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 前世の俺には、年に一度ないし二度見る程度の奇妙な夢があった。それは洪水の夢で市街地に水が押し寄せ、逃げても逃げても水に追いつかれそうになり、にっちもさっちもいかなくなるという夢だった。なぜこのような夢を見るのか我ながら不思議だったが前世の俺に抵抗手段はなく、ほんの小さな頃から40歳までその夢を見続けた。だが40歳の3月11日を境に、その夢をピタリと見なくなった。俺は1970年の5月生まれだったので、その年は2011年。そうそれは、日本人なら決して忘れない日。最初に見た子供のころ洪水と誤解し、その誤解は311まで解けなかったがあれは洪水ではなく、市街地で津波に襲われる夢だったのである。

 あの日以降、件の夢はピタリと見なくなった。だがバトンタッチしたかの如く、別の夢を見るようになった。前世の俺にとっては荒唐無稽すぎ限られた友人に酒の席で冗談めかして話すのみだったそれは、宇宙人の夢。人を生きたまま捕食する宇宙人が空から攻めてきて、地球人の3分の1を食べてしまうという夢だったのである。

 前世の俺は荒唐無稽の一言で片づけられたが、今生はそうも言っていられない。ただ「人を生きたまま捕食する」の箇所は、正誤を未だ解明できないでいる。鈴姉さんの講義は「魂を始めとするしっちゃかめっちゃかな語彙の修正」が主目的だったし、それ以降の講義は「今生に役立つ知恵と技術の伝授」が主目的だったし、地球のアカシックレコードを見ようとすると母さんがなぜか良い顔をしないため、今でも判別つかないのである。しかし繰り返すが解らないのは「人を生きたまま捕食する箇所」のみでありそこ以外の部分、つまり「宇宙人が空から攻めてきて地球の人口が3分の2になる」のは、未来の可能性分布として既に存在している。黙示録に記された3分の1の箇所が、それだね。

 黙示録の世界線においてそれが起きるのは、各国政府が666を発動した後になっている。強固なマインドコントロールを施された人類を、もしくはそんなものを国民に平気で施せてしまう権力者達を改心させるには、それほどの衝撃が必要なのだ。改心させるのは、権力者だけでなく一般市民も含まれる。認め難いだろうが地球人は宇宙において、落ちこぼれ中の落ちこぼれ中の落ちこぼれだからさ。

 俺が地球を去るころ「馬鹿は自分が馬鹿であることを知らない」系の本がそこそこ脚光を浴びていた。強い興味を覚えてネットのコメント欄を見て回ったところ、どこもかしこも同意者で溢れていた。前世の俺は暗澹たる気持ちになり、今はそれがもっと酷くなっている。本体族の宇宙平均において馬鹿ではない地球人は、いったい何%いるのか? 左端に0を二つ並べてその間に小数点を表す記号を記した%なのが、俺の正直な意見だ。

 意識分割していても悪影響を受けそうなので話題を替えよう。

 前世の俺は、ゾンビ映画がとにかく苦手だった。またGANT〇という漫画に巨人型宇宙人が鮮度を最重視して人を食べる場面があり、それにもトラウマ級の衝撃を覚えた。ゾンビは捕食を除けば聖書に類似する記述があり、GANT〇は和食文化を宇宙人と地球人に当てはめたと予想されるが、果たしてそれだけなのか? 組織で習った知識に「この並行世界は第三並行世界」というものがあり、信じ難いが「第一並行世界の日本では『命令の令』を元号に使った」というものもあった。人の脳は並行世界の自分と無意識領域で繋がっているため、異なる並行世界の自分が体験したこともしくは「未来で体験すること」を脚色して芸術作品に盛り込む芸術家も、いるんじゃないかな?

 そうそう蟹味噌の膵臓と言えばこちらも地球人にはトンデモだろうが、人の膵臓は未来視を担う臓器なんだよね。トンデモ中のトンデモなので省くが未来視能力を発揮した膵臓は極めて特殊な方法によってある線を出現させ、その線と実際に起こった出来事の相関関係を解明していったのが、地球の占いの起源。時代が下るにつれ膵臓やら極めて特殊な方法やらは奇麗サッパリ消滅し「出現した線は未来を示す」という超断片的な箇所のみが知識として残り、それをどう弄ったのか定かでないが弄り倒して生まれたのが、古代中国の夏王朝や商王朝で頻繁に行われていた甲骨占いだ。未来視能力は科学的予測が不可能な時代に天災の被害を軽減すべく創造主が人に授けた偉大な能力なのに、俺が地球を去るころはエンターテインメントに成り下がっていた。今でも思い出すのは「占いは占いです。それ以上でもそれ以下でもありません」と動画配信サイトで宣っていた人達。かつては芥子粒ほどの未来視能力を持っていたみたいだけど、エンタメとして金儲けの手段にしていたら、能力を失って当然。「それ以上でもそれ以下でもない」の矛盾に気づいていないことが暗示しているように、悪果として失ったのは未来視能力だけではないのかもしれない。たとえば「それに勝りもせず劣りもしない」なら矛盾しないし、似た表現なら他にも複数あるからさ。

 けれどもエンタメとして割り切っている占い師は、錯覚預言者より断然良いと言える。錯覚預言者とは、20世紀前半と比較し十倍以上流入するようになった創造力を自覚なく用いることで、自分は預言者と錯覚している人達を指す。心の成長度に対し自己評価のとんでもなく高いその人達は宇宙人やイエスキリストやトート等々から特別に見いだされ、特別なメッセージを授けられたという状況を「己の創造力によって創造した人達」だ。その状況は夢や白昼夢の類なのだけど、正当に評価されたと錯覚しているその人達はネットに顔をさらし、メッセージを公開するんだよね。えっとその、大丈夫だったのかなあの人達。ま、

 

「自業自得を自認し、這い上がってもらうしかないな」


 俺はそう、心の中で独りごちた。

 そして意識分割を止め、目の前の蟹に全力集中したのだった。

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