表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
772/814

125

 いやはや、これ以上の返答がこの宇宙にあるだろうか? 俺が知らないだけと考えるのが普通でも、今この瞬間の俺に限っては無いとし、ママ先生の言葉を実行すべくシミュレーションを始めた。などと御大層なことを言っていても美雪に協力を頼み出た結論は「再会を誓い笑顔でお別れする」という、ベタ中のベタだったんだけどね。まあベタほど極めるのが難しいから、これで良しとしますか。

 そうそう、子供達の昼寝は1時間ということになった。普段とは異なる環境で遊び普段とは異なる疲労が溜まっているため昼寝必須でも、寝すぎると夜の睡眠に支障が出てしまうから、これくらいが妥当なのだろう。然るに異論はなく、ならばこの1時間を大人組はどう過ごしましょうかという話題になったところ、新米保育士が元気よく挙手した。その姿に、母さんの言葉が蘇る。「実物の私なのよ、少しは動揺しなさいよ!」 宇宙レベルの美女なことに加えて王女様だった20歳の母さんが、物怖じする性格だったなんてあり得ないってことだね。そう納得するや「酷いわ」と嘘泣きする母さんのテレパシーがすかさず送られて来たけど今夜たっぷり時間を設けることで了承してもらい、俺は新米保育士さんに体を向けた。


「おお! 案があるならぜひ聞かせてください」

「はい、では遠慮なく。翔さんに伴奏してもらって、歌を歌いたいです!」


 ピンときて母さんに「王女様の仕事の一環として、歌や楽器を習っていたんですか?」と概念テレパシーで訊いたところ、肯定の概念が明るく返って来た。儀式やお祭りで王女様が歌を歌うというのはいかにもありそうだし、孤児院への慰安訪問で孤児達と一緒に王女様が歌を歌ったら、多額の寄付が集まったに違いない。この美貌なら、外交カードにすらなったと思われる。国民も純粋に喜んだだろうし母さんも嬉しかっただろうし、良いこと尽くしだ。散山脈諸島への毎日の訪問を終える際のサプライズとして、母さんに歌を歌ってもらうというのもアリかな? などと、俺は意外なほど楽しく高速思考を始めた。

 そうそう王女様の仕事の一環で思い出したが、侯爵令嬢だった小鳥姉さんと外交官だった鈴姉さんも、厳格なお嬢様教育を受けていたようだ。鈴姉さんも外交官になったくらいだからかなり上流の家だったのだろう、片言のラテン語で話しかけたら流暢なラテン語が返って来て、それに小鳥姉さんも流暢に乗っかり、二人でラテン語のお喋りを始めて舌を巻いたことがある。ヨーロッパの大口の商談で老人が現れたら「ラテン語で話しかけられたらどうしよう」と、いつもビクビクしていたんだよね。実際に話しかけられタジタジになったことも数回あるけど、今となっては懐かしい思い出だな。

 でもまあそれは置き、新米保育士の提案を俺は快諾した。この娘っ子(なんとなく母さんがニマニマしている気がして癪だが事実なのでこの娘っ子)の歌を聴くことは、王女様だったころの母さんの歌を聴くことと同義。多大な興味があるし、散山脈諸島を去る際のサプライズのためでもあるし、何より娘っ子の次はママ先生が歌ってくれるかもしれないのである。否などあろうはずなく、俺は輝力製のバイオリンとビオラとチェロの三種を出し、いかなるリクエストにも応える意気込みを示した。が、出されたリクエストに俺はあやうくすっ転びそうになった。けどそれも、仕方ないと思う。なぜなら娘っ子が口にしたのは、竹内まり〇のSTATIO〇(無理やり英訳)だったからだ。

 この曲への感想は、少々複雑。前世で同曲を初めて聴いた高1の時は、心を微塵も動かされなかった。翌年、作詞作曲をした竹内ま〇や自身が歌った同曲には心を少し揺さぶられたが、CDを購入しようとまでは思わなかった。それから30年ちょい経った、ヨーロッパ出張中。商談先の若者が自己紹介で竹内〇りやのファンと述べ、非常に驚き話をうかがったところ、YouTubeの登場によりシティポップなる音楽ジャンルが突如出現し、それに伴い竹内まり〇は世界的なアーティストになったとのことだったのだ。驚愕する俺に「好きな曲はありますか」と若者は問い、そこまで好きではないが咄嗟に浮かんだのが件の曲でかつ英訳しやすかったため、ST〇TIONと答えた。すると若者は顔をパッと輝かせ、「妻が大好きな曲です!」と握手を求めてきた。どうも二人はファンサイトで知り合い、結婚したようなのである。その若者は予想以上の実力者だったらしく商談はとても良い形にまとまり、それもあり帰国して同曲を改めて聴いたところ、ぶったまげた。高校生の俺には理解不可能だっただけで、奇跡のように素晴らしい曲だったんだね。しかし悲しいかな恋愛経験皆無ゆえ「奇跡のように素晴らしい曲」とまでしか解らず俺は地球を去り、そして今生も恋愛経験に乏しいはずなのに、この星で聴いた同曲は俺の胸に激痛をもたらした。あまりの痛みだったため理由を調べたところ、並行世界の俺に行きついた。人は並行世界の自分と無意識領域で繋がっており、それが人格の土台を形成する。その人格の土台に、同曲は巨大な風穴を開けた。それが胸の激痛の、仕組だったのである。

 という前世と今生の俺を、母さんはきっと知っているのだろう。けどそれが、娘っ子のリクエストにも関わると考えるのは早計。この娘が母さんの操り人形でないのは、明白だしね。とはいえ「了解」と即答するのは、なんとなく癪に障る。俺は少し待ってもらい2Dキーボードに十指を走らせ、同曲がこの星に存在するかを調べた。驚くべきことに存在するどころか根強い人気があり、なのに文化センターの地球曲歌唱同好会で一度も歌ったことがなぜ無いかというと、幾度もこの星に生まれた生粋のアトランティス人に人気があるかららしかった。あの同好会は地球人の記憶を持つ、元地球人の集まりだしさ。

 この星に離婚経験者は、「数字上0ではない」という人数しかいない。よってあの曲は、優れた異文化として好まれているのかもしれない。眼前の20歳の娘っ子が離婚経験者に見えないのも、そう推測する根拠の一つだ。いや待てよ、娘っ子に離婚経験が無いからといって、母さんもそうだとは限らないんじゃ・・・・


「びえ~ん、翔が私をイジメる~~」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ