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環境大臣と大統領はそれをもちろん承諾した。大枠は決まったということで大統領は退席し、その後は環境大臣と話し合いを続けた。それにより、花畑の上空を飛行車が飛ぶことには段階を設けることに決まった。ただ融通の利くこの星の事ゆえ「これさえ実行されれば上空の飛行車を即座に受け入るかもしれない」的な状況を設け、それに昨日の俺が当て嵌まったという。具体的には、「自然を愛し妖精と良好な関係を築いている人族が輝力製の建築物を花の上に創り、それを妖精が喜ぶこと」みたいな感じらしい。母さんの関与をはっきり感じるがそれは置き、確かに俺は昨日、輝力製の展望台と遊歩道を花の上に創った。花の妖精長は、
「展望台と遊歩道が花に触れぬよう気遣ったことや、未使用時は透明にして日光を遮らなかったこと等々を、あの畑の妖精達はとても喜んでいました」
と言っていたな。一時的な日陰は雲で慣れっこだし、透明化後は温室になり花の成長を促したし、花を称賛する子供達も可愛かったし歌も楽しめたから、妖精達にとって昨日の出来事は幸せな思い出になっているという。そのお礼として花畑の中心という真の最上席にこうして招いてもらえたというのが、真相みたいだ。花に迷惑をかけぬよう工夫しただけなのに、思いがけず妖精達の高評価に繋がったらしい。良かった良かった・・・・って、あれ?
「俺は一昨日と昨日、テストを受けていたってことですか?」「言い訳はしません。まことに、申し訳ございませんでした」「いえいえ、詫びる必要はないですよ。人と妖精の区別なく、一瞬一瞬の選択が未来を創ります。それは事実上、一瞬一瞬をテストされているのと変わりませんからね」
少々遠回りになるが、「当たり前のことほど奥が深く、そして当たり前のことほどその奥深さに気づかない」のだと俺は考えている。日本語にはこれと同義の言葉が多く、親を亡くして初めて親のありがたみがわかる、はその筆頭だろう。組織の講師時代に俺がしばしば口にした、人は選択した未来の自分になる、も同義の一つだ。花の妖精長に言った「一瞬一瞬を事実上テストされているようなもの」もそうだね。とはいえ地球のオカスピ界隈にそれを言っても、有意義な会話にはならないと思う。現に2ちゃんね〇でこれに類する非常に有意義な書き込みをしていた人へ「当たり前のことしか書かない素人は去れ」系の書き込みを古参達がこぞってしているのを、見たことあるしさ。
話を戻そう。
この場所に招待された謎が、ほぼ全て解けた。花の妖精長にお礼を述べ、色とりどりのチューリップ畑が地平線まで続いている光景を改めて見渡す。今回ほど、予想と食い違ったバカンスはない。その筆頭は、やはりお花畑だろう。事前予想では「あわよくばお花畑を訪問できるかな?」程度にすぎず、そして観光日和が三日続くと知ったときは、白状すると訪問を断念した。軍事機密の美雪を、大勢の観光客にさらす訳にはいかないからだ。俺が無名のモブだったら誤魔化しようもあったけど、翠玉市観光すら数年前に諦めたくらいなんだよね。背が高すぎるのも、考えものだよな。
毒を食らわば皿まで的に再度白状すると、輝力で変身できるか否かを研究したことがかつてある。結論を述べると顔なら輝力で容易く変えられ、かつ法律にも抵触しなかった。しかし身長を低くするには軍用の光学迷彩が不可欠であり、そして俺のような個人的理由で軍用光学迷彩の使用許可が下りることは絶対なかったのだ。然るに諦めていたけど、今はなぜか引っかかりを覚えるんだよなあ・・・・ん?
「どうかしましたか、花の妖精長さん」
俺はそう問いかけた。花の妖精長が俺をチラチラ見て、モジモジしていたのである。言いたいことを何でも言い合える関係はまだ築いていずとも、もう少し俺を信じてくれてもいいんじゃないですか花の妖精長さん。という演技を大根役者を意識してしたところ、ウケたらしい。花の妖精長は花の笑みを零し、「それでは単刀直入に」と切り込んできた。「翔さんが散山脈諸島で開いている講義に、私も出席させてください」と。
確かに俺は月に一度、散山脈諸島で講義している。また「俺の声の届く範囲にいる人は創造主に託された生徒」という心構えを散山脈諸島でも適用しているため、竜族の周囲に妖精族がひしめき合うようになって久しい。飽きっぽい妖精達に欠伸させない講義をするのは骨が折れるけど、それは挑戦し甲斐があるのと同義。生徒達に「恐れず挑戦しなさい」と口を酸っぱくして言っている俺が挑戦しないなどあり得ないこともあり、月一の講義を俺は精力的にこなしていた。
ということを土台にするなら、花の妖精長は俺の許可なく講義を受けても問題なかった。テレポーテーションでやって来て講義前に挨拶してくれれば、万事OKだったのである。挨拶も講義初出席の妖精達が普通にしているから、それに混ざれば良いだけだしね。なのになぜ、改まって請うたのか? 理由があると思うのが普通だけど、これ以上考察したら先入観になりかねない。返答を保留させてもらい、花の妖精長に幾つか質問した。
「なぜ出席したいと思ったのですか?」「希望を最初に抱いたのは、翔さんの散山脈諸島訪問後に初めて開いた土地神会議で、散山脈諸島の土地神に会ったときでした。アイツは隠しおおせたと誤解していましたが、存在感が増していたのは誰の目にも明らかだったのです」「存在感が増していたとは?」「仕組は不明ですが、私たち妖精は成長に比例して存在感を増していきます。妖精になっていない素精が希薄なのも、その一例です」「了解です、俺も仕組を調べてみましょう。もう一つ質問させてください。テレポーテーションで散山脈諸島にやって来て挨拶してくれれば、俺の方に問題はありませんでした。それをしなかったのは、妖精族の掟がそれを阻んだとかですか?」「そのような掟はありません。また翔さんに筋を通したかったという理由以外にも、テレポーテーションを選ばなかった理由はあります」「可能ならそれを教えてください」「・・・ものすごく簡単なので当ててみませんか?」「むむ、これは挑戦せねば男が廃る。しばし時間をください」
この場所に招待された謎はほぼ全て解けたにすぎず、完璧に解けたのではない。未解明の筆頭は、500万の妖精が酒粕甘酒を楽しんでいる眼前の光景に、母さんは関与したのかという謎だ。他者の自由意思を何より貴ぶため俺を操ったりはせずとも、ささやかな誘導をしないこともないのが、母さんだからさ。




