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 またこっそり観察により、超有力情報を得ることも出来た。時間経過とともに美雪と仲良くなった旭さんが、美雪にこう言ったのだ。「美雪さんと性格がとても似ている、美優みゆという名の仲の良い同僚がいるんです」 超有力情報どころか、美優という同僚が美雪の保育士版で確定と考えて良いはず。他のクラスを受け持っている等々は、未だ不明だけどさ。

 他にも観察によって、ママ先生と旭さんにとって美雪は生身の人間と確定したのも涙が出るほど嬉しかった。それが確定したのは、俺が子供達と一緒に展望台で遊んでいる時だった。旭さんの「翔さんと美雪さんはやっぱり相思相愛の間柄だったのね、キャ―ッ!」という声が、コルク床の方角から聞こえてきたのである。涙が出るほど嬉しかったのに涙が出なかったのは、茹蛸化した顔を元に戻すべく必死になっていたからに他ならない。必死になろうとおませな女の子たちの耳と目は誤魔化せず、囃し立てられて散々な目に遭ったけどね。といっても娘のように可愛い子たちだから、全然いいんだけどさ。

 ヤバい、思い出しただけで顔が赤くなりそうだ。意識分割高速思考を止め、ママ先生の言動に集中するとしよう。

 と行動を改めたのは、フラグだったらしい。旭さんとのキャイキャイに一段落付いた美雪にママ先生は近づき、美雪の手を取りこう言ったのである。


「美雪さんも、私達をここに招待してくれてありがとう。あなたのような素晴らしい女性が翔の恋人と知り、私は嬉しくて堪りませんでした。翔を自分の教え子のように思えてならないせいで美雪さんを息子の嫁のように思えてならないのは、どうか許してね」


 美雪は一瞬、瞳を潤ませた。しかしそれを押しとどめ笑顔になり、丁寧でありながらも堅苦しくなく、また親密でありながらも馴れ馴れしくない表情と口調でママ先生にお礼を述べていた。ママ先生はたいそう感心し美雪を褒め、それ以降は女性陣三人の会話をずっと楽しんでいた。俺は昼行燈になるもお陰で超々茹蛸化した顔を元に戻せたし、ママ先生の想い人の話題で盛り上がるという恋バナだったため参加はそもそも不可能だったし、何より母さんと会話している時の表情に美雪がいつの間にかなっていたから、まったき幸せの時間を過ごさせてもらった。

 そうこうするうち子供達を起こす時刻になった。目覚めた時刻は全員共通でも、起床後の行動は二分された。充電完了的な顔でトイレ車へはりきって向かう子が半分、眠気眼でボンヤリ座っている子が半分といった感じだ。自主性を身に着けさせるならボンヤリ組は放置一択だけど、やはりママ先生は一味も二味も違う。一人一人の頭を撫でつつ顔を覗き込み、ボンヤリ組の半分ほどに何かを耳打ちしたのだ。そうされた子は一人の例外もなく目をかっぴろげ、トイレ車へ一目散に駆けて行った。美雪のすぐそばにいた子がその一人だったのでママ先生の耳打ちについて尋ねたところ、「今すぐトイレに行かないとお漏らししちゃうよって、ママ先生は言ってたよ」とのことだった。どうもママ先生は頭を触り顔を覗き込めば、その子の膀胱事情を正確に知覚できるらしいのである。さすがママ先生と誇らしさを覚えた俺の脳裏に、ある光景が映った。それは前世を思い出す前の俺が、ママ先生にまったく同じことをされていた光景だった。甘えん坊だった俺は耳打ちされるやママ先生に抱き着き、ひとしきり甘えてからトイレに向かうのがお約束だったのだ。それを四十数年ぶりに突如思い出した俺の視界が、急速にぼやけてゆく。今回ばかりはどう足掻いても制御不可能と悟り、美雪にテレパシーで涙腺事情を告げる。そしてカレンが牽引しているバストイレ車へ、一目散に駆けて行ったのだった。


 バストイレ車はその用途上、優秀な相殺音壁を装備している。よって大抵の音は外に漏れないのだけど、落ち着いてから内蔵AⅠに相殺のお礼をいったところ、最大出力を初めて出した旨を伝えられてしまった。「翔さんの社会的地位を鑑み私の一存で秘しましたが、判断を誤ったでしょうか?」と不安げに尋ねてくる内蔵AⅠに、誤っていないこととお礼を改めて述べていく。それを受け安堵するも続いてAⅠは心配気な雰囲気を纏い、しかし何も訊かず俺を送り出してくれた。美雪などの量子AⅠだけでなく古典AⅠ達も宇宙転生時に便宜を図ってもらうよう、俺は創造主に伏して頼んだ。

 皆のいるコルク床までの距離は、20メートルほどだろう。その場所では今、不思議なことが行われていた。昼寝中の子供達は相殺音壁によって外部の音を完璧に遮断されていたはずなのに、


「旭お姉ちゃんの歌をもう一度聴きたい!」


 系の要望を皆が皆叫んでいたのだ。子供達全員となると確たる理由があると考える他なく、コルク床に着くまでの時間を利用して考察したところ、あやうくうずくまりそうになった。だってその犯人、俺だったんだもん。綺麗さっぱり忘れていたけど旭さんの歌う歌詞がママ先生の心に届きやすい世界を、俺は創造していたのでした。アハハハ~~~!!

 と開き直って笑い飛ばしたのは、大正解だったらしい。笑い飛ばしている最中に偶然目の合った旭さんの瞳から、困惑が一掃されたんだね。子供達もそれに気づき旭さんの視線の方角へ、つまり俺へ一斉に顔を向けた。輝力圧縮でそれに対応した俺は、バイオリンを創りそれを一弾きする。続いて、


「さあみんな、未来の大スターの旭お姉さんに、拍手!」


 そう促したところ、子供達の拍手と歓声が爆発した。大スターを夢見る二十歳ちょいの娘っ子が、拍手と歓声の爆発に抗える訳がない。旭さんはノリノリでそれに応え、しかし保育士としての矜持が最終勝者になったらしく、一曲目に選んだのは子供達が歌って踊れる曲だった。この星の孤児院も地球の幼稚園と変わらず、皆で歌って踊れる曲をちゃんと教えていたんだね。

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