八十五日目
太陽暦934年 7月29日 曇り
ゼノン=クロック 16歳
今日は馬車に乗った。馬車と言えば、奴隷として売られたとき以来であり、正直あまりいい思い出がない。売られたのは日記を見返してみたら一か月以上前のことだった。百龍の奴、元気にしてるかな。そういやあいつ、何で金が欲しかったんだろうか。そこまで生活がひっ迫してるようにも、金に心の底から貪欲な奴でもなかったし。あいつ、南の町の奴だし、見かけたら少し調べてみようかな。
いや、どう考えても俺が人間ってバレる未来しか見えないのでやめておこう。一応、俺の偽装は結構うまく行っていると思っている。なんたって、ジャーニーも初見では俺を俺と認識できなかったほどなのだから。
まあ、そんなことは置いておいて、馬車は二ペアずつ分かれて乗ることになっていた。俺とサーシャは副団長であるオーデットさんと同じ馬車で南の町へと向かっていた。
まあ、うん、何と言うか空気が重い。流石のサーシャも副団長は怖いのか少し萎縮している。
「オーデットの旦那! もっと気楽に行きましょうよ。後輩たちが委縮してるっすよ。」
流石に空気が重すぎたのか、副団長のペアであるヨーキーさんが馬を操りながら声を掛けてくれた。
ヨーキーさんは騎士団では珍しい女騎士で、男勝りな妖精だ。服装はあまり見ない不思議な恰好をしていた。何と言えばいいのか分からないが、服装の雰囲気としては冒険者ランクの昇格試験前、俺に笛をくれた白髪の男に似ていた。そう言えば、あの後、ちょっと図書館で調べたな。武者鎧だっけ? そんな単語があった気がする。武器は薙刀という槍みたいな武器を使うらしい。
「そうか。ならば、何か話でもしよう。」
「ああ、もうその声がダメっす。新人のファル君。どうしたらこの威圧感消せると思うっすか?」
いきなり、話を振られてマジで焦った。何て言ったっけな。
「え、あっ、はい! 俺、いや私は、え~っと、わ、笑えばいい、と思います!」
こんなことを言った気がする。めっちゃ頭をフル回転させたのだが、このぐらいしか出てこなかった。
「だって旦那。はい、ニカーっと笑ってください! ニカーっと!」
「こうか?」
一瞬、髑髏の奥の瞳の光が揺れ動いたように見えた。うん。今思っても仮面の上からじゃ、表情はわかんねえや。
「旦那~! 何も変わってないっすよ。」
「すまぬな。」
まあ、よく考えればこの会話自体が空気を和ませてくれたのでそれはとても良かった。副団長と長いことペアを組んでると空気の和ませ方とかも何パターンか用意しているものなのだろうか。
「あ、サーシャさん。今回の任務、頼りにしてますよ。副団長に次いでの実力、新人のファル君にもいい恰好見せないといけないっすしね。」
「うん、頑張る。ヨーキーも頼りにしてる。」
「やったー! サーシャさんに頼られた! これは私がこんな任務パパッと片づけて、期待に応えないっとっす。」
こんな感じの会話を聞いていて思うのだが、やっぱりどう考えてもサーシャって俺とは不釣り合いなぐらい強いよね。
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所持金:35049スター、15246マニー
身分証:冒険者証(赤)、騎士章
武器等:偽装剣(カフェリアから貰った)、俺の愛剣(ハルル産)、笛、鉄製のブーメラン、鈎爪付のワイヤー
装備等:魔法の眼鏡、魔法のカラーコンタクト、魔法のローブ
所持品:開かずの小瓶、火打石、干し肉、薬草、水筒、方位磁針、救急用具、羽ペン、鉄板等の焼肉セット、焼き肉のタレ、魔術基礎(悪魔式)、奪光石、魔術式連絡紙
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