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 ならば、妖精達の意向を第一にするのは当然の措置。その旨を妖精達に伝えたところ、こう返って来たのである。「最も美しい自然は、自然を愛し大切にしてきた人族に見てもらいたいです」 この言葉に同意した大統領は妖精推薦席の是非を問う国民投票を急遽行い、99.99%の賛成をもって是となった。妖精族との意見交換はその後も続き、推薦席、上推薦席、特上推薦席、最上推薦席の4ランクが作られることになる。その筆頭たる最上推薦席に、花の妖精長は招待してくれたのだ。しかも、


「席の件は美雪さんへのサプライズにしてください」


 と付け加えてくれたのである。車中でなかったら五体投地できたのにと、歯噛みした俺だった。

 妖精達が輪になって作った二重丸は、意外と大きかった。内側の円すら、直径30メートルあったのである。これって輪の中央に降りなかったらかえって失礼だよね。と都合よく解釈して降りて行くも、二重丸は途中で矢印に変わり、お花畑にもっと近い場所へ着陸地点を誘導されてしまった。輪の中央だったらお花畑まで距離があることを理由に美雪をお姫様抱っこするつもりだったが、ままならないものである。いや違うか、美雪に瞑目するよう勧めたのは花の妖精長なのだから、矢印による誘導は最初から計画されていたと考えるべきだろう。「俺って知らぬ間に、チャラ男になっていたのかな?」 心の中で、しょんぼりそう呟いた。

 みたいなチャラ男などどうでもいいので脇に置くとして、カレンがついに着陸した。瞑目する美雪に少し待ってもらうよう声をかけ、先に車外へ出る。次いで助手席側に素早く飛び、助手席のドアを丁寧にゆっくり開けた。お姫様抱っこに未練のあった俺はピンときて、「お手をどうぞお姫様」と語り掛けてみる。しかし「感謝いたします騎士様」と余裕で返され、己のアホっぷりを突き付けられる結果となった。う~んでも手を繋いだ美雪がとても喜んでいたから、やっぱ大正解だったんだな!

 賢いカレンは指示を出さずとも、助手席側がお花畑側になるよう着陸してくれていた。謝意を伝え、カレンから離れる。といっても「五歩進んだら止まってね美雪」と声を掛けたように、花にすこぶる近いんだけどね。前方へゆっくり進む美雪の髪が、ほんの少し前へなびいている。風上へ視線を向け、微風を後方から吹かせてくれている妖精達にテレパシーで感謝を述べた。

 北へまっすぐ五歩進んだ美雪が足を止める。「カウントダウンを3から始めるね」「うん!」 はつらつと応えた美雪の頬が健康的な朱色に染まっている。もちもち艶々の白い肌と相まって、白から朱へ色を変える地上最高に美しい花を見ているようだ。気を引き締めねばキザ男になってしまう自分に少なからず戦慄しつつ、カウントダウンを始めた。


「では3、2、1、はいどうぞ」「うわ~~、信じられない!!」


 大輪の花と化した美雪をいつまでも見ていたかったのが本音だけど、美雪の注意を逸らすのは不適切と判断し、俺も顔を前方へ向ける。と同時に、俺個人用の小型蜃気楼壁を解除した。その途端、


「スゲエッ!!」


 語彙力の欠片もない声を俺は上げた。けど、それも仕方ない。視力20の俺の目をもってしても、ネモフィラ畑と空の境界を見分けるのに苦労したからだ。スゲエの後は眼前の絶景にただただ目を奪われていた俺の頬を、そよ風がそっと撫でた。その風の、なんと香しいことか。地球のネモフィラ同様この星のネモフィラも香りをあまり放たないが、ここまで数が多いと関係ないらしい。甘やかなネモフィラの香りに胸を満たされつつ、空がネモフィラ畑になったようなネモフィラ畑が空になるような幻想的な景色を、俺と美雪は時間を忘れて見つめたのだった。


 おそらく2分くらい経ったころだろうか? 足元に気配を感じ視線を向けたところ、複数の子供妖精達と目が合った。妖精との付き合いがこれでも長い俺の目に「誕生して1年未満かな」と映ったその子たちの顔が、泣き顔にみるみる変わっていく。思わずプッと吹き出し、演技でない笑みを浮かべて俺は片膝立ちになった。


「こんにちは妖精さん。こんなに素晴らしいネモフィラ畑を見せてくれて、ありがとう」


 今にも泣きだしそうだった子供妖精達の顔が、打って変わって笑顔になる。すると絶妙なタイミングで、美雪の声が隣からかかった。


「ネモフィラの美しさと香しさに心を奪われて、気づくのが遅れちゃったわ。こんにちは妖精さん。この素晴らしい花たちを、愛情たっぷりお世話してくれてありがとう」


 そうなの、愛情たっぷりお世話しているの、と子供妖精達が一斉に話し始めた。その声の一つ一つに、美雪はにこにこ相槌を打っている。それが嬉しかったのか子供妖精達は小ぶりの羽根を盛んに動かし、美雪の周囲を元気よく飛び始めた。周囲を飛ぶその子たちが、極々自然に「お姉ちゃん」と美雪に語り掛けている。美雪と子供妖精達との交流で頻繁に見られるこの現象は、何気に稀有なこと。一般的に妖精は人間とどんなに仲良くなっても、家族や同族に用いる単語で人を呼ぶことはない。実際俺も「翔お兄ちゃん」系を使われたことは一度もなかった。それは徹底しており、たとえば美雪を中心にクルクル飛んでいる子たちよりもっと幼い子たちが、つまり教育など微塵もされていないはずの赤子妖精達が初対面の俺をどう呼ぶかというと、「優しそうな人族さん」なのである。そのことから、


  創造主が妖精の心をそのように創った


 のではないかと俺は推測している。創造主が創ったのは妖精族の本能であり、その本能の赴くまま美雪と交流すると、口から自然に「お姉ちゃん」が出てくるのだからそれはまさに稀有な出来事なのだ。という子供妖精達の気持ちを、嬉しく思わない訳がない。美雪はまこと楽しげに子供妖精達とおしゃべりし、その様子を俺は再び時間を忘れて見つめていたのだった。

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