11.VSブラックマンバ その2
ゲームを辞めれば私は人間。
だから、人間の感覚で物事を考えがちになってしまうのだが、VRゲーム――アニマルユートピアでは一度その感覚を忘れるべきである。
地上より、水中の方が、私は自由だ。
水の振動で毒蛇さんが追いかけてきたことはすぐにわかる。
地上で逃げ回ればすぐに体力が尽きて捕食されてしまうだろうが、水の中であれば少し違う。
氷の島が水に浮かぶ群島。北極エリアの中でも水辺が多い第九氷上地点。
水の流れで氷が動き、ぶつかっては離れ、合体したり分離したり、島の形状や数がいつも変わる場所。
当然、海流も複雑に入り組んでいる。
ペンギンの翼は空を飛ぶためじゃなく、海を飛ぶためについている。
水を翼が掴み、流線型の身体が海を裂くように飛ぶ。
一度の羽ばたきで瞬く間に移動することが出来る。
「――! やばっ!」
翼を捻り急旋回。毒液ビームを回避する。
「身体は君の方が速いみたいだけどぉ……僕の毒液の方が余裕で速いみたいだねぇ。しかぁも、僕の毒は留まるんだよぉ」
毒液は弾丸ではない。放たれた毒液の軌道上の水が紫色に濁る。
毒が水に溶けている。なんで希釈されないの。
「ほら、ほら、ほぉら」
毒液、毒液、毒液……!
どこを狙って来るか察知できるし、直線軌道だから身体を少し動かすだけで避けることが出来る。
だけど、避ければ避けるほど、檻のように毒液の包囲網が作られて行く。
「僕はねぇ、君みたいなスピードとセンスが高い相手に勝って来たプレイヤーなんだよぉ」
「へぇ! すごいんですねっ!」
「だからぁ、これは勉強だと思ってちょうだぁい」
背後に流氷。
上も下も右も左も毒液の檻に囲まれた。
正面には毒蛇さん。逃げ場はない。
「先輩プレイヤーからアドバァイス。北極エリアでプレイするなら、動物の純粋な能力で頑張らないことだよぉ。一部例外はいるけどぉ」
たぶんホッキョクグマさんのことだ。
「だからぁ尖らせてぇ、尖らせてぇ、尖らせてぇ……ふふっ。そんなんだから北極プレイヤーは人格歪んだやつしか居ないって言われるんだけどねぇ――脳波読み取るし、あながち本当かもしれないけどぉ」
毒蛇さんが大きく口を開ける。黒い口の由来通りの暗い口。
漆黒の口が、まるで海に夜をもたらすように開口されていた。
――夜の帳が下ろされた
――その身を闇夜に同化させ、影は光を奪い去る
【 サードレベル「夜の嵐」 】
――黒い渦が巻き起こり
――全てを巻き込み吹き荒ぶ
毒蛇さんを中心として、海の水が真っ黒に染まる。
黒い水は渦を描き、嵐のように広がっていく。
毒液の檻も取り込んで、離れた流氷も巻き込んで、袋小路に追い込まれた私を襲う。




