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エッセイ・短編たちのおもちゃ箱  作者: ぽんこつ


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あかし。

数年前に書いた作品です。

小説を書く以前。

私は写真を撮っていました。

始めたきっかけは、ある空間の景色に心が救われたから。

だったりします。

そこは。

初めて訪れた場所でした。

飛び込んできた眼前の光景に。

全身全霊を奪われ。

気づいた時には。

頬を温かい雫が。

幾筋も伝わっていました。


霞みを帯びた水色の高い空。

穏やかに流れる、一つとして同じ形のない雲の群れ。

柔らかな陽射しを受容する凪いだ海、

その水面には、大小数多の行き交う船。

浮かぶ幾つもの島また島。

遠く。

対岸には横へ横へと、どこまでも連なる山々。


くすみ、澱んだ感情でも。

キレイなものはキレイに見えた。

「なんてキレイなんだろ」

少し肌寒い風が髪をなで、目に溜まった物をさらっていった。


この場所は、標高400メートルほどの山のいただき付近にあるお寺。

下から山を見上げた時。

あんな高い所にある建物はなんだろう?

ただ、気になって。

一時間以上かけて、歩いてのぼった。


本当に。

キレイで。

時間を忘れて。

ただ。

ただ。

眺めていた。


「ありがとう」

と。

そこから見えた。

全てのものに最敬礼をして。

後ろ髪を引かれながら。

その場を後にした。


帰り際。

眼鏡をかけた、ご住職と思しき方が、声をかけて下さった。

岩肌にはめ込められたような。

お堂に案内されて。

お経をあげて下さった。

堂内は少しヒヤリとして。

線香や蝋の匂いに満ちていて。

読経の澄んだ低めのお声が。

全身を抱きしめてくれているような、安心感をもたらしていた。


そして。

ご住職は目を細め。

いきなり、こんな話を切り出された。

「日本人は自殺が多いでしょ、みんな優しすぎるんだよね……」

初対面にしては、気まずそうな話題。


だけど――


私には直結することだったから、素直に驚いた。


「自分と戦うためのつるぎを持つんです。そして、その剣で自分を守るんです。誰も最後は守ってはくれない。自分を信じてあげる事を諦めちゃいけないんですよ」

すんなりと体の奥に、染み渡っていくような。

やさしい、やさしい声だった。


そう。

旅をして、死ぬつもりだった私。


ある映画で見た、この島の景色が、とてもとても、心に残ったから。

一度、自分の目で見たくて。

最後に自分に見せてあげたくて。


でも。

あの空と雲と海と。

全部が全部。

キレイだねって。

感じれた時。

もう少しだけ。

生きてみようと想えていた。


それから、ご住職は、お寺や地域に纏わる面白いお話をたくさん聞かせてくれて。

私が去るのを、山門までお見送りしてくださった。


なんの取り柄もないけれど。

私が。

ここに、生きた、いたよ。

という物を何かに残したくて。

私はカメラを手に取ったの。


そして――

数ヶ月後。

また、あの場所を訪れてみた。

その空間に足を踏み入れた瞬間から。

なぜか心が安らいで。

体全体が喜んでいる気がして。

あえて言うなら。

そう。

魂が。

嬉しいって。

感じてるように思えた。


そうしたらね。

ご住職は覚えていて下さったの。

こんな一度きりの訪問者のことを。


今思えば、もしかしたら、ご住職は私に何かを感じて、あのような話をして下さったのだとさえ思えてしまう。


それから。

ご住職のお言葉と写真を撮ることを胸に生きていけた。


そして、当たり前のように、その場所へ足繁く通うようになり。


その島のきれいなものを、一人でも多くの人に知って貰えたらいいなって。

ブログとインスタを始めてみたんだ。


昔から文章を書くのが好きだったことを思い出し、出来る限りの言の葉を添えて投稿を続けたの。

ブログに、少しずつ読者がついて、コメントをくれて、ありがたいことに応援してくれた。


写真を褒めてくれる人もいたよ。

でもね。

私は思っていた。

——これは、私が撮ったからじゃなくて、被写体がキレイなんだよって。

ここに来れば、誰でも撮れるし、見られるんだよって。


そんな気持ちで、シャッターを切っていた。


気が付くとインスタの方は意外にもフォロワーが3000人程にもなっていた。

でも。

その頃から、キレイなものを撮らなくちゃって。

私の意識が少しずつ変わっていって。

いいねの数に目がいくようになって。

他人の写真を見るたび、自分に嫌気がさしていった。


ダメな私は。

数年後、知らないうちにクセになったみたいに、心がすさんでいく。


たぶん、感謝より義務のほうが強くなっていたんだと思う。


気付くと、あれだけキレイだと思っていた風景に心が感応しなくなっていった。

私を救ってくれた景色なのに……


私は。

そっと。

カメラを置いた。


結局。

ブログもインスタも投稿する事はなくなり、

でも、写真達には罪はないし。

私の感謝の記録。

そこに確かにいたという証明。

アカウントは、残したままにしておいた。

ブログとインスタのフォロワーの

何人かの方々が、心配して下さってメッセージをくれたけど。

当時の私は、その差し伸べられた手さえ、掴むことが出来なかった。


やっぱり。

ダメな私。

何年もそういう想いで生きながらえていた。


ある時。

私を救ってくれたその空間をモチーフにした作品を書き始めた。

これも、私がここに生きた証として。

投稿はしてみたものの、読んでくれるような魅力的な文章が書けている訳でもないし。

読まれるなんて思ってなかったから。

でもね、それでよかったの。

目的は存在証明なんだから。


でも、不思議なもので、次第に書くことが面白くなっていって、次のページをめくるように、次へ次へと書いていったんだ。


あるテーマが沸いて。

綴り始めた4作品目。

その作品を。

主人公と一緒に書き上げて。

完成した時。

言葉では表現できない。

満足感と達成感をもたらしてくれた。

理由は簡単。

自己満足の境地になった物語だから。

一人、何度も読み返しては、直して、また泣いて。

そう、それで私は満足だった。

だって、それが私の生きた証なんだから。


お読み下さりありがとうございます。

感謝しております。

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