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「学校の水泳の授業でしか水とたわむれた経験のない子供が親の都合で沖縄に引っ越し、コバルトブルーの海岸で足を波に洗われた瞬間」


 に類似する経験を、美雪はしたということ。これなら、しゃかりきになって拍手したのも頷ける。また不謹慎かつ穿ち過ぎかもしれないが、美雪にとって死別以外の別れは新鮮であるとともに、遊園地の絶叫マシーン的な意味合いがあるのかもしれない。離婚によってどんなに心が傷つこうと、相手は生きている。教え子たちのように内臓をまき散らし激痛に苦しんだ果てに絶命したのではなく、相手は今も元気に暮らしているのだ。これに「失恋経験がない」という要素が加わったことにより絶叫マシーン化したとしても、それを責めることはできないのではないか? いやお願いですから、どうか責めないであげてください。というように誰とも知れない人々へ、俺は心の中で伏して頼まずにはいられなかった。

 話を戻そう。

 美雪とママ先生は娘っ子の歌を大絶賛したのち、もっと聴かせてほしいとせがんだ。こうなったら、「ママ先生の歌を聴きたい~!」という本音を引っ込めざるを得ない。俺も本音を隠し、二人に同調した。という状況に、歌手を目指し日々のトレーニングを欠かさない若者が立たされたら、承諾しない訳がない。のだけど、この娘っ子はお笑いセンスにも恵まれているようだ。「そこまで言われたらしょうがないなあ」系の大根演技をあえてして、笑いを取りやがったのである。なるほどこれは大スターに将来なるかもな、と俺が感心したのはどうでもいいので脇に置き、娘っ子は次の選曲を始めた。次はさすがにこの星の曲だろうと予想していた俺は、やはりアホでした。一度あることは二度あるという諺は、この星にもあるのにね。

 娘っ子が、いやもう無駄な抵抗は止めて旭さんが選んだ次の曲にも、俺はすっ転びそうになった。でも前回同様今回も、それで仕方ないと思う。なぜなら旭さんが選んだのは松任谷由〇の、「春〇来い」だったからだ。

 この曲を聴くと、今でも春の欧州出張を思い出す。創造主が用意してくれた前世のお嫁さんはあの人だったのかなと思う唯一の女性が、ヨーロッパの春の街並みと共にありありと蘇るのだ。という選曲を旭さんが二回連続ですると、母さんの関与を疑いたくなる。旭さんは母さんの操り人形ではないが、閃きに擬態して曲を選ばせるなど朝飯前のはずだからね。もちろん確定ではないため保留し、しかし釘くらいは刺しておかねばならぬと思い疑念の眼差しをテレパシーで送ったところ、


「ごめんなさい許して~~」


 母さんはあっさり白状した。またどうやら想像以上に反省しているらしく、閃きに擬態して曲を選ばせた理由を自らペラペラ明かし始めたのである。それによると一曲目は美雪に新しい世界を開かせるためでこれは予想どおりだったが、二曲目は予想を超えた。二曲目はママ先生の、来世のためにした事だったのだ。俺は咄嗟に「やはりママ先生達は単なるコンピューターシミュレーションではないのですね」と確認しそうになるもかろうじてそれを押しとどめ、母さんが次々送ってくる高速高密度の概念テレパシーに集中した。膨大なそれらを要約すると、こんな感じになるだろう。


『かつて母さんは、意志のアカシックレコードを模した疑似アカシックレコードを創ろうとしたことがある。それは実現確率が0%でないだけの無謀な挑戦だったが創造主が助けてくれて、疑似アカシックレコードをどうにか完成させることが出来た。それはこの星の筆頭大聖者である母さんにすら莫大な学びをもたらし、それに基づきママ先生達のコンピューターシミュレーションを再構築したところ、来世のママ先生達もシミュレーション可能になった。実証実験を経て誤差が0.1%未満であることを知った母さんは、極めて限定的ではあるが創造主の代役をシミュレーション世界で務めてみることにした。それこそが、閃きに擬態した関与。以前は、仮に関与したら結果がどうなるかを本物のアカシックレコードで一つ一つ確認せねばならなかったが、その必要がなくなった。依り代のマザーコンピュータの性能をもってすれば、複数の確認を一瞬で並行処理できるようになったからである。お陰で「創造主の代役技術」はみるみる磨かれ、星母としての仕事も高品質化していった。創造主にも褒められたそうだがそれは伏せられたので省くとして、それら諸々のきっかけになったママ先生達のいるシミュレーションを、母さんはいつしか並行世界の一つと捉えるようになった。それが創造力となりママ先生達は益々生き生きし、すると来世のママ先生の幸せを助ける関与を見過ごすなど絶対無理になり、俺を若干不快にすると知りつつも、旭さんの選曲に二連続で母さんは関与した』


 これが、今回の真相だったのである。いや、真相とは言い切れないか。だって俺は、若干不快になんてならなかったからさ。でも考えようによっては、それは大きなヒントなのかもしれない。ヒントだったと仮定してシミュレーションしたところ、ヒントでほぼ間違いないようだ。俺はシミュレーション結果をテレパシーで母さんに送った。


「アカシックレコードを見ることに、個人的制限を俺は設けています。『カンニングになる場合は見ない』がそれです。これと同種の制限を母さんも設けていると仮定すると、俺への勘違いをうまく説明できます。俺は不快だなんて少しも思わなかったのに、『俺を若干不快にする』と母さんが考えたのがその勘違いです。ひょっとして母さんにとってのカンニングには、未来の俺とのやり取りも含まれているんですか?」

「カンニングは当たっているような、外れているような感じね」

「むむう難しい。即答できないので時間をください」

「ふふふ、そんなに大それたことではないわ。私は翔とのやり取りを、とにかく楽しみたいの。それのみに没頭できるなら未来なんて一切知らず、母親として悩んだり苦しんだりしつつ翔と接したい。息子のために悩んだり失言して落ち込んだりするのも、母親の幸せの一つだからね。でも私は星母の務めとして、翔のアカシックレコードを見なければならない時もある。そしてそれも、母親の幸せの一つなの。自慢の息子ほど、してあげられることが日に日に少なくなっていく。その希少な『この子のためにしてあげられること』を、アカシックレコードが私に教えてくれるからなのね」

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