第48話 家出先の新生活
—―ソフィアが『スリーピス』に家出をし、早いもので1カ月が経過していた。
「どうもありがとうございました」
レジの前で女性客にお釣りを渡したソフィアが丁寧に頭を下げる。
女性客は「ありがとう」と笑みを浮かべ、買い上げた本とお釣りを受け取ると店を後にした。
現在、ソフィアは駅前にある本屋で働いていた。接客も慣れているし、大好きな本に囲まれての仕事はソフィアにとって、まさに天職といえた。
しかもこの店のオーナーは話の分かる人で、仕事の手が空いたら本を読むことを許可してくれていたのだ。
店内をキョロキョロ見渡して客が1人もいないことを確認するソフィア。
「今、お客様は誰もいないわね……」
そこでカウンターの下から椅子を引っ張り出すと、ポケットに忍ばせておいた本を取り出した。
「フフ……早速続きを読みましょう」
ソフィアは本に挟んでいた栞のページを開くと、早速読書を始めた——
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—―1カ月前
『スリーピス』に到着したソフィアはホテルに一時身を置き、すぐに仕事を探そうと考えていた。
本当は当分働かなくても十分過ぎる程のお金をアダムから貰っていたのだが、どうしてもそのお金に手を付ける気にはなれなかった。
アダムに厭われている自分が、貰っているお金に手を付ける資格はないのではないかと思っていたからだ。
そこでギリギリまで粘り、仕事も見つからず生活に行き詰りそうになるまでは絶対にアダムのお金を使うまいと心に決めていたのだ。
少しの間はホテルに身を置き、働く場所と住まいを探そうと考えていたソフィア。
早速近場でホテルを探すために町を歩いていたところ、本屋の前を通りかかった時に偶然求人募集の紙が貼りつけているのを発見した。
行動力が高いソフィア。
大きな荷物を持ったまま本屋へ入って店のオーナーである老女と面接し、その場で即決となったのだった。
しかもその老女は、本屋以外にもアパートを保有していた。そこで現在住む場所も探している旨を伝えたところ、「丁度空き室があるから」とついでに入居手続きもしてくれた。
アパートは本屋の裏手にあり、ソフィアはその日の内に仕事と済む場所を手に入れることが出来たのだった——
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ボーン
ボーン
ボーン……
店の振り子時計が18時を告げる鐘を鳴らした。
ソフィアの退勤時間になったのだ。帰り支度をしていると本屋のオーナー、アンが店に現れた。
「お疲れ様、ソフィア。もう終わっていいわよ」
「はい、オーナー。ありがとうございます」
エプロンを外していると、じ~っとアンがソフィアを見つめてくる。
「あ、あの……どうかしましたか?」
「いえ。ちょっとね……う~ん。やっぱり似ているわねぇ。名前も同じだし……」
「え? 何のことですか?」
首を捻るソフィア。
「あのね、駅前の掲示板に人探しのポスターが貼られていたのよ。しかも懸賞金付きで」
「そうなのですか? 懸賞金付きだなんて、まるで犯罪者みたいですね。え……? まさか、そのポスターの人物と私が似ているってことですか?」
何故か嫌な予感を抱くソフィア。
「ええ、そのまさかなのよ! 自分の目で確認してきた方がいいわ。あ、念のために顔を隠して見に行った方がいいかもしれないわね」
「ありがとうございます。ではそうしますね。では失礼しますね」
ソフィアは帽子を目深にかぶり、外に出るとポスターが貼られていると言う駅前の掲示板へ足早に向かった——




