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 という訳で、翼さんとの応接室対話に話を戻そう。

 人との出会いにめっぽう恵まれた幸せをしみじみ噛みしめたこともあり、分身指導についてあまりにも考え足らずだったことを俺は深く反省した。それが翼さんの作戦だったと気づいたのは、分身指導の三日目を終えた夜だった。疲労した体を基地の湯船に浸し、何も考えずボ~~っとしていた俺の脳裏を、ある疑問が駆けたのである。


「あれ? 従来の名家巡りで昼食や夕食を共にしたのは、2回に1回だったよな。なのに分身指導では初日から今日までずっと、なぜ子供達に泣き続けられているんだ?」


 従来はカレンの飛行能力にものをいわせ、一日に4家訪問が通常化していた。4家訪問だと食事は2回に1回になり、残念がられても泣かれることは無かった。2回に1回ということは次は一緒に食事できるため泣かなかったというのも勿論あるだろうが、何かが引っかかる。俺はこの三日間を思い出し、子供達が泣き出す場面を心に映していった。それにより、超単純なトリックにやっと気づけたのだ。大人達は子供に、こう言っていたのである。「師匠が君達と一緒にご飯を食べることは、もう無いんだよ」と。

 分身指導は建前上、試験的に行うということになっていた。にもかかわらず大人達は、食事を共にすることは二度とないとイメージさせる言葉を子供達に掛けていた。これは俺にも非があり、分身指導をする前は「試験的というのは建前で実際は本決まり」と密かに思っていたため、大人達の言葉に違和感を覚えなかったんだね。それは俺の非なのだけど、冷静に振り返るとやはり不自然。もう二度とないと意図的に印象付けた気配が濃厚で、ということは全名家が結託した共同作戦ということになるのである。だが仮にそうだったとしても、怒りを始めとするネガティブな感情は一切湧いてこなかった。なぜなら、


「俺が参加する食事会を、大人達も楽しみにしてくれていたってことだからな」


 俺は湯船の中でそう呟いた。視界が急速に霞んでゆく。それを引き起こしている液体が雫として流れ落ちる前に、俺はお湯で顔を勢いよく洗ったのだった。

 分身指導第一回目の五日目の夕方、俺はついにこう声を掛けられた。「翔さん、お疲れのようですね」 その声の主は、三条家当主の三条忠さん。奥様の葵さんも忠さんの横で、不安げな眼差しを俺に向けている。本体が教えてくれた「数千人いるよ」を基に考えると、二人は初日の正午の時点で疲労を既に見抜いていたことになる。葵さんと翼さんは仲が良いから、分身指導はデータ収集の場でもあることを初日の内に知っていた可能性も高い。にもかかわらず第一回目における訪問最終日の今日の夕方までそれを口にしなかったのは、俺の意志を尊重してくれたからに他ならない。まこと、ありがたいことだ。俺は頬を掻き「事と次第をテレパシーで一気に送ります。情報が多くてすみません」と謝罪し、ゴブリンとの戦闘から始まる情報を可能な限り送った。それを受け葵さんが「水臭いです、なぜもっと早く打ち明けてくれなかったのですか!」と怒り出したのは、第一回分身指導における最高の思い出になっている。謝る俺と一緒に忠さんも必死になって謝ってくれたのだから、一位で当然なのだ。

 という時間を三条夫妻と過ごした翌日、分身指導第一回目の最終日にあたる六日目は、訪問した10家すべてで「水臭いです」系のお叱りを直接受けることになった。直接ではないメールも加えると全名家に叱られたことになり、俺に内緒で結託していたことがほぼ確定したが、悪い気はしない。人類滅亡阻止の先頭を走る20名家の関係が良好かつ協力体制を結んでいることに、諸手を挙げて賛成だからだ。という訳でそれを当主達に伝え、3D電話による話し合いの場を六日目の夜に、つまりつい先ほど設けさせてもらった。当主達に「翔さんとの食事会を幼少期に体験しなかった世代が、体験した世代と同等の好意と信頼を翔さんに寄せるとは思えないのです」と指摘されたのは、ほんの数十分前ってことだね。各名家の筆頭当主20人に俺を加えた3D電話会議により、第二回目の変更点及び協力事項が決定した。


『分身指導の第二回目は予定を変更し、午前に2家、午後に2家を訪問して食事会を再開する。ただし肉体の俺は1人しかおらず食事を食べられるのは12家のみになるが、子供達との食事を最優先した改善案ゆえ大人達の協力を要請する』


 皆さんの見事な協力体制に第一回目は完全敗北しましたから改善案にも見事な協力体制をお願いします、とド直球を投げたら当主達は開き直り「「「「任せてください」」」」と胸を叩いていた。まあこれくらい肝が太くないと、名家の筆頭当主は務まらないのだろうな。

 ただ、会議ではあえて口にしなかった事もあった。それは。


『俺が今以上に忙しくなり、肉体の俺が名家を訪問しない第一回目の分身指導しかできなくなる未来が、訪れるかもしれない』


 ということだった。直感によると五分五分ではなく、そうなる未来が40%、ならない未来が60%だったから、口は災いの元に倣い伏せることにしたのである。う~んでも眼差しから察するに、翼さんには全部バレバレなのだろうな。

 そう思うだけで胸に痛みが走る。話題を変えよう。

 分身指導をしたことにより、課題も判明した。それは、分身上限を30から40に引き上げる、という事だった。そもそも30を上限にした根拠はオーケストラであり、軍人としての務めは考慮してなかったんだよね。40分身が可能になれば訪問した家それぞれに20ずつ分配でき、それだけあれば40人の子供の食事を世話できる。左右に1人ずつで40人だ。腕を4本にすれば世話は完璧になるし、それも課題に入れておこう。

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