07 裁かれる神
俺は市場のようになっている、塔の二階入口から離れ、他のところの様子も見て回った。
この『タワークエスト』では攻略のパターンがあるようで、まず先発隊がモンスターを狩り、あらかた安全を確保したところで他のメンバーが合流、空き部屋などにキャンプを張り、そこを拠点にしてシラミつぶしに探索する。
なにもなければ別エリアへと移動して、同じパターンを繰り返す……というのが一般的なようだ。
俺は天井にある梁の上からただひたすら、参加者たちが活躍する様を応援していた。
それにしても、梁の上はラクチンだ。
地上には壁があるが、天井はその壁に欄間のようなスキマがあって、そこを通って移動できちまうんだ。
『制空権』と称して学校間が争い、独占したがるのも理解できる便利さだ。
俺が鼻歌まじりに空の散歩を楽しんでいると、ふと、眼下に白いローブの集団が見えた。
プリーストローブに身を包んだヤツらが、跪いて祈りを捧げている。
あれは……ウチの学園の法力科の生徒じゃねぇか?
魔力というのは学問だが、法力というのは女神の力を借りて発動する。
そのため活動前にああやって女神に祈りを捧げて、力を高める必要があるらしい。
部屋の中に陣取って、即席の聖堂を作っているプリースト集団。
部屋の入口ではクロスボウを持った女生徒たちが警備している。
なるほど、ああやって見張りを立てて、祈りを邪魔されないようにしてるのか。
それにしても祈りの儀式って、一体どんなことをやるんだろうな。
興味がわいてきた俺は、ちょっとだけ覗き見することにした。
「……我ら崇める御空、我ら崇める御国、我ら崇める御名。女神イラーハ様、そして
火串タクミ様……どうか我々に、子羊を健やかにするための力を、お与えください……」
揃って唱和している祈りの言葉に、なんだか聞き捨てならない単語が混じっているような気がした。
「我々は、火串タクミ様にすべてを捧げます。我々の心と身体はタクミ様とともにあり、タクミ様のために生きていくことを、何よりもの喜びとしています。純潔はタクミ様のために守り、生命はタクミ様のために捨てる……タクミ様の御言葉は天からの御言葉、我々は決して背くことはいたしません……」
……かつて学園にテロリストたちが襲来したとき、法力科の生徒たちの信仰を踏みにじっていたテロリストを、俺がブッ倒したことがあった。
それ以来、法力科の生徒たちはなぜか俺のことまで崇拝するようになっちまったんだ。
でも正直なところ、やめてほしい……。
いままで通りに、女神イラーハだけを崇拝してりゃいいのに……。
ヤツらは転生者である俺を、女神と同義に見立てて崇めてくるんだ。
「我らが主にして、我らが神、タクミ様……! どうしてあなた様のお目々はそんなに鋭いのですかっ? そう、それは全ての悪を見逃さぬため……! どうしてあなた様のお耳はそんなに尊いのですかっ? そう、それはどんな悪巧みも聞き逃さぬため……!」
背筋がムズ痒くなるような言葉とともに、胸の護符を手に取るプリーストたち。
ロケットのようにパカッと開くと、中から俺の写真が現れる。
あっ……!? アイツら、いつの間に俺の写真を……!
しかもあのタリスマンって、プリーストが肌身離さず持ってるヤツじゃねぇか……!
俺は開いた口が塞がらなくなってしまった。
主からそんな気持ちを抱かれているとも知らず、純白のローブの女たちは、揃って俺の写真を頭上に掲げ、ハハーッとひれ伏している。
……あれ? そういえば……この部屋には女のプリーストしかいねぇな。
法力科には男のプリーストもいたはずだが……?
あたりを見回してみると、男どもは別室で同じような祈りを捧げているところだった。
なんで、別のとこでやってんだ……?
部屋が狭くて全員入れないってわけでもなさそうなのに……?
と思っていたら、すぐに理由がわかった。
女たちは祈りを終えると、持参していたタライに樽の水を注ぎだしたんだ。
そして次々と、衣服を緩めていく。
どうやら、沐浴をするようだ。
塔のなかで沐浴とは……儀式とはいえ、プリーストも大変だなぁ。
下っ端っぽい女生徒が、タライに水を注いでいたんだが……誤って水を床にこぼしそうになっていると、リーダーらしき女生徒からすかさず激を飛ばされていた。
「絶対にこぼしてはなりませんよ! これは聖水……! タクミ様の入浴後のお風呂から授かった、神聖なる残り湯なのです……! たとえ一滴でも無駄にしてはなりませんよ!」
「すっ……すみませんっ!」
「私たちに謝るのではなく、タクミ様に許しを請うのです。タクミ様はいまタラッティア王国におられます。ここからだと、北東の方角です」
リーダーらしきプリーストに言われた女生徒は、いま俺がいる方向とは真逆の方角に向かって土下座しはじめた。
「もっ……申し訳ありませんっ、タクミ様……! タクミ様の神聖なるお身体に触れた水を、私は粗末に扱ってしまいました……! どうか、どうか、お許しくださいっ……!」
女生徒は涙声で、額を床にこすりつけている。
「もうよいでしょう。ただし、学園に戻ったらきちんとタクミ様にお詫びするのですよ?」
「は……はいっ! タクミ様にお許しいただけるまで……一生かかってもお詫びし続けますっ!」
女生徒は涙で頬を濡らしながら、決意を新たにしていた。
……学園にいるとき、法力科の生徒が死にそうな顔で俺の元まで走ってきて、いきなりスライディング土下座をするというのがたまにあった。
ソイツは足にすがりついてきて、おいおい泣きながら許しを請うんだ。
あの時は何がなんだかわからなくて、困惑するばかりだったんだが……今ようやく、あの奇行の正体がわかったような気がした。
まったく……!
人の写真をお守りにするだけならまだしも、風呂の残り湯で沐浴するなんて……!
挙句の果にはそれをこぼしたからって号泣されても、俺ぁ知らねぇよ……!
それに行動だけ見ると、まるで変態ストーカーみてぇじゃねぇか……!
全員もれなく可愛いから、許しちゃうけど……!
でも……彼女らだけならともかく、男側のヤツらも同じことやってるんだよなぁ……。
うーん……そっちはあんまり許したくねぇなぁ……。
俺は鉄骨の上に腰掛け、複雑な思いを抱いていた。
その間にも、地上の女どもは次々と肌を露わにしていく。
純白のローブにも負けない白い滑やかな肌。
青い果実のような身体が、花瓶のようにキュッと締まった身体が、はしたなく胸部がもりあがった身体が、キャッキャッとふざけあっている。
「ああーっ、また胸が大きくなってるぅーっ!」
「あんっ、もぅ、やめてよぉ!」
「この子、タクミ様のためにずーっとバストアップしてるんだよ!」
「えっ、マジでー!?」
「だって……タクミ様って、お風呂でよくクーレ先生の胸をご覧になってらっしゃるから……大きな胸がお好きなのかな、って思って……」
「そうだよねぇ、タクミ様ってよくクーレ先生をご覧になられてるよね……いいなぁ! 私もタクミ様からじーっと見つめていただきたーいっ!」
「うーん、私もなるべくタクミ様の視界に入るようにしてるんだけど、なかなかご覧になっていただけなくって……キャアアアーーーッ!!」
ふとした拍子に、ひとりの女生徒が天井を仰ぎ……俺と目が合ってしまった。
俺の存在に気づいた女たちは、悲鳴とともに次々としゃがみこむ。
「いやああーーっ! 覗かれてる! 覗きよぉーっ!」
「きゃあっ! 変態っ! チカーンッ!」
「あっ……あの人……! たしか壺仮面っていう人だよっ!」
「なっ、なんという、不埒な……! 最低ランクの人間は、行動まで最低ランクのようですね……!」
「私たちのハダカを覗いていいのは、タクミ様だけなのにぃっ!」
「タクミ様からはご覧になっていただけないのに、なんでアンタみたいなのから見られなきゃいけないのよぉーっ!」
「くやしぃーっ! 絶対に許せない! あの邪悪なる壺仮面をみんなで成敗しましょう!」
「おおーっ! タクミ様の、御名のもとに! 悪に裁きをっ!」
そのかけ声とともに、門番のクロスボウの矢弾やら、プリーストたちの法力魔法である真空刃やらが、バンバン俺に向かって飛んでくる。
いや……! 待て待て待てっ!
お前らがいま攻撃してるのは、お前らがさっきまで拝んでたヤツだぞっ!?
俺は、なんとも言えない理不尽さを感じていた。
いつもだったら、理不尽には敢然と立ち向かう俺だけど……。
だけどこればっかりは……どうしようもねぇぇぇぇぇぇぇっ!
俺は塀の上の野良猫のように、スタコラサッサと逃げ出した。
次回、またまたタクミが裁く!
それと新作小説を掲載いたしました。
本作がお好きな方でしたら、同じく楽しんでいただけると思います。
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