31.正体
そもそも弱点とは何か。
こめかみ、喉、鳩尾、人中、金的、エトセトラ……。
生物にとっての弱点とは、いわば急所のこと。神経や血管が集中しいる場所や骨や甲羅などに守られていない場所。
急所が傷つけば激痛が走り、麻痺や気絶することもあり、場合によっては死に至る。
無生物にも弱点はある。
その一点を破壊すればすべてが崩れてしまうような構造上の弱点もあれば、経年劣化で脆くなった箇所。
そもそも完全な物体など存在せず、僅かな歪みが連鎖して弱点を作る。
ならば、弱点が無いとは……?
単純な話、弱点ではないということだ。
「頭痛が痛いみたいな話だけどさっ!」
壁を床に見立てて滑り上がる。ムーンサルトを決めるように空中で一回転。
鵺から距離を取り、鵺以外を観察する。
集中して全体を見る。
視覚的な話ではない、全神経を使って観察をしている。
白く線が浮かび上がる。鵺の形、建物の形状、地面の歪み、空中を漂うホコリ、頭上から根を下ろす植物……鼻血が出そうなくらい脳を回転させ、見れる限り全てを見る。
――ジッ
――ジジッ
【 称号「観測者」を得ました 】
【 索敵能力に補正が発生します 】
【 称号「神の視点」を得ました 】
【 確率でプレイヤーやエネミーを「看破」します 】
「見えた……!」
ああ、これは形に惑わされた。あまりにも人間そっくりな形を持ち、あまりにも人間らしく動くせいで勘違いした。
これは人間ではない。
そりゃそうだ。最初から奴は「鵺」なのだ、人間と思っていたのは私だけ。
これは「菌」だ。
人型の身体から伸びる無数の糸。目に見えないほどの――視覚以外でも感知が出来なかったほどの細い糸。
それが遠くから伸びている。
糸が集まる先、遠く彼方に光が見える。
弱点の光だ。
「角質や髪の毛が弱点の動物なんていないからね……これを動物って呼んで良いのかな? 動いていれば動物? 植物だって動くか――ええいっ面倒くさいっ! 生き物には違いないでしょ! ……菌って生き物?」
深く考えない方が良さそうなのでこれ以上考えることは止める。
いずれにせよだ。目の前の鵺を相手してはダメ。仮に勝てたとしても、鵺本体には何も影響しない。
これはいわば疑似餌のような、触角のような、触手のような……とにかく先っちょだ。先っちょ千切っても意味ない。
鵺の先っちょは放置! 鵺の根元を狙う。
「そうと決まればレッツゴー!」
鵺の先っちょ――鵺先を放って空を飛ぶ。目指すは彼方、鵺の元へ。
鵺先が私の目的に気づいたのか、さっきより慌てた様子で投石してくる。
なんだ、感情があるのかな? 菌と思ったけどやっぱり何かしらの動物なのだろうか。
よくわからないけどお前は無視っ!
「バイバー……イイイッ!?」
――ボボボボボボボ!!
四方八方からの投石。どうした急に。
意識を向けると、そこには無数の手があった。
壁や床、咄嗟に把握できた限り20本近い腕がそこら中に生えている。
人間の形を取らない鵺先。菌糸一本で作られている腕がいっぱい。
「うげげ、そんなことも出来るの。気持ち悪ぅー」
やっぱりホラーだよこれ。




