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 でもまあ、それは脇に置いて良いのかもしれない。眼前の光景に目を向けるや、俺に筋を通した以外の理由を苦もなく閃いたからだ。俺はそれを口にした。


「テレポーテーションしたら、出席するのは花の妖精長のみになります。それを、避けたかった。どうでしょうか?」「はい、仰るとおりです。翔さんが多忙を極めているのは承知していても、『一瞬一瞬をテストされているのと変わらない』と教えていただいたさい、我慢できなくなってしまったのです。翔さん、散山脈諸島以外の妖精も、翔さんの素晴らしい講義を受講できるようにしていただけないでしょうか」


 俺ってなぜ、こうもアホなのだろう。

 と今以上に実感したことは、ひょっとしたら無いかもしれない。解明できたら、アホのように簡単なことだったからだ。そのアホは、これだね。


『名家巡りを輝力俺に任せられるようになったのだから、土地神巡りも輝力俺に任せられるようになった。その土地神巡りついでに、講義すればいい』


 そうマジで、簡単極まることだったである。改めて振り返ると二周目の土地神巡りに母さんが同行を保留した理由も、この簡単極まることにあった。変わらぬメンツで巡ったら行動も変わらない可能性が高く、輝力俺に任せる云々に気づくのがきっと遅れたに違いない。その証拠にそれを問う前の俺は同行すると信じ切り、心の奥底で「母さんの神業をまた見学できるヒャッハー!」と浮かれ騒いでいたからね。あの時点で輝力俺による妖精への講義を視野に入れて動いていれば、母さんは保留などせず喜んで付いてきたはずなのである。それをさせてあげなかったなんて、とんだ親不孝者だ。ヤバい、落ち込みの底なし沼に嵌りそうだぞ。

 というのは、ただの冗談。正確には冗談にすべく、底なし沼に嵌りかけていた自分を奮い立たせたのだ。その奮い立たせた心で、俺は花の妖精長に胸を叩いてみせた。


「任せてください。実は俺、複数の場所に複数の輝力俺をテレポーテーションさせ、各々に独自行動をさせることがつい最近可能になったんです。この大陸ならどこでもテレポーテーションさせられますから、花の妖精長の依頼を喜んで受けますね」


 それ以降はしばし、若干の忍耐の時間となった。花の妖精長が感極まり涙ぐんだのは平行世界のハーレム俺のお陰なのか過不足なく対処できたが、母さんのメンドクサさは、あちらの俺でもお手上げだったのである。ただあっちの俺が言うには、お手上げになってあげることは母親に限り親孝行の一つになるらしい。難しいのは、嫁姑問題でお手上げになったら離婚待った無しになるということ。前世の昭和男の気質を多分に引きずる俺は、嫁姑問題という語彙を聞いただけで今でも寒気を覚えてしまう。よって美雪と母さんにその問題がないことは無性にありがたく、そしてそのありがたさに縋ることで、メンドクサくとも若干の忍耐を強いられるだけで済んだんだね。

 ちなみに面倒だったのは、酔っぱらった母さんが「翔を褒めちぎってこねくり回したいのにその背では無理ですから出会った頃に戻りなさい」と確信犯的に無茶振りしてきたことだ。なぜ確信犯的かというと、今の俺なら6歳の輝力俺を創るなど造作ないがそのためには大人としての矜持を捨てねばならず、母さんだけなら捨てない自分に容易くなれても美雪に輝く瞳で見つめられたらそれが凄まじく難しくなり、そしてそこまで見越して「戻りなさい」と母さんが命じていることにある。あ~、メンドクセ――ッ!!

 面倒なので結果を述べると、この件を「婿殿問題の亜種」と捉えることで俺は無茶振りを突っぱね通すことに成功した。婿殿問題とは、婿に入った男が嫁姑連合軍と繰り広げる戦い全般を指している。ある種の人は被害者になることは意識しても加害者になることをまるで意識せず、その種の人と結婚することにより、嫁姑問題と婿殿問題は生じる。簡潔に言うと嫁姑問題の夫と婿殿問題の妻は、等しく加害者なのだ。ただ俺が直面したのは婿殿問題の「亜種」であり、美雪は加害者ではない。酒粕甘酒に酔っぱらい、判断が鈍っているだけなんだね。加えて来世で待ち構えているかもしれない嫁姑問題の訓練も兼ね、理不尽な要求に断固立ち向かうことを俺は貫いたのである。母さんは来世の俺の生母になると言ってくれているがそれは来世になってみねば分からないし、17連続で未婚の俺は夫の経験が無さすぎて落第夫になるかもしれない。その落第夫になる可能性を少しでも減らすべく、理不尽な要求に負けなかったってこと。ただ美雪だけなら折を見て、6歳の輝力俺を創ってもいいと考えている。美雪、それまで待っててね。

 かくして突っぱね成功をもって、チューリップ畑バカンスは終了した。母さんだけはブツブツ文句を言っていたが美雪と並んでいたのでその状態のまま二人共ハグし「母さんに会えて嬉しかったです」と告げたら、たちまち機嫌を直した。唯一引っかかるのは、肉体を纏って降臨する頻度が数年前から激増していること。筆頭大聖者のことゆえ確たる理由があるのだろうが、面倒事ではありませんようにと祈らずにいられない俺だった。


 酔っぱらった美雪と、二人だけで川下りを再開する。それが嬉しいのか、美雪は俺の腕にしがみ付いて離れようとしない。もちろん俺も嬉しかったのでこの時間を邪魔されぬよう、餌を付けていない釣針を水面から浮かせていた。筏船と時間だけが、ゆっくり流れてゆく。


「美雪」「なあに」「こういう時間はやはり必要だ。また一緒に、このひと時をすごそうね」「うん、すごそうね」


 という会話を、数十分毎ごとに飽きもせず繰り返しているうち日が傾いた。世界が赤く染まり、次いで満天の星の輝く夜になる。バカンスの終了時刻に、なったんだね。酔いがまだ残っていたらどうしよう、と俺は不安になりつつ美雪に顔を向ける。というのも、ダンスをしてバカンスを終えるのが恒例だったのに酔っていたら踊れないからキ、キ、キスとかをして締めくくらねばならないと思ったのである。幸い美雪は素面に戻っており、


「さあ踊ろう!」


 と手を指し伸ばしてきた。その手を取り、俺達は水面に踊り出る。

 そして久しぶりだからか他に理由があったのか定かでないが、いつもの数倍激しいダンスを二倍以上の長さで踊ってから、俺と美雪は夏のバカンスを終えたのだった。

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