表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『魔物が支配する世界に転生したら、小指サイズの妖精でした ~HP5の最弱スタートから、進化と「魅了」で生き延びます~』  作者: ゆっきー
第2章:孤高のサバイバル編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/22

第10話:ガラスの檻と貪欲な瞳

人間なんて、ちょろいもの。 パンをくれるし、私を崇めてくれる。 そう過信していたルナの前に現れたのは、温かなパンを差し出す手ではなく、冷たいガラスの檻と、欲望に濁った大人の瞳でした。 森の掟を忘れた妖精に、人間界の残酷な洗礼が浴びせられます。

 人間なんて、チョロい。  

村での「いたずら」を終えた私は、完全に調子に乗っていた。  

ハイ・フェアリーに進化したことで得た万能感。透明人間のように誰にも気づかれない優越感。それが私の目を曇らせていたのだ。


 村を離れ、さらに街道沿いを飛んでいた時のことだ。  


道端に一台の馬車が停まっているのが見えた。  

豪奢な商人風の馬車ではない。幌は薄汚れていて、どこか怪しげな雰囲気が漂っている。


「あれは何だろう? また何か面白いものがあるかな」


 私は警戒心もなく、ふらりと馬車に近づいた。  

御者台には、フードを目深にかぶった男が一人座って、何か手元の道具をいじっている。  

私は背後から音もなく忍び寄り、男の手元を覗き込もうとした。


 その時だった。


 男がガバッ! と振り返った。  


フードの下から覗くギラついた瞳が、正確に「私」を捉えていた。


「えっ……見えて……!?」


 嘘。魔力隠蔽は完璧なはず。  

思考が凍りつく一瞬の隙。それが命取りだった。  

男は手に持っていた「漏斗じょうご」のような奇妙な魔道具を、私に向けた。


「『捕縛キャプチャ』!」


 ドォォォッ!  漏斗から凄まじい吸引力が発生する。  

掃除機に吸い込まれる虫のように、私の小さな体は抗う間もなく空中で錐揉み回転した。


「きゃぁぁぁぁっ!?」


 羽ばたいても無駄だ。魔力の渦が体を拘束し、自由を奪う。  

視界がぐるりと反転し、私は硬くて冷たい「何か」の底に叩きつけられた。


 ガチンッ!


 頭上で蓋が閉まる音が響く。  

私は痛む体を起こし、周囲を見渡した。  

透明な壁。歪んで見える景色。  

ここは――ガラス瓶の中だ。


「ヒヒッ……大漁、大漁」


 ガラス越しに、巨大な男の顔がヌッと現れた。  

薄汚い髭、欠けた歯、そして粘着質な視線。  

男は瓶を持ち上げ、太陽の光にかざした。


「こいつはすげぇや。ただの妖精じゃねぇ。『ハイ・フェアリー』か? 

こんな上玉、図鑑でしか見たことねぇぞ」


 男の声が瓶を通して籠もって聞こえる。  

私は必死に瓶の壁を叩いた。


「出して! ここから出してよ!」


 魔法を使おうと魔力を練る。しかし、指先から出た火花はシュンとすぐに消えてしまった。  

この瓶、ただのガラスじゃない。魔力を遮断する『封魔の瓶』だ。


「無駄だ無駄だ。その瓶からはドラゴンだって逃げられねぇよ」


 男はニタリと笑い、瓶をわざと大きく上下に振った。


「きゃっ!?」


 中は大地震のような揺れだ。私はバランスを崩し、無様に転がり回った。  

世界樹の葉で作ったドレスがめくれ上がり、白い肌が露わになる。  

目が回る。気持ち悪い。


「へへっ、いい眺めだなぁ。その透き通るような肌、宝石みたいな瞳。……たまんねぇな」


 男は瓶にへばりつくように顔を近づけ、じろじろと私を観察した。  

まるで這いずり回る虫を見るような、あるいはショーケースの中の高級肉を見るような目。  

その視線が私の全身を舐め回すたびに、背筋にゾワゾワとした嫌悪感が走る。


「やめて……見ないで……!」


 私はスカートの裾を必死に押さえ、蹲って涙目で見返した。  


屈辱だ。  


さっきまで「人間はおもちゃ」だと思っていたのに。今、おもちゃにされているのは私の方だ。


「これなら闇市ブラックマーケットで金貨100枚……いや、変態貴族共にならもっと高く売れるか? それとも、俺のペットにして毎晩楽しむのも悪くねぇなぁ」


 男は瓶の表面を、汚れた舌でベロリと舐め上げた。  

ガラス一枚隔てているだけなのに、直接肌を舐められたようなおぞましさが私を襲う。


「ひぅっ……!」


 怖い。殺されるよりも、もっと恐ろしいことが待っている気がする。  

男は満足げに瓶を懐に――革鎧の内側のポケットに押し込んだ。  

汗臭い体臭と、革の匂いが充満する暗闇。  

ガタガタと馬車が動き出す振動が伝わってくる。


「さあて、とびっきりの『商品』を売りに行くとするか」


 暗闇の中で、私は膝を抱えて震えた。  

HPは満タン。でも、心はボロボロだった。  

私の慢心が招いた結末。  

馬車はゴトゴトと、欲望が渦巻く闇市へと進んでいく。


【現在のルナのステータス】

種族: ハイ・フェアリー Lv: 1

状態: 拘束(魔法使用不可)、恐怖、屈辱

所持品: なし(蜜壺は森の拠点に置き去り)

お読みいただき、ありがとうございます……。 あんなに神々しかったハイ・フェアリーのルナが、たった一本の『封魔の瓶』に閉じ込められてしまうなんて。 称賛の眼差しは、一瞬にして「金貨」を数える貪欲な瞳へと変わりました。 狭い瓶の中で、羽を折るようにして蹲るルナ。 彼女のプライドはズタズタになり、世界は再び色を失います。 この地獄から彼女を救い出す者は、果たして現れるのでしょうか……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ