とある放課後
ショッピングモールのフードコート。
いつものように私は、満理奈と紗世と放課後の一時を楽しんでいる。
ハンバーガーにフライドポテト、ケーキをテーブルに並べて。
好きな男子の話で盛り上がる。
紗世は明後日の金曜日に、剱持くんに告白するって、今からウキウキドキドキしてる。
私にはまだそこまでの男の子はいないけど。
トン、トン……
杖をついたおじいさんが、私たちのテーブルの横を、ゆっくりと横切っていく。
ベレー帽を被って。
よれよれのジャケットを羽織って。
「でさ……」
紗世の声に会話に戻る。
満理奈は好きじゃない男の子に告白されたらしい。
「タイプじゃないから」
「で、誰なの?」
私の問いかけに。
満理奈は首をひねって視線を伏せた。
「誰よ?」
紗世が満理奈のブレザーの袖を引っ張る。
「え、うーん。陸上部の酒田くん」
「えーー!?」
私と紗世の声が重なる。
酒田くんは学年で一番のイケメン。
女子からの圧倒的な人気を誇る。
「まじ?」
こくりとうなずく満理奈。
私は紗世と目を合わせた。
「どうして? 酒田くんがタイプじゃないの?」
「だって、彼はモテるでしょ? 私なんかよりもかわいい子いるし、それこそ紗世や芽郁みたいに」
「そんなことないよ、満理奈かわいいよ」
私はテーブルの上の満理奈の手を握る。
隣の紗世は肩に手をかけた。
「芽郁の言う通りだよ。満理奈かわいいんだよ。自信もって」
「ありがとう。でも、地味でしょ? だから彼とは不釣り合いだし。そんな子が隣にいたら、彼に申し訳ないでしょ?」
「もう、そんなこと気にしないよ。そんな風に彼のことを想ってあげられる満理奈は優しいし、地味でもなんでもいいんだよ」
「そうそう、恋をしたら女の子はかわいくもきれいにもなるんだから」
「いい? 満理奈より地味な私が言うんだから」
私は胸を張って、腰に手を当てた。
笑いが起きて。
私はポテトをつまんだ。
ぎーっと、椅子が鳴って。
隣の席にさっきのおじいさんが腰をかけた。
テーブルの上にはお皿にのった一切れのケーキ。
なんか、かわいらしくて。
ポテトを食べながら眺めていた。
すると、おじいさんはジャケットの内ポケットから一枚の写真を取り出した。
ケーキの隣に置いて。
目尻を下げながら、両手を合わせた。
「ばあさん。誕生日おめでとう」
喧騒の中、かすかに届いた声。
私はおじいさんを見つめたまま。
向かいの紗世と満理奈に手をひらひらさせた。
「なに? どうしたの?」
紗世の声。
「うん、お誕生日みたい」
「誰の?」
満理奈の声。
私の視線に気づいた紗世が、
「あの、おじいさん?」
と、声をひそめた。
「ううん、おばあさんみたい」
「え?」
重なる紗世と満理奈の声。
私は二人の方に向き直って、ニカッと笑い。
まだ残っていたケーキの皿を持ち上げた。
私の意図を察知した二人も。
お互いに顔を見合わせてニヤリと笑い、ケーキのお皿を持ちあげる。
席を立った私たちは、おじいさんのテーブルを囲んだ。
不思議そうに私たちを見上げるおじいさん。
「私たちも一緒にお祝いしていいですか?」
おじいさんは瞬きをして。
ベレー帽のつばをつまんで小さくお辞儀をした。
「どうぞ」
私はおじいさんの隣に。
紗世と満理奈は向かいの席に座った。
ケーキの脇の写真に視線を落とす。
色褪せた写真の中には、若い頃のおじいさんとおばあさんが幸せそうに微笑んでいた。
「わあ、きれいな人」
紗世の声に、おじいさんの顔がほころんで。
「おじいさんもかっこいい」
満理奈の声に片手を振るおじいさん。
「ばあさんはきれいだけど、私は普通じゃな」
「そんなことなーい」
「そうですよ、今もかっこいいと想います」
「ははは、ありがとう。こんな賑やかな誕生日は初めてだな、ばあさん」
おじいさんは写真を手に取って。
眩しそうに見つめていた。
「ばあさんとお互いの誕生日にここでケーキを食べていたんですよ、貧乏でお金もなかったから、苦労ばかりかけたけどね。幸せでしたよ」
「おばあさんのお名前はなんて言うんですか?」
「雪枝。雪に枝で雪枝です」
私は紗世と満理奈に目配せをしながら、声に出さずに「ハッピーバースデー」と口の形で伝える。
うなずく二人。
私は手を振って合図を送る。
「ハッピーバースデートゥーユー、ハッピーバースデートゥーユー、ハッピーバースデーディア雪枝さん、ハッピーバースデートゥーユー」
パチパチ……
私たち以外にも拍手がわいた。
おじいさんはお辞儀をしながら、私たち一人一人を見て。
「ありがとう。本当にありがとう」
しわだらけの顔がしわくちゃになったおじいさん。
その目に涙が溢れていた。
「じゃあ、おじいさんの誕生日教えて下さい」
「そうそう」
「私たちが、またお祝いします」
おじいさんの笑い声と共にこぼれ落ちた一滴。
やっぱりしわだらけの大きな手の上でキラリと光っていた。
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