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二話

 基本、うちの体育は走って、体操して、球技をやる。それだけだ。

 たまに体育教師がありがたーいお話をすることもあるが、勉強ばかりの学生の気分転換、その程度でいいのだろう。


 今日の体育は、体育館でバスケだ。

 五対五の試合を、チャイムが鳴るまでひたすら繰り返す。

 女子はコートの半分を使い、ネット越しにバレーボールをしていた。


 バスケ部員たちが「俺のターンだ」と言わんばかりに気合を入れている一方で、運動部ですらない僕のような人間は、試合に積極的に関わろうとはしない。ただチャイムが鳴るまで、楽にやり過ごすだけだ。


 それでも、順番は平等にやってくる。

 前の対戦組からビブスを受け取り、コートに入る。

 同じチームにはバスケ部員や、運動神経抜群の秋沢もいる。ボールが飛んできたら適当にパスするだけでいいだろう。そう思っていた。


「瀬戸口! シュート!」


 秋沢に声をかけられ、反射的に放ったシュートは、ゴールに掠りもしなかった。

 小中学校の体育でバスケに触れる機会は少なかったし、部活はサッカー部だったから、手を使う球技はいまいち勝手がわからない。


「がんばれー!」


「次はうまくいくって!」


 いつの間にか、出番待ちをしていた秋沢グループの女子たちまで応援に加わっていた。

 悪気がないのはわかっている。だが、シュートを外したときには、できれば何も言わずにスルーしてほしいタイプなのだ、僕は。


「瀬戸口!」


 秋沢に倣ってか、他のチームメイトまで僕にパスを集め始めた。

 これは僕がゴールを決めるまで、この茶番が延々と続くパターンだ。


 ……何かを思い出す。

 そうだ、これは小学校の運動会で、足の遅い子が放送席から全力で応援されている、あの光景に似ている。

 注がれているのは、純粋で、残酷なまでの善意だった。


「あっ」


 結局シュートは入らず、秋沢がリバウンドを取ってそのままゴールを決めた。

 隣から黄色い声援が飛び、秋沢はそれに応えるように彼女たちのもとへ向かい、ハイタッチを交わす。僕は完全に置いてけぼりだ。

 ちょうど授業時間も終わり、片付けを含めればこの試合が最後だった。


 その日の昼休みは、人通りの少ない階段の踊り場で本を読んでいた。

 午後の授業が開始される直前に教室へ戻ると、自分の席に伊佐敷が座っていた。

 あの辺りで、友人グループと談笑していたのだろう。

 わざわざ邪魔をするのも面倒だったので、チャイムが鳴るまで廊下で時間を潰した。


「てか、マジウケたわ。運動神経いいのが悪いのかね」


「そうだよねぇ。岳があんなにパスしてくれたのに全部外すとか、逆にセンスあるんじゃない?」


 ――あ、これ、さっきの体育の時間の僕の話か。


「あれがあいつの芸風だとしても、寒いよな」


「マジ損してるっていうか」


 予鈴が鳴った。僕が自分の席に戻ると、彼らは特に何も考えていないかのような顔で、それぞれの席へ帰っていく。

 悪口なら悪口だと、自覚すればいいのに。


「さっきの、怒らなくていいの?」


 隣の席から、皇が話しかけてきた。


「ああいうのは、何も言わないと『やっていい』って認めてるのと同じだから」


「別に、怒るようなことじゃない。僕には関係のない話だ」


「関係ない?」


「知らない人が、知らない場所で、知らない言葉を話しているのと同じだ。僕の知ったことじゃない」

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