140
という訳で長い現実逃避になったが何を言いたいかと言うと、創造主に筒抜けなのは仕方ないと俺は考えている。本体に筒抜けなのも、諦めがとうについた。しかしだからと言って、母さんと美雪と冴子ちゃんが前世の俺の日記を読了していることもそうかと問われたら「否!」と即答・・・・はできないな。よくよく考えたら弟や妹たちが読んでいるなら配偶者達もそうだろうし、ならば甥や姪たちもそこに含まれることになる。甥や姪たちをどれほど愛し可愛く思っていたかを日記にそのまま綴っていたから、読ませないとは思えないのだ。すると20人以上が日記を読んだ計算になり、なのに母さんと美雪と冴子ちゃんはダメなんて、口が裂けても言えない。頭を抱えて十秒ほど落ち込むのが、せいぜいだったのである。
かくしてその十秒を過ごした俺は、まあいいかと開き直った。そしてただただボンヤリする怠惰な午前に、再び戻ったのだった。
そうこうするうち花の妖精長と約束した、11時半になった。前世にあった5分前行動なんてものは妖精族になく、それでいて仕組は判らないが妖精達が遅刻したことも一度もなく、俺は今日もほのぼのしながら約束の時間を迎えた。なぜほのぼのかというと、美雪と花の妖精長が今日もおしゃべりを楽しんでいたからだ。実を言うと昨日も今日も、花の妖精長は30分早くやって来ていたんだよね。お菓子とお茶を味わいつつ美雪とキャイキャイするなら、30分はまこと妥当なのだろう。5分前行動や遅刻厳禁等の習慣がなくとも約束の時間を決して違えないのは、俺達とともに過ごす時間を妖精達が好んでいるからなのかもしれない。どうか、そうでありますように。
という訳で時間になったことだし花の妖精長を誘い、三人でカレンに乗った。一昨日は俺と美雪だけでお花畑に向かったが試しに昨日誘ってみたところ、花の妖精長は顔をパッと輝かせたのだ。「ああなるほど、妖精族は自力で電離層を越えられないんだった」と頭の中で納得した俺は美雪の了承を得て三人で乗車し、カレンに頼み高度1500キロの宇宙を目指してもらった。カレンの高性能電磁場に守られ花の妖精長は生まれて初めて宇宙に出て、そしてそこで歓喜の涙を流した。聞くところによると宇宙を体験した妖精は、妖精になる前の素精を除くと、妖精長しかいなかったそうなんだよね。妖精長すなわち振袖娘がこの星を包む八次元の障壁を突破し如何にして宇宙へ行ったかもたいへん興味深いがそれは置き、花の妖精長が歓喜の涙を流す様子にカレンは胸を打たれたらしい。地上を見やすいよう車体を傾けてゆっくり旋回したり、夜側へ飛び瞬かない無数の星を見せたりと、いろいろ工夫したのである。カレンの気遣いにも花の妖精長は感激し、心からお礼を述べていた。ということが昨日あったからだろう花の妖精長は昨日の降車時と今日の乗車時、カレンに恭しく腰を折っていた。カレンも喜んでいるし、嬉しい限りだ。散山脈諸島に今度行ったら土地神を宇宙に誘ってみようと、密かに計画した俺だった。
ちなみに地球人が電離層もしくは電離圏と認識している空間は八次元の影響下にあり、そして八次元は「優れた障壁」という性質も持っている。聖書でイエスが悪霊を封じたのも、八次元を障壁として使ったと聞いている。大聖者もしくは光の子が八次元を障壁として全力使用すると、地球の技術では10万年かかっても破壊できない障壁になる。その本気障壁で守られた地下空間の一つが、かの有名なシャンバラだ。重度の中二病だった前世の俺はシャンバラについて様々な説を読んだけど、かすりもしていないのが現実。それどころかネガティブ勢力によって広められた誤情報が、ドヤ顔で動画配信されている始末だった。視聴者は、疑問を抱かなかったのだろうか? 「どうしてこの人達はネガティブ組織ばかりを取り上げ、ポジティブ組織についてはまったく話題にしないのかな」と。
話を戻そう。
花の妖精長は今日も宇宙を堪能し、降車時はカレンに深々と腰を折っていた。それへ何らかの意見をカレンが述べたらしく二人はやり取りを始め、俺はチンプンカンプンだったが、美雪がテレパシーでこっそり教えてくれた。それによると「そんなに畏まらないでよ」「いいの?」「いいに決まってるじゃない」「ありがとう、ではそうするね」系の会話を二人はしていたという。俺がニコニコ顔になったのは言うまでもない。どうかカレンも、己の生涯を楽しめますように。
再び話を戻そう。
花の妖精長はこの三日間、俺と美雪をお花畑に招待してくれた。しかも最上招待席という、土地神のみが持つ招待権を行使してくれたのだ。一昨日訪れたネモフィラ畑も昨日訪れた菜の花畑も、最高の名に相応しい場所といえた。その「最上招待席に招いてもらえた」ということは今日も同じはずなのに、カレンが降り立ったのは一昨日とも昨日とも異なる場所だった。昨日と一昨日は眼前にお花畑が広がるのみで背後は草地だったけど、今日は違う。カレンが降りたのは、お花畑のど真ん中だったのである。つまり、
「前だけでなく右も左もそして後ろも、色とりどりのチューリップがどこまでも続いている! 花の妖精長さん、ありがとう!」
と美雪が花の妖精長に抱き着いたように、360度どこを見てもチューリップ畑が地平線まで続いていたんだね。厳密には、俺は違うんだけどさ。ははは・・・・
目線が180センチの人にとっての地平線までの距離は、5キロとほんの少しになる。美雪の目線は180センチを僅かに超え、かつ俺の視力より高性能の望遠レンズを視力にしている。よってチューリップの数センチ上に浮いたら目線は185センチほどになるため、前後左右のまっすぐ先に畑以外の場所が見えることになるのだ。それを避けるべく、俺と美雪はチューリップが植えられている地面スレスレまで降下し、そこに浮いたということ。今日は気温が高く大気の屈折率が低かったのも、良い方に転んでくれたみたいだ。それでも俺の目線では、畑の向こうがチラチラ見えるんだけどね。




