06 裁きの神
塔の2階入口には次々と『タワークエスト』参加者が押し寄せてきている。
周辺にたむろしていたゴブリンたちは一掃され、付近は一気に賑やかになった。
入口の通路では露店を開く生徒までいて、まるで学園祭のような様相を呈している。
「さあっ、マッピングでは定評のある我がラントカルテ学院が、歴代のOBたちの記録を集めて作った『タワークエスト』攻略法だよ! お宝の隠されていそうな場所、モンスターの不意をつける場所、パンフレットにはない極秘情報が満載だよ! 上位に食い込むには必須アイテムだ!」
「武器はいらんかねぇ~!? 外に出るよりちょいと値は張るが、時は金なりだ! 刃こぼれした武器の修理も承るよっ!」
「ダリス・バンディに伝わる牛肉串だ! 戦いながらでも食べやすく、食べ終わったら串は武器になるぞ! 腹が減っては戦はできん! さぁ、買った買った!」
さっきまでは怒号と、モンスターの断末魔が支配していた通路。
今では威勢のいい、物売りの呼び込みの声が行き交っている。
各店の売れ行きはなかなかのようで、客はステータスオープンのときにもらった『タワーバンド』で料金を支払っている。
なるほど……『タワークエスト』って文字通り探索と戦闘でポイントを稼いでいくもんだと思ってたんだが……こういうポイントの稼ぎ方もあるんだな。
生産職寄りのヤツは下手に戦って足を引っ張るよりも、露店でポイントを稼ぐほうが効率がいいってわけか……。
俺は感心しながら、梁の上から露店を見てまわる。
すると、見覚えのあるヤツらがいた。
メイド服を着た、小学校低学年っぽい女の子たち。
クレープ屋みたいなカラフルな屋台で、呼び込みをやっている。
あれは……うちの学園の地底族の女の子たちだ。
地底族は身長1メートルくらいしかない小さな種族。
大人になっても見た目が子供のままで変わりがなく、しかも男でも女の子にしか見えない可愛らしさという、なんとも罪作りな種族なんだ。
いま店を開いているのは『調理術部』の子たちなんだか、かつて俺は彼女らを助けてオムライスをごちそうになったことがある。
そのオムライスは絶品だったから、いま売ってるヤツもきっと美味いに違いない。
何を売ってるんだろうな、どれどれ……。
俺は鉄骨の上でしゃがみこんで、屋台の中を覗き込んでみる。
すると……なんか男の顔みたいなのが描かれたホットケーキが、鉄板の上でじゅうじゅうと音をたてていた。
「みんなぁ~! 『タクミ焼き』だよぉ~! 買ってってぇ~!」
「私たちのご主人さまのお顔が描いてあるホットケーキだよぉ、おいしいよぉ~!」
「『ご主人さま大好きイチゴ味』と『ご主人さま愛してるバナナ味』と『ご主人さまペロペロチーズ味』の3種類! おっきなお口で、ご主人さまをハムハムしちゃお~!」
売り子たちの黄色い声に、俺は鉄骨からずり落ちそうになってしまう。
アイツら……なんてモノを売ってやがるんだ……!
しかもなんか妙に売れてるし……!
「あっ、コレ、おいしい~!」
「なんか変な顔が描いてあるけど、味はイケるね!」
「ホント、味はいいのにこの気持ち悪い顔は何なんだろうね?」
「見て見て、包み紙になんか書いてあるよ!」
「なになに……火串タクミ、リンドール学園1年生、身長……体重……好きな食べ物……口癖……なにコレ?」
「アハハ、このタクミってヤツ、Fランクなんだって! テストの成績まで書いてあるよ!」
ホットケーキを包んでいる紙は、英字新聞みたいに文字がびっしり書いてあって……どうやら俺のプロフィールがこと細かに記載されているらしい。
購入者たちはあちこちにいて、まずホットケーキの味に微笑み、包み紙に気づいてはさらに顔をほころばせている。
いや、『ほころばせる』なんてかわいいらしいもんじゃねぇ、明らかに嘲笑してやがるっ……!
俺は愕然となった。
お……俺の個人情報が、ホットケーキになってバラ撒かれてるなんてっ……!?
な……なんてことをしやがるんだ、アイツらはっ……!
思わず梁の上から飛び降りて、『タクミ焼き』の屋台をブッ潰してやりたい衝動にかられたが、
「『タクミ焼き』、いっぱい売れてるねー!」
「やっぱり、私たちのご主人さまが素敵だからだよ!」
「うん! タクミ様ってかっこいいもんね! ホットケーキに描いて正解だったよ!」
「包み紙も、がんばって作った甲斐があったね! タクミ様のことを調べるの、大変だったもん!」
「いっぱいいっぱい売れたら、タクミ様、ほめてくれるかなぁー?」
「きっといっぱいほめてくれるよ! 抱っこしてくれて、いーっぱいナデナデしてもらえるよ!」
「わあーっ! 楽しみ! よぉーし、いっぱい売ろうね!」
「おおーっ!」
さらに熱が入ったように、ちいさな店員さんたちは屋台のまわりをちょこまかと動きはじめる。
その姿を目の当たりにした俺は、人知れず溜飲を下げるほかなかった。
まったく……しょうがねぇなぁ……今回だけは、見逃してやるとするか……。
学園に戻ったら、人のプライバシーで商売するのはやめようね、ってしっかり言い聞かせとかなきゃな……。
……ガシャアンッ!
不意に、眼下から衝撃が起こる。
「テメェら、誰に断って商売してんだよ!」
いかにもガラの悪そうな平地族のヤツらが、『タクミ焼き』の屋台を蹴っ飛ばしていたんだ。
ちなみに平地族ってのは、肉体的にはとりたてて特徴もない種族……まぁ俺もその平地族なんだけどな。
「俺たち『マルヴァチタ義賊学校』に黙って、この通りで商売しようなんざ、いい度胸してんじゃねぇか、おチビちゃんたちよぉ! おおん?」
二人のチンピラから絡まれ、メイドさんたちはひとつに固まって震えていた。
「こ……この『タワークエスト』では、自由にお店をやってもいいはずだよぉ!?」
「うるせえっ! 屋台といっしょにたたんでやろうかっ!?」
鉄板がひっくり返され、焼き立ての俺の顔が地面にぶちまけられる。
「キャーッ!? ら、乱暴はやめてぇ!」
「ど、どうしたら、許してくれるの……?」
「あぁん? そんなの、決まってんだろ! ショバ代だよっ! 売上の5割……いや、7割をよこしな!」
「7割!? そ、そんなに払えませんっ……!」
「だったら……二度とこの『タワークエスト』で商売できなくしてやんよ……! どこにいても見つけ出して、メチャクチャにしてやっからよぉ……!」
チンピラの片割れが、ひとりのメイドさんをひょいと抱えあげた。
髪を掴んで動けなくして、バーナーの火に押し当てようとしている。
「じゃあ、まずは一匹目! 『タクミ焼き』ならぬ、メイド焼きだぁ……!」
「そりゃいい! 『タクミ焼き』なんかよりよっぽどうまそうだ! ひゃっはっはっはっはーっ!」
「いやあっ! や……やめてぇぇぇ!」
「お願い、離してあげて!」
「わ、わかりました! 払います! いくらでも払いますから、許してくださぁい!」
「もう遅ぇよっ! 見せしめに、コイツの顔を二度と見れなくしてやっからよぉ! じゅーぶんに反省するんだなぁ! ぎゃーっはっはっはっはっはっ!」
「い……いやああああーーーーっ!」
「やめて、お願い! やめてぇぇぇっ!」
「だ、誰か、誰か助けて! 助けてくださいっ!」
「た……タクミさまっ……タクミさまぁぁぁぁぁぁぁーーーーっ!」
……シュバンッ!
「……あ、あれ?」
「さっきの男の人たちは……?」
「なんか急に、いなくなっちゃった……?」
「消えちゃったの……?」
「さぁ……? 泣いてたから、よくわかんない……」
不思議そうに、あたりをキョロキョロと見回すメイドさんたち。
かたや空の上では、むさくるしい男どうしの語らいが繰り広げられていた。
「なっ、なんだテメェはっ、いきなり上からさらいやがって……」
「あっ……コイツ、壺仮面……ステータスオープンのとき、F- - -だったヤツだ……」
「そうだ、思い出した……ってなんでお前、そんなに小声なんだよ?」
「そりゃコッチのセリフだ、ひそひそ話してんじゃねぇよっ」
「いや、俺はいつも以上に声を出してるよっ」
「お、俺だって……」
酸素の足りない金魚みたいに、口を大きくパクパクさせているチンピラども。
でも、漏れるのは囁きのような声のみ。
「……DQNってのは、声ばっかりデケぇんだよな。だからちょっと静かにしてろ」
俺がそう言ったとたん、ヤツらの声は完全に消え失せる。
ただただ口から、タバコ臭い息を吐き出すのみ。
「……! ……!?」
「……!?!?」
チンピラどもは懲りずに「テメェ、なにしやがった!?」みたいにギロリと睨みつけてきた。
その瞳から、光が消え失せていく。
「そうやって、ガンつけりゃビビると思いやがって……ワンパターンなんだよ」
ハッ、と自分の顔を覆うチンピラども。
じょじょに目を見えなくさせられていることに、ようやく気づいたようだ。
声を奪われ、たて続けに視界をも奪われたチンピラども。
半狂乱になって暴れているが、誰からも気づいてもらえない。
ヤケになって俺の顔にパンチを浴びせてきたが、拳のほうがくしゃっと砕けた。
「暴力も大好きだよな……。ワンパターンなお前らのすることはわかってたから、すでに手は打っておいた」
手の骨が砕けた痛みで悶絶するチンピラどもは、俺の話を聞いてるどころじゃなさそうだ。
声なき悲鳴をあげ、のたうちまわっている。
殺虫剤をくらったゴキブリみたいになってるヤツらを見下ろしながら、俺は言ってやった。
「声帯と視神経をちょっといじらせてもらった。もうなにも見えないだろ? それなのにそんなに大暴れしてると、鉄骨から落ちちまうぞ。骨も脆くしてあるから、落ちたら最後……全身の骨が粉々になって、タコみたいになっちまうぞ」
その一言に、死んだようにピタッと動きを止める、二匹のゴキブリ。
「お前らはおイタが過ぎたから、刑期三時間だ。それまでは目も見えず、助けも呼べず……くしゃみするだけで骨が折れる恐怖に怯えてろ。じゃあな」
俺は判決を言い渡したあと、背を向ける。
ちなみに全身の骨が粉々になるってのはウソだ。弱くしたのは手の骨だけだから、落ちても死ぬことはねぇ。
ふと眼下に視線をやると、そこには……営業を再開し、行列ができるほどに繁盛している『タクミ焼き』の屋台があった。
次回、タクミが裁かれる!?
それと新作小説を掲載いたしました。
本作がお好きな方でしたら、同じく楽しんでいただけると思います。
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