121
ここの菜の花の高さは、だいたい90センチ。対して3歳児の身長は、93センチ前後といったところ。つまりつま先立ちをしたりジャンプしたりすれば向こう側を見ることができ、苦労して垣間見た向こう側に壮大な景色が広がっていることを知った子供達は、目線を高くすべく様々な工夫をしていた。工夫せず頼って来るだけだったら助けないつもりだったけど、健気に頑張っているなら話は別。俺は輝力で木材の角柱を創り、子供達に触らせる。子供の心の柔軟性は半端なく、木材が突如出現しても拍手するだけで怖がらず、ペタペタ触り「木だ~~」とワイワイやっていた。木の頑丈さを実感させたのち、俺は子供達に角柱から離れるよう指示を出す。そして角柱に穴を空け、穴にピッタリ嵌るよう角柱の両端を削り、角柱を階段状に組み上げていった。「お兄ちゃん凄い!」の声が方々から掛かり気をよくした俺は階段の最上部に展望台を設置するだけでなく、展望台の両脇に幅の広い滑り台を付け加えた。滑り台を降りる場所は、菜の花の10センチほど上に設けたウッドデッキ。そのウッドデッキの先に、子供二人が手を繋いで歩ける空中遊歩道を創っていく。反重力ペンダントを子供達が身に着けていることを考慮し、遊歩道に手すりは設けなかった。美雪にお願いし、反重力ペンダントの動作確認を頼むことは忘れなかったけどね。
こうして完成した遊歩道と滑り台を追加した展望台に、子供達は驚喜した。展望台から眺める景色に感動し、次いで滑り台にキャッキャし、菜の花の黄色い花を間近に見られる遊歩道を興奮して歩いていたのだ。ママ先生と新米保育士が心配せぬよう分身をもう二体出し、左右の滑り台の降り口に一体ずつと、階段の上り口に一体の計三体に立ってもらった。ママ先生は目を丸くし、「失礼ですが翔さんの輝力工芸スキルの等級はいかほどなのでしょう」と辞を低くして訊いてきた。スキル等級を相手に尋ねるのは若干のマナー違反でも、子供達を預かる保育士として、確認せずにはいられなかったんだね。その心構えに異論は皆無なのだけど、等級が等級なだけに俺は盛大に照れつつ説明した。
「一般的には勇者級が最上級とされていますが、その上に神話級という等級があります」「はい、存じています。戦士試験を歴代最優秀で合格した戦士が、神話級の健康スキルの所持者ですよね」「はい、そうです。それでここからは秘密にしてもらいたいのですが」「子供達にこれほど良くしてくれた翔さんを裏切るような真似は、決してしません。旭はどう?」「信頼を決して裏切らないと、私も誓います」「ありがとうございます、では打ち明けましょう。俺の輝力工芸スキルの等級は、亜神級です。星母様が、そう定めてくださったんですね」
超絶恥ずかしくて自分でも意識せぬようにしていたが、竜族に披露したカヴァレリア・ルスティカーナの成功をもって「翔の輝力工芸スキルの等級を、亜神級にします」と母さんに告げられてしまったのだ。俺はテーブルに額をこすりつけ「どうか内密にしてください」と頼んだところ、意外にも母さんはあっさり了承してくれた。ただ「複数の名家の師匠を分身で同時にこなせば皆そろそろ我慢できなくなり、翔の輝力工芸スキルの等級を恐る恐る尋ねてくると思うわよ」と、溜息をつかれてしまったけどね、ははは・・・・
気を取り直し、母さんの溜息には相応の理由があることを整理してみよう。
まずは、俺が輝力工芸スキルに手を出す前の最高等級は、英雄級だったということ。命がけで輝力壁を創り闇王の必殺の攻撃を逸らして夫を守り人類絶滅を回避した女性が、その所持者だ。けどそれを基準にすると、帽子堂を創った100人の仲間達は、英雄級を凌ぐ勇者級になってしまう。よって人類軍は母さんの助言に従い、輝力工芸スキルの英雄級に関する機密事項を新しく作った。「咄嗟に創った輝力壁で闇王の必殺の攻撃を逸らしたという実績に基づき、英雄級に認定した」という軍事機密を、ぶっちゃけると創作したのである。けれどもそのお陰で、帽子堂の仲間達は同種の実績をまだ持たないということになった。その上で司令長官が直々に「しかしスキルの熟練度は英雄級に比肩するレベルに十分到達しているため、英雄級に準じる準英雄級とする」と、仲間達に説明したというワケ。それら諸々の裏事情を知っている俺は眉間に縦皺を刻んだけど、裏事情はもちろん伏せられた。だが伏せようと、表向きの説明を司令長官から直々にされた仲間達は、超喜んでいたという。う~むみんな、なんかゴメンナサイ。
再度気を取り直し、次は英雄級の上の勇者級について。
母さんによると当初は勇者級を、妖精達に好評の果物を創れるようになること、と定義しようとしていたらしい。だが鈴姉さんと小鳥姉さんが、その案を粉砕した。姉達の輝力工芸スキルの等級は帽子堂を創造できる遥か手前でしかないのに、妖精達に好評の果物を創ることは成功してしまったからだ。もちろん母さんのことゆえ二人の成長を喜びこそすれ不満は持たず、勇者級の定義を変更した。「準英雄級所持者が果物を云々」にしたんだね。だが今度は俺のせいで、それも危うくなった。果物は、当たり前だが生物。ならば同じ生物の「輝力製の自分の分身」を創れるようになっても、勇者級のままなのか? そんなことはない、自分の分身を創れるようになったら、神話級が順当なのである。しかしそれを神話級にしたら、「バイオリンに意識を宿らせたこと」はどう扱えば良いのか? 普通に考えたら神話級を超える等級が順当でも、俺が輝力俺を創れるようになってからバイオリンに意識を宿らせるまでに費やした時間は、1年ちょっとなのだ。1年ちょっとで可能になることを神話級を超える等級の基準にするのは、さすがにマズイのではないかしら? と母さんが逡巡しているうちに俺は分繋思の顕在意識化に成功し、複数の名家で師匠の仕事を同時進行させられるようになってしまった(厳密にはまだだけど、アカシックレコードには成功した未来しかないという)。俺が創造しているのはあくまで輝力俺であり、大聖者が創造する本物の肉体ではない。とは言うものの輝力俺は俺に準ずる戦闘力を有し、かつそれぞれが独立して行動可能とくれば、神話級を超える等級にせざるを得なくなる。では、どうすればいいのか? ええいこうなったら、たとえ1年足らずで習得したとしても、開き直って亜神級にしてしまいましょうそうしましょう!
てな具合に母さんは半ばやけっぱちになり、亜神級という等級を設定したのでした。
これでは溜息の一つもついて当然。母さん、マジすみません。




