49 一発逆転の奇跡
「大変ですっ、旦那様っ……! 村のみなさんを助けに行かないと……みなさん死んじゃいますぅ!」
「でも行ったところであんな炎、どうするんだよっ!?」
「そうだ、ミューティの水の精霊魔法で消せない!?」
「このあたりじゃ魔法が使えないんじゃなかったっけ!? それにあんな大きな火事、ボクの魔法じゃ手に負えないよっ!?」
「ギャーハーハーハー! いくら足掻いたってもう手遅れだぁっ! 女どもは、まーるやーきー! お姫様もついでに、まーるやーきー! ギャーッハッハッハッハッハッハッハーッ!」
蜂の巣を……いや水槽をつついたような騒ぎになるマーメイズ。
ひたすらバカ笑いしているシルバーウルフ。
黄色い悲鳴と、野太い嘲笑が、渾然一体なって俺の頭を駆け巡る。
騒音に邪魔されながらも、俺は頭をフル回転させた。
……どうする……どうすりゃいいんだ……!?
どうすれば……村のヤツらを助けられる……!?
『アドレナリン・オーバードーズ』がありゃ、炎には耐えられるが……あの数の女を抱えて逃げるのはムリだ……!
それに海棲族は熱さに弱いんだ。
あの渦巻く炎のなか、火に一切触れさせずに連れ出すのは……不可能に近い。
マーメイズの魔法があれば消せるんじゃねぇかと思ったんだが……頼りになりそうにねぇ……!
……魔法?
そうだ……すげえ魔法があったじゃねぇか……!
「ねぇねぇ、どうしよう、旦那様っ!」
「ボーッとしてんなよ、旦那様! なんとかしてくれよっ!」
「マジやばいって旦那様! みんなマジ御臨終なんだから!」
「あああ……旦那様ぁ! どんどん燃え広がっていきますぅ……!」
「もっと泣けぇ! もっと喚けぇ! 女どもの苦痛に歪む顔は格別だぜぇ! ギャーッハッハッハッハッハーーー!」
泣きそうな顔ですがりついてくるアイドルたち。
その隣で声を枯らすほど爆笑している海賊。
俺は、すぅーっと息を吸い込んで……一気に吐き出した。
「……落ち着けえっ!!! それでも俺の嫁かっ!!!」
嫁たちは一喝されて、落雷を受けたようにびくんっ、と身体をこわばらせる。
お頭もビビっちまったのか、ヒィッ!? と叫んだまま、それっきり黙っちまった。
「いいか、よく聞けっ! 俺の目が黒いうちは、こんな理不尽は絶対にまかり通らねぇ! だからお前らも安心して、黙って俺の後をついてくればいいんだ! ……わかったな!?」
「……は……はいっ! 旦那様……!」
「はい……旦那様……! かっ……顔は怖いけど……超カッコいい……!」
「は……はいぃ……! うぅ……す……素敵ですぅ……!」
「おうっ、どこまでもついていくぜ! くぅぅーっ! 惚れ直しちゃうだろぉーがっ!」
ポーッと頬を赤らめるマーメイズに向かって、俺は間を置かずに命令する。
「よしっ、整列っ!!」
「「「「はいっ!!」」」」
統率のとれた動きで、横一列にピシッと整列する俺の嫁たち。
「へ……へんっ! なにが俺の目の黒いうちは、だ……! ガキが女にいい所を見せたいからって、イキがってんじゃ……!」
「おっと、オッサンを忘れてたぜ。冥土の土産にするには贅沢すぎるから、ちょっとあっち向いてな」
俺はヘッドロックしていたオッサンの首を、ゴキッと半回転させた。
「ひぎゃああああああああああああーーーっ!?!? 首が、首がああああっ!?!?」
首を真後ろに向かされ、パニックになって溺れているオッサン。
ひとまず用済みになった身体を押しのけ、俺はマーメイズの前に立つ。
「よしっ!! 今から契りを交わすぞっ!!」
「「「「えっ?」」」」
聞き間違いかとキョトンとしているアイドルたち。
俺は問答無用とばかりに手を伸ばし、貝殻のブラをむんずと掴んだ。
そのまま力まかせにずり降ろし、次々と引きちぎっていく。
……ズルンッ! ブチッ! ズルンッ! ブチィッ!
「きゃあっ!?」「ええっ!?」「あんっ!?」「ひゃっ!?」
プルン、ポロン、ペロン、ピロンと、形のよい乳房がまろび出て……いやいや、今は見とれてる場合じゃねぇんだ。
……来る!!
俺は直感した。
……ゴオッ……!!
静かだった海が、空鳴りとともに突如隆起し……天を衝くほどの高波と化す。
コイツにはかつて二度ほど、俺とマーメイズのいいところを邪魔された。
その時はきっかけがわからなかったし、いきなりだったから二度ともマトモにくらっちまったが……。
しかし正体がわかっちまった今は……もう怖くねぇ……!
これまでの借りを全部まるごと……返させてもらう!!
「……待ってたぜぇぇぇぇぇっ……!!」
ビルが倒れてくるみたいな津波に向かって、俺は吠えた。
ジャンボジェットの機体が真横になって降ってくるような、ビッグウェーブの白波。
押しつぶそうとしてきたその瞬間を狙って、右手をスウィング……カウンター気味に平手打ちを放つ。
右手のグローブの甲に刺繍された、青い魔法猫……『ディスペルシャ』が俺にウインクをするかのように、キラリンと輝いた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「いやあああああああああああああーーーっ!!」
「助けて、助けてぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーっ!!」
「熱いよぉ! 熱いよぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」
「みんなしっかりしろ!! もっと内側に寄るんだっ!! そしてタクミ様に向かって祈るんだっ!!」
「タクミ様っ! タクミさまぁぁぁぁぁーーーーっ!!」
「私たちを……私たちをお助けくださぁぁぁぁぁーーーいっ!!」
「げふっ……! ごほっ! ごほっ! まっ……マリリンさまっ、も……もうダメですっ……!」
「ううっ……炎が……すぐ側まで迫ってきてます……!」
「このままじゃ……もうすぐ……みんな焼け死んじゃいますっ……!」
「でもどうして!? どうしてタクミ様は助けに来てくれないの!?」
「まさか、マーメイズといっしょに逃げちゃったじゃ……?」
「……バカなことを言うなっ! タクミ様が我々を見捨てるわけがないだろう!」
「もしかして……タクミ様が命がけで守っていたのは、マーメイズだけなんじゃないですか……?」
「そ……そんなことは……!」
「だって、マーメイズはタクミ様のお嫁さんみたいだし、ミューティ様もいるじゃないですか! 婚約者や王女様は守っても、私たちみたいな『ナロー』の命なんて、守ってくれるわけが……!」
「タクミ様といえど、やっぱり王国の男たちと同じで……イザとなったら私たちを見捨てるんだ!」
「そ……そうなのか……!? タクミ様は本当に、私たちを見捨てられたのか……!?」
「う……ううん! スリリスは信じるっ!」
「スリリスっ!? あなた、どうして……!?」
「タクミ様が牢屋にいるとき、スリリスに教えてくれたの! 『俺は理不尽な力には、絶対に屈しない……俺を信じてくれるヤツのことは、絶対に裏切らない』って……!」
「理不尽な力には……絶対に……屈しない……」
「信じてるヤツのことは……絶対に……裏切らない……」
「それが……タクミ様……」
「そう……そうだっ! みんな、思い出せ! 高潔無比なるタクミ様の、鋼鉄よりも強い意志と、龍炎のように熱き情熱を……! そして祈るのだっ! 我らの思いがタクミ様に届き、その偉大なる奇跡がもたらされるように……!!」
「は……はいっ!!」
「理不尽な力には、絶対に屈しない……タクミ様っ!」
「信じてる人のことは、絶対に裏切らない……タクミ様っ!」
「私たちの身も心も、タクミ様に捧げることを誓います……!」
「どうか……どうか……私たちを……お救いください……!」
「私たちは生涯をかけて、タクミ様に尽くすことを誓います……!」
「どうか……どうか……この炎を消してくださいっ……!」
「タクミ様……タクミ様っ……!」
「……タクミさまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」
……ドッ……!!!
……ゴゴゴゴゴゴゴゴッ……!!!
「えっ……!? じ、地震っ!?」
「違うわっ! ……み……見てっ! 海のほう!」
「なっ……波が……! 山みたいにおおきな波が……こっちに向かって来てるっ!?」
「あんなに大きな波……初めて見た……!」
「このあたりの海はいつも静かなのに……どうしてあんな波が……!?」
「あああっ!? み……見て! 波のてっぺん!」
「えっ……あ……あれはっ!?」
「たっ……タクミさまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?!?!?」
次回、お楽しみの時間…!
それと新作小説を掲載いたしました。
本作がお好きな方でしたら、同じく楽しんでいただけると思います。
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