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第17話:黄昏の妖精と瀕死の冒険者

復讐の炎が消えた後に残ったのは、圧倒的な「力」と、空虚な心でした。 光でも闇でもない、『黄昏トワイライト』へと進化したルナ。 金銀の羽を羽ばたかせ、灰の降る森を彷徨う彼女の前に現れたのは、かつて憎んだはずの「人間」の成れの果てでした。 死を待つだけの冒険者を前に、ルナが下した「気まぐれ」な決断とは。

 私は迷うことなく、三番目の選択肢に手を伸ばした。


「光だけの綺麗事も、闇だけの欲望も、今の私には似合わない」


 私は両方を知っている。  

みんなと笑い合った光のような日々も、理不尽に踏みにじられ、殺戮に手を染めた闇のような夜も。  だからこそ、私はその両方を抱えて生きていく。


 《個体名:ルナの進化を開始します》


 《種族:トワイライト・フェアリー(黄昏の妖精)への進化を確認》


 体が淡い紫色の光に包まれる。  

燃え盛るゴブリンの集落の熱気が遠のき、静寂な夜の冷気と、朝焼けの暖かさが同時に体に流れ込んでくるような不思議な感覚。  

意識が一度溶け、再構築されていく。


 ◇


 気がつくと、夜が明けていた。  

私は近くの小川の水面に自分の姿を映した。


「これが……新しい私」


 銀色の髪は、毛先に向かって夜空のような群青色にグラデーションがかかっている。  

瞳は左右で色が違っていた。右目はかつてのルビーのような赤、左目は冷たいサファイアのような青――「オッドアイ」だ。  

そして背中の四枚の羽は、片側が金色に、もう片側が銀色に輝き、羽ばたくたびにキラキラと星屑のような鱗粉を撒き散らしていた。


「綺麗……でも、どこか怖いくらい」


 以前の神々しさとは違う、妖艶で、底知れない神秘性を感じる姿。  

ステータスを確認する。


【名前】 ルナ 【種族】 トワイライト・フェアリー

【レベル】 1 【HP】 500 / 500 【MP】 800 / 800 【魔力】 250


【新規スキル】  

・『時空魔法Lv.1』:空間転移や時間操作の初歩。  

・『幻影魔法Lv.1』:実体のある幻を作り出す。  

・『黄昏のヴェール』:光と闇、両方の属性魔法を半減させる。


 桁違いのステータス。これなら、多少の魔物や人間相手でも遅れは取らない。


 ◇


 私は灰になったゴブリンの集落を後にし、森の外れにある街道沿いまで出てきた。  

人間は嫌いだし、怖い。でも、彼らの持っている「道具」や「情報」は利用価値がある。  

遠くから様子を伺おうと思った矢先、道端の草むらに倒れている人影を見つけた。


「……死体?」


 私は『隠密』スキルで姿を消し、慎重に近づいた。  

倒れていたのは、若い人間の女性だった。  

革鎧にショートソード。冒険者のようだ。  

しかし、その顔色は土気色を通り越して紫色に変色し、口からは白い泡を吹いている。


「う……うぅ……」


 微かに呻き声を上げている。まだ生きている。  

『魔力視』で見ると、彼女の体の中をどす黒い霧――猛毒が侵食しているのが見えた。  

近くには、死んだ『ポイズンスネーク』の死骸が転がっている。相討ちか、あるいは逃げ延びてここで力尽きたか。


(放っておけば、あと数分で死ぬわね)


 私は冷ややかに見下ろした。  

人間なんて、私を瓶詰めにしようとしたり、仲間を殺したりする野蛮な生き物だ。助ける義理なんてない。  

むしろ、ここで死ぬのを待って、装備や金品を頂いた方が合理的だ。


 そう思って背を向けようとした時、ふと、あの時のことを思い出した。  

ガラス瓶の中で絶望していた私を、理由もなく助けてくれた銀色の猫のことを。


『レアな妖精が瓶詰めになってりゃ、寝覚めが悪い』


 あいつはそう言った。  

損得勘定じゃない。ただの気まぐれ。


「……はぁ。私も焼きが回ったかな」


 私はため息をつき、女性の顔の前に舞い降りた。  

助けるんじゃない。これは「実験」だ。新しい魔法の使い心地を試すだけ。  

そう自分に言い聞かせて、私は右手をかざした。


「感謝しなさいよ、人間。私の気まぐれに」


 私は体内にある光属性の魔力を練り上げる。  

トワイライト・フェアリーは、光と闇、どちらの魔法も行使できる。


「――『キュア・ポイズン(解毒)』」


 淡い光が女性の体を包み込む。  

紫色の顔色が、見る見るうちに肌色へと戻っていく。  

苦悶に歪んでいた表情が和らぎ、呼吸が穏やかになった。


「……ん……ぁ……」


 女性のまぶたがピクリと動く。  

私はすぐに姿を消し、近くの木の枝へと移動した。  

ここで「私が助けました」なんて恩着せがましく出るつもりはない。人間と関わるのは、まだリスクがあるからだ。


 女性がゆっくりと目を開け、体を起こした。  

自分の手を見て、生きていることに驚いている様子だ。


「私……生きてる? 毒は……?」


 キョロキョロと周囲を見渡す彼女を、私は枝の上から静かに見下ろしていた。  

その瞳は、オッドアイの片方――冷たい青色で。  

助けた命がどうなろうと知ったことではない。でも、死にゆく灯火を拾い上げたのは、紛れもなく私の意志だった。


【現在のルナのステータス】

種族: トワイライト・フェアリー

Lv: 1 状態: 潜伏、観察中

行動: 人命救助(気まぐれ)

第17話、お読みいただきありがとうございました! 今回はルナの大きな転換点となるエピソードでした。 瀕死のエレナを助ける際、「ただの実験台よ」と自分に言い聞かせるルナ。復讐を経て心に冷たい壁を作った彼女ですが、その根底にある「誰かを救いたい」という純粋な魂までは消し去れなかったようです。


オッドアイに宿る、冷徹な殺意と温かな慈愛。 その矛盾を抱えたまま、物語はいよいよ「再生」へと向けて動き出します。 次回、ルナは導かれるように「始まりの場所」へと向かいます。お楽しみに!

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