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 美雪に抱き着かれた花の妖精長は美雪が落ち着いたのを機に、「ではお邪魔虫になる前に」と会釈して消えようとした。そんな花の妖精長を、俺と美雪は揃って引き留める。それは形式に則ったのではなく、尋ねたいことが本当にあったのだ。それを一瞬で読み取り了承した花の妖精長も、さすがなのだろう。俺はチューリップの花の10センチ上に透明な床を輝力で作り、座布団を置く場所だけ畳にして、そこに花の妖精長を招いた。床を透明にしたのは、チューリップに降り注ぐ日差しをなるべく遮りたくなかったからだね。


「床を定期的に移動し、座布団の影の影響をなるべく少なくします。また周囲に緩い蜃気楼壁を巡らせ、5キロ離れれば俺達を目視できぬようにもしました。ご安心ください」


 そう約束した俺に微笑んだ花の妖精長は「翔さんのその気遣いと能力が、ここにお招きした理由です」と、訊きたかったことを阿吽の呼吸で答えてくれた。

 俺は昨日、菜の花の上に輝力の展望台と遊歩道を創った。かつそれらを緩い蜃気楼壁で包み、遠方から見えにくくした。最上招待席の両側の特上招待席に人はいなかったがその隣の上招待席には人がいたため、展望台と遊歩道を隠す必要があったのである。見つかったら、いろいろ面倒なことになるからさ。

 展望台と遊歩道も、子供達が引き上げたらそのつど透明にして、菜の花に日差しが降り注ぐようにした。花々が待ち望んでいた春の日差しを人の都合で取り上げるなんて、俺には絶対できなかったのである。

 という俺の施したアレコレが、ここに招待してもらえた理由だったらしい。花畑の周囲に招待席を設けるにあたり、環境省は長年の疑問を妖精に尋ねたという。「人が飛行車に乗って花畑の上空を飛ぶことを、妖精は嫌うのでしょうか?」 花の妖精長によると「その返答は私が環境省へ赴き、直接しました」とのことだった。


「以前の花畑はここの100分の1の規模しかなく、そして花が最盛期を迎える直前、ドローンが一斉に刈り取ってしまっていました。花を愛し世話をしてきた妖精達は、それに悲しみと怒りを当然覚えました。その悲しみと怒りが、花畑の上空に現れた飛行車に集中して注がれ、それを無意識に感じた人々が体調不良に陥っていたのです」


 俺は人族の一員として花の妖精長に謝罪した。それを受け入れたのち、花の妖精長は話を再開した。

 それによると花の妖精長が体調不良の仕組を説明したところ、環境省に環境大臣と大統領が量子テレポーテーションですぐさまやって来て、これまでの人類の行いを詫びたそうだ。花の妖精長はそれへ即答せず、刈り取られた花のその後について話したという。


「花たちは長く咲いていられるよう大切にされ、花を愛する人達の手元に届けられ、賞賛と感謝をたっぷり浴びて枯れていきました。花が届いた場所に住む妖精達もそれは変わらず、加えて花の世話を嬉々としてしたため、花は満足して枯れていったのです」


 花畑で花の世話をしていた妖精達もそれを知っていたから、悲しみと怒りを覚えても、人族を恨みまではしなかった。また心に生じた負の気持ちも、数日で手放すよう努力していたという。そう説明したのち、花の妖精長は環境大臣と大統領に問うた。「すべてを一斉に刈り取らない方法は、ありませんか?」と。

 食物連鎖を始めとする生存競争が自然界にあることを、妖精は熟知している。よって生存競争に準ずる割合で花を刈り取るなら、納得できないこともない。刈られた花が届けられた先で人と妖精に大切にされ満足して枯れていくなら、納得は更に強化されるだろう。したがって数本に一本を刈るのみに留められないか? 花の妖精長は、そう頼んだのである。

 それへの環境大臣と大統領の対応に、俺は二人を大いに見直した。二人は即座に、こう応じたという。


『二人はまず、100本に1本という割合が心に浮かんだことを明かした。続いて環境省のAⅠに、1%のみの収穫が可能かを尋ねた。AⅠはそれを可能にする四通りの方法を、空中に大画面で投影した。それを元に花の妖精長達は話し合い、その中の一つである「花畑の面積を100倍にして1%のみを収穫する」という方法が、試験的に採用された』


 花の妖精長によると、最低目標を4本に1本、最高目標を10本に1本にして環境省へ赴いたらしい。だが蓋を開けてみたら100本に1本という破格の割合を提示され、しかも花畑の面積を100倍にするという、妖精達にとっても嬉しい対処法が四通りの中に設けられていたのだ。1平方キロメートルのお花畑を、妖精達は誇りにしていたそうなんだよね。ただ100倍になった花畑を以前と変わらず世話できるか花の妖精長にも判断付かなかったため、試験採用という運びになった。そして実際にやってみたところ、世話は可能と判断された。かくして100平方キロという広大なお花畑が、この星に誕生したとの事だったのである。俺と美雪は、花の妖精長を拍手で称えた。「私だけの力ではないんです!」と最初は慌てていたけど、妖精達がわらわら集まって来て一緒に拍手するようになったら観念したらしい。それでも「わたし頑張ったの!」と、胸を張るだけで終わっちゃったけどね。まあ妖精達に大ウケしていたし、あれで十分だったのだろうな。

 こうして、100平方キロのお花畑がこの星に誕生した経緯を知ることが出来た。だがそれと、俺と美雪がここに招かれた理由はイマイチ結びつかないのが本音。でもきっと説明してくれるのだろうな、とのんびり構えていたら美雪に叱られてしまった。「正午になったのに私と翔だけでお昼ご飯を食べるつもりなの?!」ってね。

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