第19話:孤独な守護者
「もう二度と、壊させない」 灰色の空の下、ルナはボロボロになりながらも立ち続けます。 かつての故郷を守れなかった後悔を、今、目の前の小さな若芽への献身に変えて。 迫り来る魔物の群れ。枯渇する魔力。 誰もいない静寂の中で、孤独な守護者の戦いが始まります。
灰色の空の下、私は今日も膝をつき、祈るように両手をかざしていた。
「――『グロウ・ライト(聖なる成長)』」
「――『タイム・アクセル(時間加速)』」
習得したばかりの光魔法と時空魔法を同時に発動する。
私の体から魔力が奔流となって溢れ出し、目の前の小さな若芽へと注がれていく。
精神を削る作業だ。額から脂汗が流れ、指先が痺れる。
それでも、私は止まない。
「もっと……もっと大きくなって。お願い……!」
私の願いに応えるように、若芽は淡い光を放ちながら、ミシミシと音を立てて茎を伸ばし、新しい葉を広げていく。
かつての世界樹のような巨木には程遠いけれど、今では私の背丈ほどまで成長した。
ガサッ……。
背後の茂み(といっても、焼け焦げた低木の残骸だ)から、不穏な音が聞こえた。
私は魔法を中断し、荒い息を吐きながら振り返った。
そこにいたのは、腐肉を漁るハイエナのような魔物『コープス・ドッグ』の群れだった。
世界樹の若芽が放つ純粋な魔力に引き寄せられてきたのだ。
結界が失われた今の里は、魔物たちにとって格好の餌場になってしまっている。
「……また来たのね。懲りない連中」
私は立ち上がり、若芽を背に庇うように翼を広げた。
連日の魔力供給で、MPは残りわずか。体もボロボロだ。
でも、私の瞳から闘志が消えることはない。
「グルァッ!!」
魔物たちが一斉に飛びかかってくる。
私は右手の平を突き出した。
「――『ウィンド・ブラスト』!」
突風を巻き起こし、先頭の一匹を吹き飛ばす。
しかし、その隙に左右から別の個体が牙を剥いて迫る。
ガブッ!
私の左腕に鋭い牙が食い込んだ。
激痛が走る。
でも、私は悲鳴を上げない。この程度、心を殺して耐えればいい。
「邪魔……よッ!!」
私は噛みつかれた腕を振り払い、至近距離から左目の魔眼を発動させた。 『トワイライト・フェアリー』の固有スキル、光と闇の複合魔法。
「――『カオス・フレア(混沌の火)』」
紫色の炎が炸裂し、コープス・ドッグを瞬時に炭へと変えた。
残りの魔物たちが怯む。
その一瞬の隙を見逃さず、私は風のように駆け抜け、残りの敵の首を次々とナイフで切り裂いた。
◇
戦闘が終わる頃には、日はすっかり暮れていた。
私は若芽の根元に力なく座り込んだ。
腕の傷がズキズキと痛む。白いドレスは泥と血で汚れ、自慢の羽も端が欠けてしまっている。
「はぁ……はぁ……」
かつて魔物に怯えて逃げ回っていた私が、今では一歩も退かずに戦っている。
誰も褒めてくれない。誰も助けてくれない。
孤独だ。
でも、不思議と寂しくはなかった。
サワサワ……。
背後の若芽が、労るように私の肩に葉を擦り付けてきた。
温かい。
そこには確かな命の鼓動がある。
「大丈夫だよ。私は負けない」
私は若芽の幹を優しく撫でた。
この子が育てば、きっとまた結界が張れる。そうすれば、散り散りになった他の妖精たちも帰ってくるかもしれない。
ティタお姉ちゃんたちが守ろうとしたこの場所を、今度は私が守り抜くんだ。
私は痛む体に鞭打ち、再び魔力を練り始めた。
眠っている時間なんてない。
私が倒れたら、この希望も終わってしまうのだから。
「……見ててね。明日は、もっと高くしてみせるから」
月明かりの下、傷だらけの妖精女王は、たった一人で守り続けていた。
その姿は痛々しく、けれど誰よりも気高く、美しかった。
【現在のルナのステータス】
種族: トワイライト・フェアリー
Lv: 5(UP!) HP: 200 / 650 MP: 50 / 900
状態: 疲労困憊、孤軍奮闘 守護対象: 再生中の世界樹(成長度:10%)
お読みいただき、ありがとうございました。 ドレスは汚れ、自慢の羽もボロボロ。 かつての無垢なルナを知っている読者様にとっては、見ていて胸が締め付けられるような回だったかもしれません。 けれど、傷だらけで若芽を庇う彼女の背中は、どんな時よりも大きく、気高く見えました。
一人で背負い、一人で戦う。 そんな彼女の孤独な努力が報われる時は、果たして来るのでしょうか。 次回、いよいよ物語は最終回を迎えます。 ルナの旅路の結末を、ぜひ最後まで見届けてください。




