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俺の指圧がチートすぎる  作者: 佐藤謙羊
第2章 ハーレム修学旅行にイッてきます!
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08 お姫様ペットとともに

 次の日の朝。窓から差し込む陽光で、俺は目覚めた。


 接着剤の効果が切れたのか、シャラールの姿はない。

 ベッドの中にはぬくもりと、花のような香りだけが残っている。


 そういえば、昨日は風呂に入らずにそのまま寝ちまったんだよな……それなのにイイ匂いがするなんて、女ってのはどういう生き物なんだよ……。


 なんて思いながらベッドから身体を起こすと、枕元に書き置きがあった。



『やっぱりFランクは全然ダメね。昨日は1000点までだったけど、満点の100億点が取れるようになるまで鍛えてあげる。次に会ったときは覚悟なさい! シャラール』



 なんだよ……1000点満点じゃなかったのかよ……。

 それに、書き置きを残してるってことは、シャラールとのペアは終わりってことか。


 手をくっつけられた時はどうなることかと思ったが……いなくなったらいなくなったで寂しいもんだな。


 書き置きを裏返してみると、追伸があった。



『P.S.アンタ、汗くさいわよ! ちゃんとお風呂にはいりなさいよね!』



 俺は苦笑しつつ浴室に向かい、シャワーを浴びた。


 そのあと、ホテルの食堂で朝飯を食った。

 まだ俺のことを救世主だと思っているのか、ホテルの従業員総出で世話をされてしまった。


 VIPルームみたいなところに案内されて、王様みたいな椅子に座らされた。

 両隣に、色っぽいお姉さんメイドが跪いてくる。


 もしやと思っていたら案の定、お姉さんが口移しで食べさせようとしてきたので、俺は断った。

 この世界にある『偉い人は自分では何もしない』という風習はどうも俺には合わねぇ。


 普通の客と同じ扱いで、飯も普通のでいいから、とお願いしたら、



「なにかお気に障りましたでしょうか!? どうか、どうか、お許しくださいっ!」



 何を勘違いしたのか、ふたりのお姉さんは泣きながら土下座してきた。

 支配人までもが飛んできて、



「大変申し訳ありませんっ! いますぐこのメイドは首にして、別のメイドを……!」



 とホテルじゅうのメイドを呼び集める始末。

 お姉さんは俺の脚にすがりついて号泣するし、他のメイドたちはオーディションみたいに特技をアピールし始めて、大騒ぎになった。



  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 騒動にまぎれて、逃げるようにホテルを後にした俺は……街の図書館にいた。

 ちょっと調べ物をしたかったんだ。


 気になっていたのは昨日の夜、シャラールの首に浮かび上がったタトゥーみたいなアザ。

 これは何かと本人に尋ねたんだが、「知ってるクセにからかうな」みたいにはぐらかされてしまった。


 俺は異世界人で、この世界に来たばかりのヒヨッコ。

 他のヤツらには常識のことでも、まだまだ知らねぇことばっかりなんだ。


 シャラールの種族である森林族(フォレスタ)に関する書物を調べていると、知りたかったアザのことが書いてあった。

 閲覧スペースに持っていって、座りながらじっくり読んでみることにする。


 その本によると、



 女性の生理現象として、愛する人物と触れ合うと、首にアザが浮かびあがる。


 それは首周りを一周する形状で、タトゥーのような意匠で、その愛を感じた人物の名前が彫り込まれる。


 浮かびあがる行為としては、接吻、抱擁、交合、受胎などが挙げられる。

 それらの行為を全て行うと、アザは完全体となり、チョーカーのような見た目になる。


 ただし、その女性が愛を感じていないとアザは現れない。

 なので、売春や強姦などの愛のない行為でアザが現れることはない。


 また、対象となる男性に愛を感じなくなると、アザは消滅する。

 複数の男性を同時に愛した場合は、最も強い愛を感じた男性のアザに上書きされる。


 それと共通する、男性側の生理現象も存在する。

 女性の愛を受けると、腕にアザが浮かび上がるというもの。


 これは女性のアザと対となっており、女性が愛を感じなければ浮かび上がることはなく、また女性側のアザが消滅すると、あわせて消滅する。


 ただし、女性と違いひとり分のアザだけでなく、複数の女性のアザを受けることができる。

 腕に多くのアザを持つ男性は『ハーレム王』と呼ばれ、尊敬や崇拝の対象とされることがある。


 『ハーレム王』に憧れ、腕にタトゥーを入れる男性は多い。

 虚勢や願望の現れからであるが、もちろんこれは女性の愛を受けていることにはならない。


 女性からの愛によって腕に浮かび上がったアザは、孔雀の羽根のように美しく、光沢を放つという特徴があるので、人為的なタトゥーと見分けるのはたやすい。


 なお、これらは森林族(フォレスタ)のみの特徴ではなく、すべての種族に共通する事項である。



「……首輪は、その代替行為でもあるんですよ」



 不意に横から声をかけられて、俺は椅子から転げ落ちそうなほどビックリしてしまった。



「うわあっ!? す……スジリエっ!?」



 いつの間にか隣の席で、小さな女の子が足を揃えてきちんと座っていて……俺をじっと見つめていたんだ。

 本に夢中になっていたせいで、ぜんぜん気づかなかった……!


 彼女は、スジリエ・ウォーレン・ハイラウト。

 俺の通う『リンドール学園』……その盗賊科のテイミング術部に所属する、ペットテイマーの女の子だ。


 小さな子供のようにしか見えないんだが、それが彼女の種族……地底族(ロウキャス)の特徴。

 大人になっても成長せず、背も1メートルくらいしかない。


 身長だけでいえばホビットのような感じだが、歳をとっても顔つきは小学生みたいな外見のまま変わらないんだ。


 非常に愛らしい種族なんだけど……スジリエ自身も、思わず道を踏み外してしまいそうになるくらい可愛い。

 俺がかつていた世界だったら、千年にひとりの逸材として一躍有名になるレベル。


 しかもスジリエは、ハイラウト王国の王女様でもあるらしい。

 今みたいに学園の制服を着ているときでも、王冠を被っているんだ。


 頭にチョコンと乗ったティアラと、切りそろえられたセミロングの髪を包むベール。

 百カラットのダイヤみたいに輝く、大きな瞳。


 思わずヒザを折りたくなるような、清廉で高貴なオーラをこれでもかと放つ美幼女……それがスジリエ・ウォーレン・ハイラウト……!


 そんな彼女なんだが、犬にする首輪みたいなのをいつも首に巻いている。

 今も嬉しそうに、細い指で持ち上げて、俺に見せつけてきた。



「タクミ様と盟約を交わして、わたくしはタクミ様のペットになりました。ですので、わたくしが今しているこの首輪は、アザと同じ意味があるのです。すべての愛を、タクミ様に捧げた……懐妊までしたのと、同じことなんです」



 穢れなき瞳で俺をまっすぐ見つめながら、そんなことを言うので俺は本当に椅子から転げ落ちてしまった。



「ああっ!? 大丈夫ですか!? タクミ様っ!?」



「だ、大丈夫、大丈夫だ。それよりも、教えてくれ、さっき言ったことは本当なのか?」



 俺はうろたえていた。いきなりペットだの懐妊だの言われて、混乱したからだ。


 たしかに俺は、かつてテロリストに拷問されていたスジリエを助け、彼女にせがまれて盟約を交わした。

 それが彼女をペットにする盟約なんて知らなくて交わしちまったんだが……まぁ、それはいい。


 懐妊したのと同じって……それはマジなのか!?


 でもスジリエ自身には、俺がなぜこんなに取り乱しているのか理解できていないようだ。

 小鳥みたいに、かわいく首を傾げている。



「はい……? 首輪のことですか? えっと、わたくしはまだ、タクミ様とはキスもしたことがございません。でも、世間的には『した』とみなされるのです。それを証拠に、ほら、タクミ様の腕をご覧になってください。ヒジの裏あたり……」



 俺は言われるがままに、ヒジの裏を見てみた。すると、虹みたいにキレイなアザが浮かび上がっていた。

 こんな所にアザができていたなんて、今までぜんぜん気づかなかった……!



「そのアザは、私のアザです。肩のあたりにある四つの小さなアザは、海棲族(マリネリア)の方たちのものですね」



 ヒジ関節の骨の上あたりに、スジリエのものらしい大きなアザ。そこから少し離れた肩口のところに、貝殻みたいな小さなアザが四つあった。


 そういえば、テロリストたちから海棲族(マリネリア)の女の子たちを助けたことがあったんだが、なりゆきでキスしちまったんだよな……その時にできたアザだろう。



「ふふっ、その小さなアザたちと違い、私のアザは完成形になっておりますので、私はタクミ様の子供を授かったのと同じなのです。ちなみに首輪はアザと違って強制力がありますから、タクミ様はいつでもわたくしを……あらっ、そちらのアザは……?」



 何かを目ざとく見つけるスジリエ。

 ずっと大人びた笑みを浮かべていたのだが、まるで浮気を悟った妻のように表情が消え去る。


 視線の先にあったのは、俺の手首で……真新しい、小さなアザが浮かびあがっていた。



「そ……それは……シャラールさんのアザ……! た……タクミ様……もしかしてシャラールさんと……なさったのですか……?」



 スジリエはうつむきながら震えていた。

 アザの浮かびあがった俺の手を、小さな手できゅっと握りしめながら……。



「えっ、あ、そ、その……スジリエ?」



 俺が声をかけた瞬間、弾かれるようにその顔があがる。



「ま……まいりましょう! タクミ様っ! 修学旅行に!」



 これから隣国に攻め入る女王のように、勇ましく宣言するスジリエ。


 俺は彼女の迫力に負けて、ぐいぐいと手を引っ張られて図書館を出た。

 外にはなぜか、大勢の街の人たちがいて、



「おおっ、救世主様がお姿をあらわされたぞ!」



「救世主様! どうかこの『サンロックの街』の(おさ)になってください!」



「あれほどの巨悪を、あれほど簡単に壊滅させたあなた様以外に、考えられません!」



「どうか、どうか、これからも我らの街を、お守りくださいっ!」



 しかし俺を遮って、返事をしたのはスジリエだった。



「……タクミ様はひとつの街におさまるような御方ではありません! 一国の王……わたくしの、ハイラウト王国の支配者にこそ、ふさわしい……! これから戴冠式がとり行われます! さあっ、道を開けなさいっ!!」



 スジリエの一喝に、人波が真っ二つに割れる。まるで海割りの奇跡のようだった。



「えっと、あの……戴冠式って?」



 問いかけを無視して、俺を引きずるようにして人垣を進んでいくスジリエ。

 昨日、ダンスパーティが行われていた中央広場に着くと、ピィーッと口笛を吹いた。


 すると……山の向こうから、船の帆みたいに巨大な翼をもつ鳥がやってくる。

 ばさっ、ばさっ、とあたりに風を巻き起こしながら、鳥は広場に降り立った。


 スジリエから「わたくしのペット、セルドゥです」と紹介されなければ、モンスターが襲来したのかと思うほど、デカい鳥だ。



「……さぁ、まいりましょう、タクミ様。わたくしの国、ハイラウト王国に……!」



 スジリエは、遊園地で乗り物をせがむ子供のように俺の手を引っ張る。

 上目遣いの瞳は、さっきまでの強気が嘘のように消えており、夢見る少女のようだった。

次回、ハイラウト王国へ!

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