表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
776/813

129

 そうそうじゅうといえど世界を創造したからか、ある推測を得られたんだった。それは、こちらのママ先生の並行世界に関する推測。美雪は以前、こんなことを言っていた。「おこちゃま翔を本物の翔にするには、前世のおこちゃま翔や並行世界のおこちゃま翔も創らねばならなかった」 美雪のこの言葉は、おこちゃま翔だけに適用されるのだろうか? そんなことは無く、ママ先生達にも適用されたに違いない。そうつまりこちらのママ先生にも並行世界のママ先生が複数いて、その内の一人が保育士として俺を育てていた。それを感じ取ったから「あなたは私の教え子に思えてならない」と発言した。あくまで推測だけど、多分これで合っているのだろう。う~むなんか、やたら嬉しいな!

 などと心の中でアレコレやっている内、旭さんの歌が終わった。俺も伴奏を終え、それに伴い物質世界も元に戻っていく。なんとなくこれは、将来的に凄まじく重要な技術になる気がする。訓練計画を見直し、この技術もコツコツ伸ばしていきますか。と考えていた俺はあることに気づき、首を傾げた。今回も旭さんの歌は素晴らしかったのに、拍手が聞こえないのだ。理由を探るべく顔の向きを変えた俺の目に、体をくの字に折って嗚咽するママ先生と、ママ先生の背中を優しくさする美雪が飛び込んできた。ヤバいやりすぎたと自分を叱りそうになった俺に、美雪が首を横に振る。続いて「翔の挑戦を母さんに聞いた」というテレパシーと、「母さんによるとこれが最善だから狼狽しないようにだって」というテレパシーが送られてきた。そういう事なら落ち着いていられる・・・・ワケないじゃんか! という本音をねじ伏せ、どうにかこうにか平静を保っていた俺とは異なり、旭さんは美雪と協力してママ先生を思う存分泣かせてあげていた。その「泣かせてあげる」という判断に、俺は己の愚かさを悟った。母さんとの概念テレパシー会話を介し、


「ママ先生は過去の失恋が未だつらく、封印して心の奥底にしまい込んでいる」


 ということを知った。そんな自分を変え、失恋を穏やかに見つめられるようになれば、ママ先生の来世の幸せが増すことも知った。しかし知っただけに留まり、理解してはいなかった。ママ先生が何歳で失恋したかは分からないが20歳前後だったとすると、かれこれ90年以上前の出来事ということになる。それは失恋のつらさを心の奥底に90年以上閉じ込めていたことと同義であり、それを旭さんの歌によって急遽直視したら、いったいどうなるのか? どうなるかを女性陣は予見できたから今こうして冷静さを保っているのに対し、俺は予見できなかったから狼狽し醜態をさらした。これが、真実なのだろうな。

 ただ、謎も二つある。一つ目は、旭さんはママ先生の失恋を知っていたのか、ということ。知っていた方が、冷静でいることをうまく説明できるけど、ママ先生は失恋を心の奥底に封印していたのに知れるものなのかな? それに関し「男には無理でも女には可能」や「俺に無理なだけで普通は可能」が脳裏を駆け、特に後者は正解に思えてならない俺だった。むむう、何気に凹むぞ・・・・

 気を取り直し話を進めよう。

 謎の二つ目は、「春〇来い」の歌詞とママ先生の胸中の関係だ。といっても「俺に理解不可能なだけ」の線が濃厚なのだがそれはひとまず置き、この曲は題名と歌詞から推測するに、春が来ることを待ち望む歌なのは間違いない。だがママ先生は恋愛における春が来ないことを、つまり恋愛成就には決してならないことを、承知している節がある。理由として真っ先に思いつくのは、想い人の戦死だ。前々回の戦争時、ママ先生は15歳だった。シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」のジュリエットは13歳だし、一生を左右する恋をしても不思議はないだろう。対して想い人の年齢は、最年少で19歳。19歳の戦士は、極めて優秀な戦士養成学校生の選抜戦士だが、幼馴染の近所のお兄さんならあり得ると思われる。このようにママ先生の想い人が戦死している可能性は0ではないが、しかしそれだと、春を待ち望む歌と矛盾することになるのだ。が、


「歌詞のように生きるべきだったと『後悔した』なら、矛盾ではなくなるんだよなあ」


 俺はそう、心の中で呟いた。そしてそれが正しかったことを、ママ先生が旭さんに掛けた言葉で知った。泣き止み上体を起こしたママ先生は、こう言ったのである。「これからはあの人を思い出すことにするわ。ありがとう」と。

 続いてママ先生は居住まいを正して俺に正対し、ここに招待されたことへ改めてお礼を述べた。そして「あの人」について、ほんの少し話してくれた。

 ママ先生は物心つく前から、隣に住む4歳年上のお兄さんが大好きだった。自分と違いお兄さんは戦士の才能に恵まれていたため、お兄さんが戦士養成学校に入学したときは恋を諦めた。戦士養成学校で運命の人に出会うと、考えたのである。しかしお兄さんは出会わず、ママ先生の恋心は益々強くなっていった。長期休暇で帰省するお兄さんに相変わらず妹として可愛がられようと、ママ先生はそれだけで幸せだった。でもその日々は、突如終わった。お兄さんが、選抜学生戦士になったのである。まだ14歳でしかなかったママ先生はそれに耐えられず、戦争に行かないでほしいと泣いてすがった。そのときお兄さんは、真情を初めて明かしたという。「最愛の君を守るため、俺は戦場へ赴く」 そう実はお兄さんも、ママ先生のことが好きだったのである。


「その1年後、あの人は戦場へ赴き、そして帰ってきませんでした。私は心を病み、病院に入院しました。1年間は生きる屍でしたが、入院2年目に2歳の戦災孤児達と関わるようになり、心を少しずつ回復させていきました。満1歳になるかならないかで親と死別したあの子たちに、親や家族の記憶はありません。その子たちの姉として家族になっている間だけ、あの人を失った悲しみを多少なりとも薄めることが出来たのです。数年後に保育士の資格を取り、私はあの子たちの姉から母になりました。母親を無我夢中でするにつれ母親の自分を優先させるようになり、そしてその日々を過ごすうち、あの人の思い出を心の底深くに封印できるようになりました。そのまま1世紀近くが過ぎましたが」


 ママ先生は言葉を切り、菜の花畑に顔を向ける。その双眸から涙が溢れるも、それは悲しみの涙ではなかった。ママ先生は笑顔で先を続けた。


「約1世紀ぶりに思い出したあの人は今、菜の花畑を背に笑っています。大勢の子供達の母親になった私を、褒めてくれています。あの人を今後思い出すたび、あの人は菜の花畑を背にして現れるでしょう。あの人と私にこの光景をくださったのは、翔さんです。翔さんに改めて、お礼申し上げます」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ