04 ファーストアタックはくのいち
体育館を去った俺は、『天空族の塔』へと取って返す。
塔の入口にいる門番に、もらったばかりの身分証を見せると……今度ばかりは止められなかったんだが、
「俺ぁ長いことこの塔の門番をやってるが、F- - -の冒険者なんて初めて見たよ。きっとゴブリン1匹にもなぶり殺しにされるだろうから、一階で大人しくしておいたほうがいいぞ」
「あー、最初は一階だけで済ませるのもいいかなと思ってたんだが……ちょっとヤボ用ができちまってな。ちょっと上のほうまで邪魔させてもらうよ」
「そうか……弱いんだから、あんまり無茶をするんじゃないぞ」
門番は哀れみに満ちた視線で、俺の背中をポンポンと叩いて送り出してくれた。
俺は入口にある案内板からパンフレットを取って、アーチ状の入口から、いよいよ塔の中へと足を踏み入れる。
塔の中は、ドーム球場みたいにだだっ広かった。
野球ができそうなくらいに高い天井。
ところどころにブースができてるんだが、場所を示すためにアドバルーンみたいな巨大な物体が浮いている。
アドバルーンには、『塔の歴史コーナー』『おみやげ売り場』『レストラン』『冒険体験コーナー』『キッズスペース』『ブライダルスペース』などが書かれていて、完全に観光客相手のフロアだというのがわかる。
行き交う観光客はみんな笑顔だ。
山のようにお土産を抱えて歩くカップルに、おもちゃの剣を振り回しながら大興奮で走り回る子供たち。
人力車みたいなのに乗って、仲睦まじく巡る老夫婦。
どうやらこの塔の観光スペースは、老若男女が楽しめるようになっているらしい。
俺もちょっと寄り道してみたくなったんだが、のんびりもしてられない。
誘惑を断ち切って、『入塔者用入口』へのアドバルーンに向かって歩きだす。
『入塔者用入口』は、塔の探索に出発する冒険者のためのもの。
間違って一般の客が入らないように、またモンスターを外に出さないように、飛行場の入国審査場みたいにものものしい。
俺が近づいていくと、門番から「一般客はあっちだよ」と追い返されそうになってしまう。
それでもめげずにそばまで行って、冒険者証を見せると、
「君、そんな観光客みたいな格好で塔に入るつもりか!? 武器も防具もなしで!? やめておきなさい、武闘家でももっと装備がちゃんとしてるぞ!」
またしても止められてしまった。
俺は押し問答同然に門番を説き伏せ、なんとか中に入れてもらう。
はぁ……塔に入るだけだってのに、こんなに苦労するとは……。
いや、塔は2階からだから、まだ入ったことにはならねぇ……これ以上門番に止められるようだったら、心が折れちまうよ……。
俺は、やれやれと溜息をつきながら進んでいく。
あたりを行き交うヤツらが、平和そのものだった観光客から、物騒な武器をぶらさげた冒険者たちに変わる。
いよいよか……と思ったところで、大きなホールみたいな所に出た。
中央には大階段、まわりには蜂の巣みたいにいくつもエレベーターがある。
大階段をずっとあがっていけば2階に着き、2階より上に行きたければエレベーターを使うようになっているらしい。
この塔は、100階建てというウワサだ。
なぜウワサなのかというと、50階より上に登ったヤツがいないからだ。
エレベーターがあるなら一気に100階まで行けるじゃねぇか、と思うが、そうはいかない。
どの階も初回は階段であがらなくてはならず、各階にある『真実の口』みたいなのに冒険者証を突っ込むと、その階に到達したと認められ、以降はエレベーターで一気にあがれるようになるんだ。
ステータスオープンの会場で、たしか学生の踏破記録は10階だというヤジを聞いた。
でもプロの冒険者は10階なんぞとっくの昔に突破しているのか、エレベーターを眺めていても誰も10階で降りていない。
ってことは……2階から10階までは、『タワークエスト』で貸し切りってわけか。
現に、いま俺が1段1段踏みしめるようにして上っている大階段にも、人っ子ひとりいない。
でももうじき、ステータスオープンを終えたヤツらが体育館を飛び出し、この階段に殺到することだろう。
ふと遠くから歓声が響いてきたので、階段の途中で振り返ってみる。
すると、軍隊アリのような人の波が迫ってきているのが見えた。
やべぇ……! もうステータスオープンが終わったのかよ……!
門番に止められたのが、だいぶロスタイムになっちまった……!
俺はあわてて二段飛ばしで、階段を駆け上がった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
二階の踊り場にはまたしても門番たちがいて、モンスターよけの結界があった。
どうやらここから先は、モンスターが出現するようだ。
重装備の門番たちに止められるかと思ったが、特になにも言われなかった。
「死ぬぞアイツ……」みたいな呆れた視線で、黙って見送ってくれる。
踊り場の結界を通り過ぎた先には、アーチ状のゲートがあった。
くぐると、幅の広い通路みたいな所に出る。
二階からはいくぶん天井が低くなっていて、通路や部屋によって細かく区切られている構成のようだ。
一階の華やかさとは雲泥の差。
ブースのかわりに、打ちっぱなしのコンクリートみたいな壁があり……天井はアドバルーンどころか、梁のような鉄骨が張り巡らされているだけだ。
通路には、緑色の身体にボロ布をまとった、餓鬼みたいなのがうろついている。
あれは……ゴブリンか……!
向こうも俺のことに気づき、ギャーギャー騒ぎたててきた。
ゴブリンは仲間を呼んでいたようで、あちこちの通路から新手のゴブリンたちが飛び出してくる。
あっという間に押し寄せる群れとなり、俺に向かってきた。
血走った目に、手には刃こぼれしたナイフ。
舌を振り乱す口からは、黄色い牙が覗いている。
のっけから、なかなかの歓迎っぷりだ……!
俺は全寮制の『リンドール学園』に通ってるんだが、まわりは治安がいいのかモンスターが全然いねぇんだ。
だから、こうして野生のモンスターに襲われるのも初めてで……なかなか新鮮な感覚なんだ……!
なにせ今まで、むさくるしい野郎どもに襲われてばっかりだったからな……!
記念すべき、モンスターとの初遭遇……!
せっかくだから、一匹や二匹は相手してやりてぇところなんだが……今はその思いを遂げてる場合じゃないんだよなぁ……!
俺は後ろ髪をひかれる思いで、天井の梁に向かってワイヤーを伸ばす。
「あー、悪ぃな、ゴブリンくん。俺はシャイなんだ。フレンドになりたいんだったら、まずはツイッターのフォローから始めてくれるか?」
蜘蛛の糸にすがりつこうとする、亡者のようなゴブリンたちを尻目に……ワイヤーを巻き取って梁の上にあがる。
そして、駆け上がってくる喧騒に気づいた。
「お……! おい、ゴブリンくん! 友達になりたいってヤツらが来てるぞ! 歓迎してやれ!」
指さして教えてやると、2階の入口に向かって「ギャーッ!」と走り去っていくゴブリン軍団。
すると、まるで副男選びみたいになだれ込んできた学生軍団と鉢合わせ、さっそく戦闘になっていた。
学生軍団とゴブリン軍団との争いは、のっけから一方的だった。
やはり『タワークエスト』に参加する学生は、腕に自信のあるヤツらばかりのようだ。
まるで一騎当千と呼ぶにふさわしい活躍で、ゴブリンどもを次々となぎ倒している。
俺は、高みの見物としゃれこむ。
「おー、いいぞー、やれやれー」
と他人事みたいに応援してたんだが……いきなり真横から何かが飛んできて、俺の頬をかすめていった。
「うおっ!?」
不意打ちをくらった俺は、バランスを崩し……危うく鉄骨から落ちそうになってしまう。
続けざまに、影が躍った。
俺はとっさに『バレットタイム』のツボを刺激し、影の正体を見破りにかかる。
すると……地上の獲物を狙うハヤブサのような勢いで、忍装束のヤツが迫ってきているのが見えた。
ギラリと輝く短刀を振りかざし、俺の首をかっ切ろうとしている……!
一片の容赦も感じさせない刀身を、俺は余裕をもって左手で受け止める。
「……!!」
まさか防がれるとは……!? とハッと息を呑む忍装束。
俺はその吐息で、相手が女というのを察した。
くのいち、ってヤツか……!
くのいちは一瞬動きが固まったが、すぐさまあいているほうの手で、腰の短刀を抜こうとする。
「まあ、そうあわてんなって」
俺はヤツが抜くより早く、短刀の柄を押し込んで、抜刀を阻止した。
「!?!?」
くのいちは被り物から覗かせている目を、信じられない様子で剥いている。
キレイな瞳だな……と見とれていると、キッと睨まれてしまった。
「貴様……読心術の使い手かっ!?」
どうやら、俺が心を読んだのと勘違いしているらしい。
「……まあそんなところだ。俺とフレンドになりたいんだろ? かなり不器用なアプローチだが、嫌いじゃないぜ」
俺が軽口を叩くと、彼女の眉間のシワはより一層深くなった。
次回、タクミの新たなる指圧!
それと新作小説を掲載いたしました。
本作がお好きな方でしたら、同じく楽しんでいただけると思います。
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