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 この星の人々は地球人と比べて、性欲が事実上少ない。20歳の容姿を110歳まで保つのに人口爆発が起きない理由はそれであり、またその原因は松果体と輝力にあることが科学的に証明されている。松果体は性エネルギーを生命エネルギーに変換する力を有し、そして変換時に松果体が燃料にするのは輝力だからだ。よって厳密に言うと戦士は性欲が少ないのではなく性欲制御に長けるのであり、それが「性欲が事実上少ない」と表現される真相なのだ。

 また事実上という語彙が付くのは、非戦士も変わらない。この星の子供は極少数の例外を除き3歳から輝力量増加訓練と輝力操作訓練を開始し、地球人とは比較にならぬほどその二つを巧みにこなす。よって非戦士も地球人と比べたら性欲が少なく、けれども戦士と比べたら多く、それが劣等感と相まって性欲への強固な恥を形成する。それが良い方に作用し妖精に性欲を覚えることは頑として退けても、恋愛感情はその限りではない。それどころか人と妖精という絶対に結ばれない境遇に後押しされ、清らかな純愛が芽生えるとのことだったのだ。

 という心の働きもしくは性質は、17連続童貞人生の俺にも容易く理解できた。よって仮に俺が組織に所属していなかったら、「由々しき事態」と発言した妖精長に反論したに違いない。だがダメダメだろうと、俺は組織に所属する者。創造主が用意した伴侶はどうなるのだろう、と危惧せずにはいられなかったのである。

 幸いその危惧をアカシックレコードで調べること、及び調査結果を妖精長に話すことを母さんがテレパシーで許可してくれた。恋愛感情の件を母さんが把握していないなどあり得ないから、生じ始めた変化のせいで妖精族が絶滅するなんてことにはならないと思われる。言うまでもなく、油断大敵だけどね。ただ「調査終了まで妖精長を含み他言厳禁ですからね」と念押しされたのは、なぜなのだろう。まあ母さんのことだから、悪いようには絶対ならないけどさ。かくしてアカシックレコード云々は秘せねばならぬが、恋愛感情が芽生え始めていることへの見解は無関係といえる。俺はそれを、妖精長に伝えた。


「結ばれないからこそ純愛になるなんて、やるせないにも程があります」「ですよね。翔さんにそう言って頂けて、胸のつかえが少し取れました。感謝します」


 いえいえ俺こそそう言って頂けて背中の丸みが幾分取れました、と心の中で感謝したところ、妖精長に「どういたしまして」と声に出して返されてしまった。う~む俺は妖精長にも、心の中が筒抜けらしい。まあ慣れてるし、それに振袖娘になら全然いいか。そう結論し、傾聴する姿勢に戻る。妖精長はクスクス笑い、説明を再開した。

 次に説明されたのは、「人と関わっていないのに生じた変化」についてだった。組織でいろいろ教わったことが活き俺は複数の推測を瞬時にできても、通常は難しいと思われる。したがって引き続き、傾聴に徹した。


「人と関わっていないのに生じた最大の変化は、『大陸防衛戦』という語彙が妖精の社会にいつの間にか広まっていたことです。すべての土地神がこの件を非常に重視したため、歴史に残るような徹底的な調査を行いました。それにより、人と関わっていない複数の者たちが同時多発的に大陸防衛戦という語彙を使い始めたことが判明したのです。その調査結果に茫然としていたところ、ありがたいことに星母様が降臨され、調査結果は正しいことを教えてくださいました。また星母様は私に微笑まれ、こう付け加えられたのです。『時が来たら、私の息子にそれを打ち明けなさい。当人の自己評価はともかく、息子は優秀ですから』 翔さん、良かったですね」


 四十半ばのオッサンを子供のように褒める母親に苦笑してしまった、という演技をした俺は百点満点中の何点だったのだろう。間違いなく赤点だよなあと落胆することで、笑み崩れる顔を比較的早く修正できた俺だった。

 そんな自分をうっちゃり、俺は考察を始めた。妖精長によって明かされた大陸防衛戦の真相と、俺が認識していた大陸防衛戦とには、大きな齟齬があったからだ。考察の手始めに記憶を探ったところ、散山脈諸島で仲良くしている妖精の子供達に「遠い場所にいる妖精族のうっかり者が人族と闇族の戦争を大陸防衛戦と表現したんだって」と教わったことを思い出した。あれは散山脈諸島のうっかり者に美雪のアベマリアをバラされた後の出来事だったため笑い話として流したけど、実際は俺自身が、妖精族の情報操作にまんまと引っかかった笑い者だったのである。まあそれは慣れっこなので脇に置くとして、では誰がその絵を描いたかというと、


「母さんと考えるのが妥当だよなあ」


 心の中で、俺はそう呟いた。その呟きが筒抜けのはずの妖精長へ、顔を向けてみる。すると「私には守秘義務があるんです」的に手をゴメンナサイの形に合わせている大根役者が目に飛び込んできて、今回は堪えきれず吹き出してしまった。


「翔さん酷いです」「いやいやそれ故意にしてるでしょ。妖精長さんはいつも、もっと上手に演技するじゃん!」「エインティータ」「へ?」「私の名前です。長いと感じたら短縮してもいいですし、短い愛称を考案してもいいですし、それも面倒なら振袖娘でも構いません。この振袖は、翔さんのために着ているんですし」「・・・えっ?!」「ほらボケッとしてないで、さっさと決める!」「はい! ってごめん、短縮可能か少し考えさせて」「仕方ないですね。絶品だった甘酒と煎餅に免じ、少しなら待ちます」「ありがたき幸せ~~」


 譲歩して頂いたお礼ですという体にして、ぜんざいのお椀をエインティータさんの膝元に置く。紅白のお餅入りの粒あん仕立てにしたのが正解だったのか、花も恥じらう笑顔になってエインティータさんはぜんざいを楽しんでいる。かといって油断して待たせたら、次はどんな要求をされるか知れたもんじゃない。俺は意識投射し圧縮率最大で、エインティータという名前について考察した。

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