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 昼食を失念していたのは、俺の落ち度で間違いない。とは言うものの、妖精達も食事するのだろうか? 地球では「食事は不可欠ではないが食べることもでき、その際は美味しさだけを食べるため、妖精が食べた食材は味が希薄になる」的なことを言われていた気がする。この星の妖精達が輝力製のお菓子とお茶をおやつとして食べることを非常に好むのは、たぶん俺が人類の中で一番良く知っているけどさ。

 それはさて置き、花の妖精長にお昼ご飯について尋ねたところ、なんと地球の説が正しかったことが判明した。更に加えて「食材が本能的に知っている『自分はこういう味がする』という意識を摂取するから味が希薄になるんですね」と説明され、俺はガッツポーズをしたものだ。前世の謎が解けたことと、花の妖精長をもてなすアイデアを得られたこと。その二つが俺に「ヨッシャ――ッ!」をさせたんだね。う~んでも閃いたアレって、もしかしたらヤバいのかなあ?


「翔、何事も試してみなければわかりません。創って、食べてもらいなさい」

「はい、了解です。ちゃっかり現れた母さんも、味見してみますか?」


 ちゃっかり現れたとは何ですかちゃっかり現れたとは。とぶつくさ文句を言いつつも、母さんはやたらニコニコしている。母さんの登場に美雪は喜んだだけだったが、花の妖精長を始めとする妖精達を平伏させてしまったのは、申し訳なかったな。

 いらぬ平伏をさせてしまった上に待たせる訳にはいかぬと、閃いたものを早速創り始めた。それは、酒粕から作った甘酒。甘酒は米麴を原料とする米麴甘酒が圧倒的流通比率を誇り、理由はアルコールを含まないことにある。対して酒粕から作る酒粕甘酒はアルコールを含み、ひょんなことからその最高級品を入手した前世の俺は、会社のお花見で女性社員達に振る舞ってみた。まだ寒さの残る季節と相まって酒粕甘酒は女性社員に絶賛され、毎年必ず作ることになったのは良い思い出だ。何気に俺もファンの一人で毎年楽しみにし、その甲斐あって今生も味を忠実に再現できたのだから、女性社員達のおねだりには感謝しかない。諭吉が毎回、数枚消えたけどね。

 それに比べ、輝力甘酒は無料。技術も向上するし、よいこと尽くしだ。よいこと尽くしといえば酒粕甘酒は米麴甘酒の四倍近い食物繊維を含み、また脂質を包んで体外へ排出するレジスタントプロテインも豊富。それも女性に好評だった理由で、振る舞った時と脂っこい物を食べる時と翌朝の計三回、俺はお礼を言ってもらえた。もちろん翌朝のお礼は、笑顔で頷くだけに留めたけどさ。

 という前世の女性社員達とは異なり、母さんと花の妖精長に食物繊維とレジスタントプロテインは無関係。味と、少量のアルコールによるほろ酔いが決め手なのである。ほろ酔いといえば美雪だけにアルコールがないのは可哀そうなので母さんにAⅠ用の酒果を提供してもらえないか頼んだところ、快く了承してもらえた。「母さん、ちゃっかり現れたなんてさっきは言ってごめんなさい」 テレパシーで謝罪した俺に「こんな和菓子を創れる?」と母さんが映像付きで訊いてきた。映像として脳に飛び込んできたのは、チューリップをかたどった和菓子。チューリップの和菓子は見たことも創ったこともないが、八重椿の和菓子なら振袖娘に提供済なので応用が利くはず。よって「任せてください」と胸を叩いたら「美雪の分は私が創るわ」と返って来たため、俺は平伏しようとした。のだけど、和栗のモンブランと石焼き芋の映像が立て続けに送られてきて思わず吹き出してしまった。ブハッ、やっぱ母さんはちゃっかり者だったんだな!

 そんな楽しい気持ちのまま、チューリップを模った和菓子の制作を始める。予想どおり八重椿の経験が活き、サクサク創っていった。完成した赤、白、黄、ピンクの和菓子のチューリップを、白磁の皿に盛りつけてゆく。そういえば前世の俺が収集していた白磁と青磁、どうなったのかな? ま、美雪に訊けば教えてくれるだろう。

 という作業を甘酒も含めてサプライズで進めていた俺は、満を持してそれらをお披露目した。広大なチューリップ畑に、女性達の黄色い声が響き渡る。今のところ黄色い声は和菓子のみに向けられているけど、酒粕甘酒も気に入ってもらえたら嬉しいな。と胸中密かに期待しつつ、美雪が用意してくれた昼食を俺は頂いた。

 甘酒および酒果のアルコールとチューリップ和菓子の結果を一言で述べると、「一度あることは二度ある」になるだろう。美雪が酔っ払い、ふにゃふにゃになったんだね。そうは言っても二度目のことゆえ「ちゅき」や「ちなないで~」はなく、安心するやら少々残念に思うやらだったが俺のことは置き、ほろ酔いになった女組はチューリップを愛でるお花見を心底楽しんでいるようだった。まこと、良きことである。

 良いことはもう一つあり、それは妖精達も酒粕甘酒を気に入ったことだ。きっかけは、ほろ酔いになった花の妖精長がお花畑を見つめつつ「過去を水に流せた気がします」としみじみ呟いたことだった。「人族がかつて花を一斉に刈り取っていたことですか?」「はい、お恥ずかしながら」 そう答えて頬を恥ずかしげに掻く花の妖精長に胸が痛んだ俺は母さんに向き直り、姿勢を正して尋ねた。


「酒粕甘酒のアルコール度数を、俺は1%にしました。1%はアルコール初体験の花の妖精長に、適切な濃度だったと感じます。濃度を半分の0.5%にして妖精達にも振る舞い、人類のかつての過失を水に流してもらうことはできないでしょうか。母さんの意見を聞かせてください」


 アルコール度数1%未満はお酒ではないと日本ではされていたこともあり、甘酒として販売されている酒粕甘酒の大部分は1%未満だった。ただ酒粕自体のアルコール度数は6%あり、女性社員に花見で振る舞う際は酒粕を追加して1.5%に調整していた。輝力製の甘酒なら調整はもっと容易なためアルコール度数を0.5%にして妖精達に振る舞い、人類の過失を水に流してもらえないだろうか? 俺は、そう尋ねてみたのだ。すると、


「よい心掛けです。私も手伝いましょう」

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