05 ブルブルくのいち
「ふぅ、これで全部か……」
俺はひと仕事を終え、パンパンと手を払った。
眼下には今なお続く、学生軍団とゴブリン軍団の小競りあい。
眼前には連続写真のように一列に並ぶ、くのいち達の姿。
どいつもこいつも戦闘ポーズをとったまま、固まっている。
「かっ……身体が動かんっ!? なっ、なぜだっ!?」
「気をつけろ、コイツは妖術使いだぞ!」
「リーダー! そんな大事なことは早く言ってくださいっ! 全員動けなくさせられちゃったじゃないですかっ!」
「でもコイツ……壺仮面だよね? たしか、F- - -ランクじゃなかったっけ!?」
「なんでそんなヤツに、ずっと格上のアタシたちがやられるのっ!?」
「いっ、いや! 皆、あきらめるな! まだ身体の動きを封じられただけだっ! こんなの、気合で……ぬぐぐぐぐっ!」
くのいち達は、身なりは殺人マシーンのようだが……こうして見ると普通の女子高生だ。
俺は列の先頭で踏ん張っている、リーダーと呼ばれるくのいちの頭を、ぽんぽんと叩いた。
「あー、これは魔法とか呪術のたぐいじゃねぇんだ。それらは精神に働きかけるから、気合いでなんとかなる場合もあるけど……俺のは身体をいじってるから、いくら気張っても解けねぇぞ。疲れるだけだからやめとけ」
俺が彼女らに施したのは、『スカルプチャー』。
脊髄を刺激して、身体を彫像のように動けなくするツボだ。
最初、くのいちはひとりだけだったんだが……2階の入口から次々と新手が押し寄せてきたので、俺はやむなく全員の動きを封じることにしたんだ。
俺の命を狙っていたくのいち軍団は、いまや見世物小屋の蝋人形みたいに固まっている。
「気安く触るなっ! 我が頭に触れてよいのは、お館様だけだっ!」
「お館様って誰だよ」
「偉大なる、我らがお館様の御名……貴様のような下衆に教えてたまるかっ!」
身体を動けなくされたというのに、気丈さを崩さないのはさすがだ。
動いた瞬間に噛み付いてきそうなくらい、がるると唸っている。
「別にお前らのボスなんて興味ねぇからいいけど……それよりもこっちのほうが興味があるな」
俺はそう言いながら、先頭にいるくのいちの頭巾をめくった。
ショートカットの、凛とした美少女の顔が露わになる。
小麦色の肌に、耳には魚の胸ビレみたいなの……コイツ、海棲族だったのか。
「可愛い顔してるじゃねぇか。隠すのはもったいないぜ」
「悪趣味なマスクをしている貴様に言われたくないわっ!」
俺はツッコミを受け流しながら、くのいち達のマスクを次々と剥がしていく。
すると全員、海棲族で……揃いも揃ってショートカットだった。
「なんだなんだ、お前ら海棲族のくのいちなのかよ……」
正体を知りたくて素顔を暴いたつもりだったんだが……より謎が深くなっちまった。
「海棲族って魔法使いが多いって聞いたが……お前らもしかして『ナロー』か?」
海棲族は生まれながらにして、魔法を使いこなせる適性を持っている。
だが、ごく稀に適性のないヤツがいるらしい。
魔法を使えないヤツのことは、『ナロー』と呼ばれている。
俺がくのいち共をそう呼んだ瞬間、一斉に顔色が変わった。
「な……『ナロー』を知ってるなんて……!?」
「もしかして壺仮面って、タラッティア王国のヤツなの……!?」
「タラッティアにこんな変なのがいる学校なんて、あったっけ……!?」
俺は、コイツらのことが少しわかったような気がした。
「そうか、お前らはタラッティア王国のくのいちなのか。弾圧されてたのはマリリンの村だけじゃなくて、各地にあったらしいから……そのなかの一派なんだな」
魔法王国であるタラッティアにおいて、『ナロー』は弾圧対象だった。
でも革命がおこって、今はそうじゃない。魔法を使えようが使えまいが、別け隔てなく暮らしている。
女たちのざわめきはさらに大きくなった。
「なっ……なんでそこまで知ってるの……!?」
「ナローの存在が他国に知られるようになったのは、つい最近のことなのに……!」
「やっぱり壺仮面って、タラッティアの人間だよ!」
「貴様……いったい何者だっ!? そして……なにが目的なんだっ!」
俺は困惑し、頭をボリボリと掻いた。
「いや、それはこっちのセリフだって、お前らは『タワークエスト』をやろうとしてるんだろ? なのになんで揃いも揃って俺の命を狙ってきたんだ?」
すると、くのいちの達の中で、微妙な空気が流れた。
そして、ぷはっ、と吹き出す。
「あははははははは! コイツ、何を言いだすかと思ったら!」
「うふふふふふ! 『なんで揃いも揃って俺の命を狙ってきたんだ?』ですって!」
「思いあがりもここまでくると、清々しいわねぇ! おほほほほほほほ!」
「やはりコイツは最低ランクだ! 『タワークエスト』の常識も知らんらしい!」
動けなくしたヤツから、嘲笑されたのは初めてだ。
男だったらちょっと痛い目にあわせて、立場をわからせてやるとこなんだが……女だったら、うーん……服の中にタコでも入れてやろうか。
もう問答はいいやと思った俺は、いちばん最初に俺を襲ったくのいちの頭をガッと掴んだ。
「ぐっ……!? き、貴様っ、何をするっ!?」
「……ちょっとだけ、教えてもらおうか」
「貴様になど、何を尋ねられたところで教えるものか! たとえこの口が裂けようともな!」
「そうかそうか」
俺は受け流しながら、指に力を込めた。
すると……くのいちの瞳から、光がフッと消え失せる。
きりっと結んでいたはずの顔は、入浴中のようにとろけきって……だらしなく開けた口から、よだれを垂らしはじめた。
「よし……ちょっと俺の質問に、答えてくれるか?」
「ふ……ふわぁぁぁい……」
さっきまで堂々していた面影は消え失せ、酔っ払ったようになっているくのいち。
……これは、『トゥルーボイス』。
頭蓋骨を刺激して、昏睡寸前の状態にさせるツボだ。
こうなると、人間は隠し事やウソができなくなる。
ようは、自白剤みたいなもんだな。
もう呂律も回っていなかったので、ちょっと聞き取りづらかったんだが……俺はいくつかの質問をして、その答えを得た。
その間、背後からくのいち仲間が「何をしている、やめろー!」と絶叫していたのだが、無視して続ける。
そして俺は、すべてを理解した。
彼女らは『タラッティア王国学院』に新たに設立された、『くのいち科』の生徒。
くのいち科の生徒たちは冒険者になるよりも、国王のために暗躍する『親衛特命隊』に所属することを夢見て、日々がんばっているそうだ。
彼女らが『お館様』って呼んでいたのは、どうやら国王のことらしい。
ちなみに、なぜ揃いも揃ってショートカットなのか理由を尋ねてみたんだが、その国王の許しがなければ彼女らは髪型を変えることもできないそうだ。
俺はショートカットフェチになった覚えはないが……とにかくそういう決まりらしい。
彼女らはその国王サマに功績を認めてもらうため、『タワークエスト』に参加。
この『タワークエスト』は、地上の戦いだけだと俺は思っていたんだが、むしろ梁の上からの援護が重要な役割を占めているらしい。
どの学校も梁の上を独占するため、争うのが常だそうだ。
ようは、制空権争いってやつだな。
ああ、ようやくわかったぜ……問答無用で俺に襲いかかってきた理由が。
しかもその理由だと、俺は梁の上にいる限り、コイツらに命を狙われ続けることになる。
いや、コイツらだけじゃねぇ、梁の上にいる他校のヤツらからも襲われ続けるってことだ。
マスクを取って俺の素性を明かせば、コイツらからは襲われなくなるんだろうが……他の学校のヤツらにバレるのは嫌なんだよなぁ。
俺の正体を黙っておくようコイツらに言ったところで、どうせこの世界のことだ、『タワークエスト』も中継されてるに決まってる。
そうなると……口に戸を建てておいたところで無駄だな。
正体がバレちまったら最後、『リンドール学園』所属だってのもバレちまう。
俺ひとりが不正として処分されるならともかく、学園のほうにまで迷惑がかかっちまうかもしれねぇ。
それだけは、絶対に避けねぇとな……!
ってことは……俺はコイツらに命を狙われ続けるしかねぇのか……?
なんとかしてコイツらだけでも、見逃してもらえる手はないもんだろうか……?
あ……そうだ、いいこと思いついた……!
俺はさっそくアイデアを実行に移す。
マネキンのように居並ぶ、忍装束ごしの腰を、流れ作業のように次々と押していった。
服の上からじゃわからなかったんだが、女たちの腰は驚くほど細かった。
押しこむとその力のままにのけぞり、身体の硬直が解けていく。
まるで石化から解けたかのように、自由になったことが信じられない様子の女たち。
「えっ……!? か、身体が動くようになった……!」
「や……やたっ! 千載一遇のチャンスだよっ!」
「よしっ、我らに度重なる屈辱を与えた壺仮面……! いまこそ覚悟っ……!」
「皆の者、かかれーっ!!」
長らく一時停止させられていた身体を、一斉に奮い立たせるくのいち軍団。
直後、腰に電流が走ったかのように、こぞって前かがみになった。
「あんっ!?」「やっ!?」「ひんっ!?」「あふぅんっ!?」「きゃんっ!」「ひいんっ!」「いやあっ!?」「ひぃーっ!?」「はうんっ!?」「くっふぅ!?」
鉄琴を端から順番に叩いたような、澄んだ嬌声が漏れる。
自分の出した声が恥ずかしかったのか、とっさに口を手で塞いでいた。
「あ……はっ、はぁ、はぁ、はぁっ……! な……何事だっ!?」
「なに、なんなのっ!? ふっ、服が擦れただけで……!」
「んふぅぅ……! なんだか身体が溶けちゃうよぉぉ……!」
「そ、それだけじゃ、なっ……あんっ! かっ、身体を動かすと、なっ、なんだか、ずんっ、ずんっ、て突き上げられているみたいになって……! あっ! あっ! あぁんっ!」
とうとう人目もはばからず、甘い吐息を漏らしはじめるくのいち軍団。
うつむいたままヒザをガクガクと震わせ、肩をビクンビクンと上下させている。
俺は、チワワのように震える女子たちに教えてやった。
「『ピーチブリーズ』……お前らの身体は今、すごく敏感になっている。そよ風が当たっただけでも腰が抜けそうになるだろ? 痛風ならぬ快風ってやつだな」
「つっ……壺仮面っ! やはり、貴様の仕業かっ!」
「一度だけじゃなくて、二度も……! 私たちの身体に怪しげな技をかけるなんて……!」
「あなた、一体なんなのよっ!?」
「戻せっ! 戻さないと……! あっ……あっ……ああっ! あっはぁぁ~んっ!」
近くにいたくのいちが俺に挑みかかろうとしたが、一歩踏み出しただけで崩れ落ち、そのままバタンと倒れ伏した。
立ち上がることもできず、感電しているかのようにビクビクと痙攣している。
「あーあ、『ピーチブリーズ』がかかってる時に走ったりすると、失神しちまうぞ……ってもう遅ぇか……じゃ、俺はそろそろ行くわ」
俺はしゅたっと手を挙げて、くのいち軍団に別れの挨拶をする。
しかし、だいぶしおらしくなったくのいちの一人から、呼び止められた。
「まっ……待って、壺仮面っ! 私たち、どうなっちゃうの!?」
「悪ぃが、しばらくそうしててくれるか? 追われちゃかなわんからな。一時間ほどで元に戻るようにしてあるから、それまで待ってくれ」
俺はそれだけ言って背を向けようとしたんだが、今度はリーダーから呼び止められた。
「ま……待てい! い……一時間だとぉ……!? 我らは『タワークエスト』で武勲をたてて、タクミ様に召し抱えていただかなくてはならぬのに……!」
「それについては大丈夫だ。そのタクミ様とやらは、きっとお前らを召し抱えてくれるよ」
「くっ……! ふざけたことをぬかすなっ! 次にあったときには……覚えておれよっ!」
他のくのいちは大人しくなったのに、コイツだけは強気なままだ。
さすがリーダーだけある。この『タワークエスト』が終わったら、真っ先に召し抱えてやるとするか。
でも……今はバシッと言ってやらなきゃな。
「俺は『タワークエスト』には興味ねぇ。お前らが制空権で争うのは自由だが、俺には手を出すな。次になんかしてきたら……お前ら全員、一生その身体にしちまうぞ?」
これは、もちろんハッタリ。
でも今まさに、『ピーチブリーズ』の威力を目の当たりにしている女たちには……効果覿面だったようだ。
「くっ……! こ、ここはいったん引くぞ!」
「はっ、はいっ……! にっ……逃げ……! あんっ!」
「ま、待って待って、待ってぇ……ふわぁぁん!」
「振動が、振動が……! あひゃぁぁぁんっ!」
まるでおもらししてる人みたいに、太ももをぴったりとくっつけあわせ、よちよち歩きで遁走を開始するくのいち軍団。
ようやく解放されたようなので、俺は梁の上を走って塔の奥へと進んだ。
……ちなみに俺はこの直後、制空権狙いの盗賊軍団に命を狙われた。
今度は全員男だったので、『ピーチブリーズ』を使う気にはならず……かわりに『ゴールデンバーニング』を施してやった。
これは、わずかな振動で、金玉を蹴り上げられているような激痛が走るツボなんだ。
次回、タクミのさらなる活躍!
それと新作小説を掲載いたしました。
本作がお好きな方でしたら、同じく楽しんでいただけると思います。
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