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 こうして会議の3D電話を切ると同時に、分身指導の第一回目は改善案と課題込みですべて終了した。時刻は午後8時50分。当主の皆さんも俺同様、午後9時就寝を習慣にしているのだろう。少なくとも俺と直接交流のある当主達は全員そうだったな、とトイレで用を足しつつボンヤリ考えていたら、焦りに突如襲われた。それはかなり強力で、ぶらぶら形状のとある物が縮みあがり放出量が激減したほどだったのである。幸い焦りの詳細は判っていたため輝力圧縮最大でトイレを済ませテントに戻り、嘘ではない部分を含む言い訳のテレパシーを送った。


「翼さんゴメン、トイレに行っててテレパシーが遅れちゃったよ」「・・・まるっきり嘘でもなさそうですね。私も就寝準備をしていましたし、お互い様ということにしましょう」


 焦りに襲われるまでテレパシー会話の必要性を完全に忘れてたヤバかった~~、と心の中で頭を抱えたら全部筒抜けになると覚悟せねばならない。よってそれは後回しにして今回の謝罪と、20家の調整役を務めたことへの労いのテレパシーを翼さんに送った。最初に返って来たのは順番が逆の調整役の件で翼さんはそれをあっさり認め、それはそれで筆頭名家の筆頭当主としての翼さんの巨大さを改めて実感したものだが、あっさりさはいわゆる嵐の前の静けさなのだろう。俺は気を引き締め、次のテレパシーを待っていた。

 のだけど、


「会話の途中でゴメン。今から意識投射でそっちに行っていいかな?」


 完全に想定外のテレパシーを完璧な無意識で俺は翼さんに送っていた。さすがの翼さんもこれには虚を突かれたらしく「そっちって寝室ですか?!」などと頓珍漢とんちんかんなことを宣っていたけど、お陰で俺は冷静になれたのだから頓珍漢様々なのだ。


「アハハ、それはまたいつかってことで」「いつかって、いつかいつかが来るってことですか?!」「俺が天風半島を最初に訪れた13歳の夏も、翼さんの私室に関するコントじみた会話を朝っぱらからしてたよね。懐かしいなあ」「今思うとあの頃の方が大胆で、恥ずかしくてなりません」「うんうん、積もる話も山ほどあるしやっぱ準四次元で会おう。俺が場所を創ろうか?」「とんでもな・・・例えばどこを創ってくれるのでしょう」「そうだなあ、俺の母校のキャンパスなんてどうだろう。翼さんは留学中に来たことある?」「無いです無いです! やった~、母校に招待してもらえる―――ッッ!!」


 出身大学のキャンパスに招待するのって、アイスランドでは特別な意味があるのかな? あるにせよ前世のことだし、何より翼さんが機嫌を直したことの方が何倍も重要だ。ベタだけど西キャンパスのロマネスク様式の講堂を、気合を入れて再現しますか!

 と気合を入れて再現した渾身の力作を翼さんはとても気に入ったらしく、会話は終始和やかに進んだ。折を見て分身指導の件を謝ったら「もういいですよ」と笑顔で返してくれたしね。千余席の講堂は特に高評価で、翼さんはペンダントからハープを取り出し壇上で弾き始めた。曲が終わり拍手したのち俺もバイオリンを創り、ハープとバイオリンでセッションする。曲は定番中の定番の「タイスの瞑想曲」だったが超お約束曲だったのが功を奏し、初めてとは到底思えない息の合ったセッションとなった。勢いあまってハグしちゃったけど艶っぽさは全然なかったし、まあいいかなと俺は考えている。


 翌日の昼食後。

 母さんの「今日に限り美雪は欠席しなさい。妖精長には私が伝えておきます」との謎の指示に従い、美雪がいない以外は訓練場横のいつもの場所に準備万端整えたのち、俺は妖精長をお招きした。妖精長が現れるや吹き出しかけるも、吹き出したら俺の負けが確定する。頬を膨らませて俺を睨んでいるがそれは演技にすぎず、しかもその演技は、お菓子をもっとせしめる目的でしているんだからね。演技丸出しで怒ってみせ俺を笑わせ、しかし俺が笑うや「酷い」と泣き崩れ、和菓子やお汁粉を追加させようと妖精長は目論んでいるのである。それに乗ってあげるのも親交を深める手段の一つだけど、嘘泣きは母さんでお腹いっぱいなのが実情。嘘泣きに辟易するのは準四次元が圧倒的に多いから、妖精のおさといえど知らないんだろうけどさ。

 話を戻そう。

 頬をぷっくり膨らませて俺を睨む振袖娘もとい妖精長の膝元に、俺は酒粕甘酒の入ったお椀を準四次元から取り出して置く。準備万端整えた物の一つに、この酒粕甘酒も含まれていたってことだ。2メートルの振袖を風にたなびかせているヘンテコ娘だろうと妖精の長に変わりないため、500万の妖精に酒粕甘酒を振る舞った先日の出来事を知らないはずない。そう要は「なぜ私が二番目なのですか!」と、振袖娘は拗ねているのである。長い付き合いなのに二番目にしたのは悪かったし、食べ物の恨みは怖いとも言うから、俺の落ち度で間違いないんだけどさ。よって、


「妖精長殿、先日は不誠実なことをしてしまいました。せめてものお詫びとして酒粕甘酒の他に、アルコールを含まない甘酒も特別に用意しました。両方を召し上がって頂くのは、妖精長殿が初めてです。ご賞味ください」


 という筋書きにした。妖精長が初めてなら長としての面子も立つしね。普通の甘酒の方も、こだわり抜いたお粥を使っているから絶品のはず。前世の俺はお米をこよなく愛し、炊き立てのふっくらご飯ももちろん好きだったが、お粥も負けぬほど好きだった。言うまでもなくどちらも土鍋で炊き、技を絶えず磨いていた。二十万円する最高級電子炊飯器(受注生産)より土鍋の方が、美味しいご飯にやっぱなったのである。願わくばもう一度、日本の米を食べられますように。

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