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 そうはいっても引き籠っていた俺に馴染みはあまり無かったのだけど、母さんが助けてくれた。同じ種類の複数の曲を、歌詞と踊りの映像付きでテレパシー送信してくれたのである。それらを、意識投射した準四次元で時間を極限まで延ばして聴き、見て、演奏していく。そして万全の状態にしてから戻って来て、俺は一曲目の前奏曲をバイオリンで弾いた。前奏曲を聴いただけで我慢できなくなった子供達が踊り出し、そんな皆のテンションを旭さんの歌が更に高めてゆく。そこからは、幼稚園のお遊戯会なのか幼稚園児が観客として詰めかけたライブ会場なのか定かでないひと時がしばし続いた。子供達にとってそれは底抜けに楽しい時間だったが、すべてのものには終わりがある。最後の曲を旭さんが歌い終え、伴奏担当の俺の弓がバイオリンから離れると同時に、楽しい時間は終わった。ほんの数秒前とは真逆の、しくしく泣く声が場に広がる。3歳児なのだから、それで当然だろう。だが大人は、そこに含まれない。大人には、このような場面の手本を子供に示す責任があるのだ。ママ先生が手を打ち鳴らし、「ここに招待してくれたお兄さんとお姉さんに、もう一度お礼を言いましょう」と呼びかける。泣いたまま声を出せない子がいても、そこはママ先生が育てた子供達。声を出せない代わりに姿勢を正し、俺と美雪に今日の謝意を示してくれた。俺と美雪は、笑顔でそれに応える。それに釣られて子供達も半ば笑顔になり、その機を逃さず「来年も招待するからまたおいで」と誘ったところ、満面の笑顔になった。その瞬間を好機と捉えたのは正しかったが、新米保育士の旭さんにはまだ荷が重かったらしい。旭さんが「さあみんな帰るよ、飛行車に乗って」と呼びかけるや、


「「「「嫌だ、ビエ~~ン!!」」」」


 というように子供達が一斉に泣き始めたんだね。己の力不足を突き付けられた旭さんも一緒に泣きたそうにしていたけど、母さんの分身の旭さんを泣かせるわけにはいかない。俺は輝力俺を24体出し四本腕にして、1体につき子供達を二人抱きかかえる。そしてクルクル回ったり高い高いをしたりしつつ、幼年学校の飛行車へ子供達をさりげなく連れて行った。個人的意見だが子供というものはクルクルや高い高いをされると機嫌を直し笑顔になるよう、創造主によって創られたのではないだろうか。というのも体調不良や環境不良による不機嫌でない限り、それらをすると子供達は決まって笑顔になるからだ。頃合いを計りクルクルや高い高いに変化を付け、子供達の意表を突くのも重要だね。地球では男女差別と非難されそうだけど、高い高い等の筋力依存型の遊びをしてあげるのは、男の仕事だと俺は考えている。舞ちゃんと翼さんと奏も俺と意見を等しくし、三人が三聖母として絶大な人気を博している理由の一つは、戦士の身体能力を活かした筋力系遊びにあると三人は述べていた。99.9%以上の保育士は戦士でないどころか戦士養成学校卒でもなく、高い高い等をしてあげられないか、もしくはしても短時間しかできない。対して超優秀な戦士でもある三聖母は子供達をギュルギュル回したりブンブン放り投げたりを長時間でき、そしてそのさい子供達は普段と異なる笑い声をあげるという。声帯と横隔膜の両方を使い、腹から笑うらしいのである。打ち明け話や相談事を子供達にされることが他の保育士より圧倒的に多いのも、「腹から笑う経験をすることで」「腹を割った付き合いができる人と」「認識されるみたいなんです」と三聖母は語っていた。これは男の「腹を割って付き合えるヤツが親友」という感覚に近いのではないかと俺は予想している。

 などと頭の隅で考えているうち、幼年学校の飛行車に着いた。そうそう子供達の歌と踊りのお陰で、謎が一つ解けたんだった。歌の一つに校歌があり、その歌詞から推測するに、この子たちは孤児もいる幼年学校の生徒らしい。病死や事故死が極端に少ないこの星では、戦争孤児以外の孤児は滅多にいない。この子たちの学年に何人いるかは定かでないが100人という孤児院の定員を下回ったため、孤児もいる幼年学校を政府が設けたそうなのである。またその学校では新しい試みを他にも複数していて、ママ先生と旭さんが48人の子供を引率してきたのもその一つっぽいが、歌詞ではそれ以上判らなかった。俺も孤児なので、新しい試みに興味がある。母さんに今度会ったら、訊いてみようかな。

 話を戻そう。

 前世で既に高レベルだった俺のクルクルや高い高いはこの星で更に磨かれ、その超高レベルの技に笑わされまくった子供達は、良い意味で俺の言うことを聞く子供達にものの数十秒でなっていた。ママ先生もこれには驚き、やはり男性保育士を復活させねば系の呟きをしきりとしていた。それを聞き「闇人やモンスターとの戦いのない平和な世界に転生したら、保育士が俺の最適の職業なのかもしれない」との気持ちを、俺は新たにした。

 輝力俺が子供達を引き受けてくれたお陰で、ママ先生との別れの時間を急かされずに過ごすことが出来た。これはママ先生にとって奇跡に近かったらしく、「来世のために輝力の分身を私も創れるよう訓練を始めるわ」と宣言していた。どうもママ先生は、来世も保育士をする気満々みたいなのである。ならばと、俺も明かした。


「戦争のない平和な世界に生まれたら、保育士が俺の最適職業なのかもしれません。もしそうなったら、ママ先生を探しに行きますね」「ふふふ、待っているわ」


 そうほほ笑んだママ先生と俺を育てたママ先生の、区別がとことん付かない。バストイレ車に駆けこめない状況でこれはキツイと音を上げる寸前、旭さんが助けてくれた。助けてくれたといっても「私が『春〇来い』を歌ったとき、翔さんは何かを絶対しましたよね!」と、俺に詰め寄ったことを指すんだけどね。それは置くとして、旭さんの問いは難問だった。答えあぐねて美雪に助けを求めても美雪はコロコロ笑っているだけだし、ママ先生に顔を向けてもそれは同じだし、結局俺は大いに逡巡した末、


「輝力工芸スキルは亜神級になると、極小かつ一時的な世界の改変が可能になるんだよ」


 とバラしてしまった。普段ならここで頭を抱えるのが俺のお約束なのに、今回は違った。おそらく本体か、もしくは創造主が助けてくれたのではないかと俺は考えている。


「努力を90年間続けたら、旭さんは歌で同種のことを出来るようになるって俺は感じるよ」「・・・はい、そんな気が私もなんとなくしています」「うん、頑張ってね」

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