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そうこうするうち年長の妖精達がやって来て、子供妖精達を言葉巧みに誘導し別の場所へ連れて行った。年長の妖精の一体が去り際こちらに向き直り、子供妖精達にバレぬよう恭しく腰を折っていたから、大方ここの土地神に指示されて来たのだろう。となると、花の妖精長が「代表を押し付けられることが多いんですよね」と肩を落としたさい脳裏を駆けたある予想は、外れる可能性が高くなる。その予想は、バカンスで訪れる場所ごとの土地神がそのつど挨拶に訪れる、というものだった。美雪と二人きりで過ごす久しぶりのバカンスだったため必要以上に警戒し、的外れな予想をしてしまったのである。俺は心の中で、花の妖精長に詫びた。
そうそう花の妖精長といえば女性の姿で現れたことにより、ある事に推測を立てられたのだった。そのある事とは「二周目の土地神巡りに母さんが同行しなかったこと」で、推測は「母さんがいると訪問が公的行事になり、土地神との私的な交流を妨げてしまうからではないか」ということだった。女性の心を持つ花の妖精長はプライベートでは女性の容姿をしているのに、土地神巡りで会ったときは男女を区別できない中性の容姿をしていた。そうさせてしまったのは自分と判断した母さんは二周目に同行せず、俺と土地神達が私的に交流できるようにした。といった推測を、思い付けたんだね。ただの勘だけど、これは正解と思われる。俺自身の力で土地神達と良好な関係を築く機会があるなら、それを妨害してはならない。母さんはたぶん、こんなふうに考えたんじゃないかな。
まあそれは次に会ったら訊いてみるとして、話を戻そう。
盛んに「お姉ちゃんお姉ちゃん」と呼びかけつつ元気に飛び回っていた子供妖精達を年長の妖精達が連れて行き、それは仕方ないことと納得しつつも寂しげな気配を少しまとった美雪に、俺は語り掛けた。
「こういう風光明媚な場所には、妖精に推薦されないと足を踏み入れられない推薦席があることを、美雪は知っているよね」「もちろん知っているよ」「実はここ、花の妖精長が用意してくれた、最上推薦席なんだよ」「ええっ、花の妖精長さんありがとう!」
ネモフィラ畑に向かって謝意を述べたのち、美雪は顔をちょっぴり赤くして照れる仕草をした。訊いてみたところ、「お邪魔虫にならぬよう遠くに行ってますねって、花の妖精長にテレパシーで言われちゃった」とのことだった。顔をほころばせた俺は、ネモフィラ畑に正対して背筋を伸ばす。それに倣った美雪と一緒に、最上推薦席のお礼を花の妖精長に改めて伝えた。
その後、その場所で2時間過ごした。最上推薦席は基本的に丸一日貸し切りだけど川下りも楽しみたかったので、午前11時半から午後1時半までの2時間という事にしたんだね。輝力でテーブルと椅子を作り、美雪と横並びに座って正面のネモフィラ畑を楽しみつつ食べた昼食の時間は、生涯忘れぬ記憶となった。柔らかな日差しが降り注ぐうららかな春の日、空とネモフィラ畑が溶けあうような絶景を眺めつつ、宇宙一好きな人と美味しい昼食を共にしたのだから、それで当然なのだ。去り際、さっきの子供妖精を含む大勢の妖精達が集まって「「「「また来てね~」」」」と声を揃えてくれた。俺と美雪は顔をくしゃくしゃにして両手をブンブン振り、その場を後にした。
午後1時半ちょいから川下りを再開した。ついさっきまで視界を占拠していた絶景には劣れど、川から眺める景色もとびきり美しいことに変わりはない。加えて釣りができるし、釣りの合間にバイオリンも弾けるし、それに合わせて美雪が歌を歌ってくれるとなれば、総合力ではネモフィラ畑とタメを張ると思われる。天候も相変わらず好調だし、俺と美雪は絶品の午後のひと時を楽しんでいた。
そうこうするうち日が暮れ始めた。そろそろ着くんじゃないかな、と思い分割した意識を上空に飛ばして周囲を見渡したところ、目当ての湖が下流すぐのところにあった。湖といっても川幅が湖に比肩するほど広くなっているだけなのだがそれは置き、あの湖は今晩の宿泊地。川の両岸の景色が最も良い場所を選んで川下りをしているから、寝ている間に通り過ぎてしまうのはもったいないと感じたんだね(川で停泊すると日本における駐車違反になるのだこの星では)。ほどなく、湖の入り口に付いた。俺達の乗るなんちゃって筏船は湖南方の、水深が最も浅い場所を目指して進んだ。
この大河は、地球のミシシッピ川と類似点が多い。ミシシッピ川にも川幅が6キロを超える場所があり、ただしそこはダムで堰き止められた人造湖なためそこは違うのだけど、俺が宿泊場所に選んだこの湖も幅が5キロ強なのは類似点の一つと言えるだろう。ちなみにミシシッピ川のその人造湖に、前世の俺は出張を利用し行ったことがある。理由は名前が特徴的で、甥や姪との話題づくりも兼ね足を運んでみたのだ。特徴的なその名は、オナラスカ湖。失礼だがいかにも小学生が食いつきそうな、名前なのだった。
子供妖精達に前世の甥や姪を思い出したこともあり、小並感あふれるジョークを垂れてしまった。地域に多大な貢献をしている人造湖なのに、オナラスカ湖さんごめんなさい。
気を取り直し、今夜の宿泊場所にした湖の感想に移ると、
「とにかく蟹が美味しかった!」
になる。小並感の二連続のように自分でも感じるが開き直って続けると、このバカンスの数日前いきなり思ったんだよね。「蟹を食べたいッッ!!」て。




