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エッセイ・短編たちのおもちゃ箱  作者: ぽんこつ


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93/93

混雑と混乱の中で

朝の通学ラッシュ。

梅雨時や夏は。

最悪。

冷房入るけど。

蒸すし。

暑いし。

夏服になると。

とたんに増える痴漢。

けどでも。

この時間に乗ってるのには訳がある。

お目当ては。

一つ前のドアの所にいる。

短髪の男子。

瞳がくりっとしてて。

かわいい感じで。

でも。

背が高くて。

肩幅があって。

明星《めいせい》高校の制服も。

めちゃくちゃ似合ってる。

いつも耳に着けてる。

白いイヤホン。

何を聞いてるのかな。

色んな妄想しながらの。

20分ほどの淡いトキメキの時間。

運が良ければ。

数回。

目が合ったりしちゃう。

すぐに逸らしちゃうけど。


あっ……

誰かの手がお尻を触る。

まただ。

ラッシュだと身動きが取れない。

体をモゾモゾするけど。

痴漢なんて最低の卑怯者だよ。

『次は……』

車内アナウンスが聞こえて。

壁や人に挟まれて。

ぎゅうぎゅうなって。

駅に着いて。

ドアが開いて。

人の波が降りていく。

そして。

乗ってくる。

ドアが閉まって。

動き出す。

あれ?

視線の先。

彼の姿が消えていた。

明星は私が降りるとこより。

先の駅のはずなのに。


あっ……

また。

お尻を触られる。

もう……

「おはよう」

小さな声がして。

その手は引っ込んだ。

肩越しに。

見上げたら。

ん!?

彼がいた。

どういうことか。

分からなくて。

目をパチパチさせて。

スクールバッグを抱えた腕に力が入る。

「大丈夫?」

「あ、はい」

傍に彼がいるだけで……

体温が上がったのか。

めちゃくちゃ熱いし。

心臓はラッシュ。

会話はなかったけど。

気がついたら。

私の高校の最寄り駅のアナウンスが響いていた。

「降りよう」

「あ、はい」

どういう展開なのか。

思考は追い付かない。


「ちょっといい?」

うなずく私。

人の波からはぐれて。

ホームのベンチに腰かけた彼。

その隣に。

そっと。

腰を下ろす。

「俺は、嘉瀬仁《かせ じん》。君は東城だよね?」

「え? はい、あ、私は神保美春です」

「神保さん……あの、良かったら、明日から、一緒に通学しない? 途中までだけど」

「へ? 通学?」

「あ、いや、その、そういうこと」

頭の中の回路は。

目まぐるしく動くけど。

ぱちって。

真っ白。

「……いいですけど」

絞り出したか細い声。

口にしたとたんに。

変な汗が出た。

「じゃあ、明日から君が乗ってたとこにいるから」

これって?

思考も体も固まる私。


ガタン、ゴトン……

次の電車がホームに入ってきた。

「あの……」

「ごめん、遅れるから、また明日!」

彼は爽やかな笑顔を振り撒いて。

今来た電車に乗り込んだ。

あっ……

閉まった扉の窓から。

小さく手を振って。

消えていった。

私は。

振り返していた手を。

そっと。

包む。

これって……

告白?

なんか違うような……

でもでも。

思わぬカタチだけど。

彼と話すことが出来たし。

それに……

私が東城だって知ってた。

ってことは……

彼も私を見ていた!?

足を揃えて立ち上がる。

タンタン……

踵を鳴らしながら。

歩き出す。

連絡先。

聞きそびれちゃったけど。

唇を食む。


ガタン、ゴトン……

ホームに滑り込んだ電車。

連れてきた風が。

髪を撫でて。

スカートをふわりと翻していった。


お読み下さりありがとうございます。

感謝しております。

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