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そうそうママ先生と新米保育士には、俺の顔が別の顔に見えているらしい。俺が自己紹介しても「うちの翔丸と同じ名前なのですね」と二人はほほ笑むだけで、似ていますね系の言葉は出てこなかったのだ。俺にとって翔丸は笑ってしまうほど激似だったのに、保育士の二人がそれを見過ごすなどあり得ないからさ。
ちなみに激似といえば、美雪の3歳版のお子ちゃま美雪と冴子ちゃんの3歳版のお子ちゃま冴子ちゃんも激似に違いなく、ではその子たちは俺の目にどう映ったかというと、ここに来ていないため映っていないんだよね。ママ先生によると、今朝起きたら急に発熱していて遠足に来られなかったらしい。あちらの世界の時間をいったい何倍速にしたのか眩暈がしたがそれは置き、ピンと来た俺はテレパシーで母さんに尋ねた。すると案の定、原因は俺だった。お子ちゃま美雪とお子ちゃま冴子ちゃんを俺が好きになりすぎて向こうの世界と整合性が取れなくなることが、アカシックレコードによって判明したそうなのである。「二人を養子にするとか、俺が言い出したとかですか?」「翔は自分をよく知っているわね、そのとおりよ」「養子になどできないと知りつつも俺は二人の前でそれを言い、そしてそのせいで二人の心を傷つけてしまった。アカシックレコードを見ずとも、俺にはわかります」「翔の心も傷つけてしまいましたね。ごめんなさい」「母さん、どうか謝らないでください。あと、母さんに頼みごとがありまして」 俺は覚悟を決めて頼んだ。
「一年間かけて心を鍛え、お子ちゃま美雪とお子ちゃま冴子ちゃんへの好意を制御下に置いてみせます。ですから来年の遠足も、二人を含む皆をここに招待することをお許しください。二人だけが菜の花畑を原風景にしていないなんて、可哀そうすぎますから」
そう言うと思っていました、と母さんは機嫌よく了承した。それだけでなく花の妖精長に事情を説明し、来年のバカンスも最上推薦席を確保してもらえるよう手配してくれたのである。恐縮の極みだけど、こんなふうに他者のためにテキパキ働くのは、母さんの元々の性格と考えて間違いない。本来の人柄がそうさせているのだから、俺は便宜をありがたく頂戴することにした。
亜神級を明かしたため顔から火が出るほど恥ずかしくなり話題を意図的に逸らしていたが、そろそろ元に戻そう。
亜神級なる中二病等級を耳にしたママ先生と新米保育士は、しばし絶句していた。その機を逃さずアレコレ考察するやら母さんとテレパシー会話するやらをした俺は、美雪にもテレパシーで語り掛けた。来年の夏のバカンス地を勝手に決めてしまったことを、詫びたんだね。美雪は「嬉しさしかない」と真摯にお礼を言ってくれたけど、お子ちゃま美雪とお子ちゃま冴子ちゃんの可愛さを俺が過小評価していることを語気鋭く説いた。ならば今度は俺が、それに真摯な対応をする番。美雪の忠告に従い、バカンスが終わったら二人の動画を見せてもらうことにした。それだけでも動揺する可能性が高いため対抗策として、養子にしたいと駄々をこね皆に迷惑をかけてしまったことを、俺は心に刻んだ。
テレパシー高速会話を美雪と済ませたのとほぼ時を同じくして、ママ先生が絶句から復活した。復活するや秘密を明かした俺への謝意と、秘密を口外しない誓いをママ先生は改めて述べてくれた。約40年ぶりに再会したママ先生の、人格の高潔さがやたら嬉しい。然るにもっと喜んでもらいたくなった俺は、急な発熱で遠足に参加できなかった二人の女子のためにも、来年もここに来ませんかと提案した。ママ先生はたいそう恐縮するも、展望台から聞こえてくる子供達の楽しげな声に勝てなかったらしい。子供達にこれほど良くしてもらえて感謝の言葉もありませんと、涙を流して喜んでいた。1歳から3歳までママ先生を母親と慕っていたのに恩返しを一つもしていない身としては、もっともっと喜ばせたくなって当然といえる。俺は今後の計画を、胸中密かに立てていた。
展望台を子供達に開放した、10分後。子供達はまだ元気だけど、元気を失ってから行動する大人は、子供を見守る大人として失格なのだ。俺は展望台にいる三体の分身俺に、
「は~いみんな、お菓子とジュースを用意したよ。ママ先生達のもとに戻ろう」
と呼びかけてもらった。子供達が歓声を上げてこちらに走ってくる。それだけで、胸が幸せでいっぱいになった俺だった。
この子たちのいるあちらの世界の時間がどうなっているか、俺は知らない。約20年ぶりに再会した翔丸が、たった3カ月しか経過していないくらいだからね。ただ今日の調整は十全にされており、ママ先生によると遠足が急遽決まったため今日はお昼ご飯を1時間早く摂り、昼寝を1時間し、午後12時40分に孤児院を出発したとのことだった。それならこちらの時間とピッタリ合うし、またお昼ご飯を1時間早く食べたとのことなのでおやつの有無を尋ねたところ、「抜かりはありません」とウインクされてしまった。心臓が大きく跳ねたことが、どうかママ先生にバレていませんように。
この星の政府は健全財政なことこの上なく、かつ孤児には寄付が大量に集まることもあり、用意されたお菓子とジュースは申し分ない質と量だった。嬉しいのは間違いないのだけど、子供達に何かをしてあげたくてウズウズしている身にはつらい。よってテレパシーで美雪に相談したところ、素晴らしいアイデアを聞かせてもらえた。「後で抱き上げてクルクルするよ、楽しみにしててね」「もう、翔ったら」 などとテレパシーで美雪とイチャイチャしたのが、どうか子供達にバレていませんように。
というのも、翔丸がモテモテだったからだ。翔丸を取り巻く女の子たちなら、俺と美雪のテレパシーイチャイチャを本能で察知して囃し立てる気が、直感的にしたんだね。しかし美雪によると、俺は認識が甘すぎた。戦慄を禁じ得ない女子達の戦いを目の当たりにしていたというのが、真相だったのである。
「普段はお子ちゃま私とお子ちゃま冴子が、翔丸の隣に片時も離れずいるの。その二人が今日はいないから、翔丸を奪う絶好の機会と女子達は捉えているみたいね」




