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3歳児だろうと、女の子は女ということなのだろう。未来の話だが勇と舞ちゃんもしくは昇と奏のところに女の子が生まれて、3歳にしてこのような戦いを繰り広げていたら、俺は立ち直れないかもしれない。ヤバい、想像しただけで俯いてしまいそうだぞ!
話題を変えよう。
子供達はおやつを食べても、眠気を覚えなかったように見える。美雪に訊いても同意見だし、そろそろいいかな? と思い俺は立ち上がり、子供達に問い掛けた。
「みんなは、輝力を知っているかな?」
「「「「しってま~す」」」」
全員元気に声を揃えてくれた。実を言うと、おやつを終え展望台遊びを再開したそうにしている子が、ちらほら出始めていたんだよね。その子たちにとって俺は、座っているだけの時間を終わらせた人になる。それに恩を感じているのだろう、ソワソワしていた子ほど俺に注目してくれていた。その気持ちに報いるためにも、俺はサクサク話を進めた。
「輝力を操れるようになると、出来ることが一気に増える。ついさっきまで皆が遊んでいた展望台や滑り台も、輝力で創ったからね」
楽しかった、お兄ちゃんありがとう、の声が方々から掛かった。子供達の瞳に「輝力は面白い」という強固な思いが芽生えたのを確認した俺は、鉄を熱いうちに打った。
「輝力を鍛えていくと、楽器も創れるようになる。楽器だから、音もちゃんと出るよ」
演出のため胸元に白い光を集め、それをバイオリンと弓の形にしてから着色した。そして肩に当て、バイオリンをひと弾きする。「凄い!」系の声が溢れたのでおどけて応えて笑いを取ったところ、俺への注目が最高潮に達した。さあでは、本命を放ちますか。
「輝力を鍛え続けていくと、異なる楽器を持った自分を数十人創り、全員で一つの音楽を奏でることも可能になる。こんなふうにね」
俺は輝力俺を三体出し、ビオラとチェロとコントラバスをそれぞれに創ってもらった。子供達は展望台にいた輝力俺達を3D映像と勘違いしていたらしく、「あれって輝力のお兄ちゃんだったの?」に類する質問を怒涛のように投げかけてきた。そうだよと答えた俺に「凄い!」の声が集中する。俺は盛大に照れ爆笑を誘ってから、人差し指を立てて唇の前に置き「し~~」の仕草をする。ママ先生が教えたのか子供達は両手で自分の口を塞ぎ、俺にコクコク頷いた。その姿が、ヤバいくらい可愛い。この子たち全員を養子にしたいという願いが巻き起こり、それが可能な並行世界のハーレム俺を初めて羨ましいと思うも、その件は後でじっくり考えよう。俺は落ちついた声で子供達に語り掛けた。
「みんな、展望台で遊んだことを思い出して。高い場所から眺めた、どこまでも続く菜の花畑。それを見ながら滑った、滑り台。滑った先にある、友達と手を繋いで歩いた遊歩道。それらを、心の中に思い浮かべてみて」
ある子は目を閉じ、別のある子は目を開けたまま、それらの光景を思い出したようだ。俺は再び「し~~」の仕草をして、最後の語り掛けをする。
「皆の心の中にある光景に、ピッタリの曲を俺はこれから演奏する。曲名は、春。分身を更に20創るけど、口を塞いだままでいてね」
皆と一緒に俺も口を両手で塞ぎ、タイミングを合わせてコクコク頷いた。笑いを懸命に堪えている子が数人いるので、助けるとしますか。手助けすべく俺は分身を20出して楽器を創造し、ついでに椅子も創ってそれに座る。そんな計24体の俺に度肝を抜かれた子供達の心に、俺はビバルディの四季の、春の第一楽章を届けた。
「ビバルディの四季って知ってる?」と問われ「知ってるよ」と答える日本人の過半数が心の中で再生するのは、春の第一楽章ではないだろうか。厳密には冒頭のこの箇所を「春の第一楽章」とするのは誤りだけど、そもそも作者のビバルディはこの曲を四季と呼んでいないのだから、そこは大目に見てもらうしかない。この星でもこの曲は、ビバルディの四季として人気だしね。
春の第一楽章の演奏時間は、だいたい3分半。3分半の器楽曲は子供達を飽きさせるかもしれず、兆候が現れたら演奏時間を短縮するつもりだったが、大丈夫だったようだ。おそらく、心に描いた展望台の思い出と春の第一楽章が、ピッタリ合ったからじゃないかな。そうだったらいいなと願いつつ、俺は3分半の演奏を終えた。
ありがたいことに春の第一楽章は大好評だった。もっともっととせがまれたので「全員で一緒に歌いたい曲はあるかな?」と尋ねたところ、いかにも3歳児が好きそうな曲名がポンポン出てきた。その中から一曲選び、24体の俺で壮大な前奏曲を奏でる。子供達は大喜びし、元気いっぱい歌を歌っていた。歌い終わったら子供の常としてもっともっとと再度せがまれたが、思いどおりにならぬ事もあると教えるのは、大人の大切な務め。俺は確たる意志を声に込め、「最後の一曲だから慎重に選んでね」と子供達に告げる。もっとたくさん歌いたいと涙ぐむ子もいたけど、ここは心を鬼にせねばらない。頑として譲らぬ意志を全身から放っていたところそういう立ち位置なのか、翔丸が「みんなで曲を決めよう!」と声を張り上げた。取り巻きの女の子たちがすかさず同意し、翔丸が中心になって曲の選考を始める。翔丸ってこういう立ち位置なのかな、と美雪にテレパシーで訊いたところ、「普段はぼんやりしていても決めるときは決める子なの!」と、自慢の弟を自慢できて嬉しいとばかりに美雪は早口で答えた。気恥ずかしくて翔丸の話題は避けてきたけど、お子ちゃま美雪とお子ちゃま冴子ちゃんの件もあるし、今後は改めるとしよう。
という決意の最初の実践として翔丸の逸話を尋ね、美雪と楽しい時間を過ごしているうち、選曲が終わったようだ。子供達の代表として翔丸が発表した曲名と選曲理由に、ママ先生がハンカチを目に押し当てた。翔丸は選曲理由を、こう説明したのである。
「僕達がこの歌を歌っていると、ママ先生が一番嬉しそうな顔をするからです」




