屋を出ようとする三人娘。
しかし廊下に出たとたん、首吊り死体のようにぶら下がっている10人のDQNどもを目の当たりにし、ハッと息を呑んでいた。
「ひゃあああああんっ!?」
「落ち着くのです、レイアン書記。彼らは死んではいないようですわ。その証拠に、もがいていますわ」
「どうします? クリエル会長」
「もちろん、助けるに決まっていますわ……!」
「了解しました」
それだけで意図をくみとったリリンド副会長は、天井に向かって手をかざす。
すると真空刃が放たれ、DQNどもを吊ったロープを切り落としていった。
ドサドサと地面に落ちるDQNどもに、駆け寄っていく三人娘。
「まぁ、お怪我をなさってますわ。リリンド副会長、レイアン書記、手分けして治してさしあげましょう」
「はぁい!」「了解しました」
三人娘の治癒魔法によって、俺が痛めつけたDQNどもは、健やかに回復していく。
あーあ、ソイツらは、お前らを狩ろうとしてたヤツだぞ……。
助けるだけならまだしも、ケガまで治してやるなんて……底抜けにお人好しな生徒会だな……。
俺は、のっけから先が思いやられるぜ……なんて思いながら、梁の上から見守っていた。
次回、デコボコ生徒会とともに…!
それと新作小説を掲載いたしました。
本作がお好きな方でしたら、同じく楽しんでいただけると思います。
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