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 というように二人っきり云々を再確認した理由は、花の妖精長の訪問を美雪が素直に喜んでいるからだ。噂を聞き会いたがっていたというのも社交辞令ではないのだろう、女同士でお喋りを楽しんでいる。今は俺の隣から移動し、花の妖精長と並んで話しているくらいだからね。とはいうものの、油断は禁物。妖精と人は文化風習が異なり、かつ今はバカンスの最中なのだから、会合の手綱は俺がしっかり握っておかねばならぬのである。その一環として機を見計らい「楽しく会話しているところ悪いんですが」と断り、俺は花の妖精長に尋ねた。


「美雪に喜んでもらうため、川岸のお花畑を一日一度訪れようと思っています。でも俺は、花の素人なんです。対して花の妖精長は、花の専門家中の専門家と呼ぶべき存在。お花畑を鑑賞する際のコツや注意点があったら、教えていただけませんか?」


 花の妖精長が「ほう!」と喜色に染まった顔になった瞬間を逃さず美雪は俺の隣に戻って来て、俺と揃って背筋を伸ばした。それを受け「見せつけられちゃいましたわ、息のぴったり合ったお二人ですこと」と、花の妖精長は笑みをこぼす。俺と美雪は照れ、するとそれを待ってましたとばかりに「まあまあ、照れ方まで瓜二つなんですね」と返されてしまった。俺は白旗を揚げたが、美雪はむしろ嬉しかったらしい。対面に座ったまま、お喋りを再開する勢いで花の妖精長に話しかけたのである。けどまあそこは、さすがは何十万年も生きている土地神なのだろう。美雪との会話を介し、この三日間が見ごろの三つの花畑を至極自然に紹介してくれた。

 それによるとこの三日間では「色とりどりのチューリップ畑」と「遥か数キロ先まで青が続くネモフィラ畑」と「遥か数キロ先まで黄色が続く菜の花畑」の三つがお勧めとのことだった。見ごろの時期としては三つの花に差はないが、天候も考慮すると、今日はネモフィラ畑が最上位に来るとのこと。理由は好天に恵まれ今日より明日、明日より明後日と気温が上昇するから、空の青さが薄くなっていくそうなのである。その理由がよほど嬉しかったのか、美雪は花の妖精長の隣に再びテレポーテーションした。


「それってあの有名な『ネモフィラの青と空の青の境界が区別できない景色』を、今日は見られるってこと?」「ええそうよ、楽しみでしょう」「楽しみ楽しみ、バンザ~イ!」


 美雪は万歳し、次いで花の妖精長と手を繋いでキャイキャイ始めた。その光景を目尻を下げていつまでも見つめていたかったけど、旅の計画をするのは俺の務め。俺は2Dキーボードと2D画面を出し、今日が見ごろのネモフィラ畑を検索した。するとカレンなら1分かからぬ場所に目当ての畑があった。バカンス中のカレンは反重力板とバストイレ室を牽引しているため最高速度は落ちるが、それでも100秒未満といったところかな? キーボードを弾いてカレンに訊いてみたところ、90秒とのこと。「じゃあカレン、準備が出来たらお願いね」と頼み、今度は反重力板のAⅠにアクセスし、俺と美雪がカレンに乗り合図したら被牽引車モードに自動的になるよう設定していく。こういうのは美雪がいつもしてくれるけど今はバカンス中だから、当たり前のこととして俺が行う。これが二人の仲を良好に保つ、コツなんだね。

 という一連の作業を輝力圧縮により5秒で終わらせた俺はキーボードと画面をゆっくり消し、余裕のある仕草で美雪に顔を向けた。作業を始めてからの合計時間は、10秒といったところだ。これだけあれば、花の妖精長にお礼を伝える時間として十分だったはず。それは当たり美雪は「ありがとう翔」と、花も恥じらう笑みを浮かべた。はばからずデレデレ顔になった俺に「また見せつけられちゃいましたわ」とコロコロ笑った花の妖精長が、「しばし中座します」と述べて消える。消えなかったらカレンに乗ってもらおうと考えていたけど、そこはさすが土地神なのだろうな。

 その、約3分後。

 カレンが、目当てのお花畑の上空に到着した。

 ちなみに美雪はカレンに乗車してから、目をずっと閉じている。どうも花の妖精長に、そうするよう勧められたみたいなのだ。理由の推測は容易だったことに反し、上空から見下ろした光景への驚きは想定を数段超えていた。特に今、眼下に広がる光景は圧巻の一言に尽きた。なんと直下に、10キロ四方のネモフィラ畑が広がっていたのである。水平線までの距離は目線が2メートルでも5キロ強ゆえ、俺でもネモフィラ畑の向こう側は見えないに違いない。「こりゃ花の妖精長に感謝だな」「翔、そんなに凄いの?」「うん、楽しみにしてて」「わかった!」 とのやり取りを合図に、カレンは降下を始めた。

 カレンが向かったのは、ネモフィラ畑の南端中央。美雪の目線は180センチちょいだから、正面はもちろん右を向いても左を向いてもネモフィラのみが広がっていると思われる。俺は再度、心の中で花の妖精長にお礼を述べた。すると「どういたしまして」とのテレパシーに続いて、花の妖精長はありがたきことこの上ない話をしてくれた。


「翔さんと美雪さんが景色を心置きなく楽しめるよう、妖精推薦最上席を用意しました。翔さんなら現在の高度でも、妖精達が二重丸を作っている場所を見つけられますか?」「はい、見つけられます。花の妖精長のご配慮へ、心から感謝します」


 環境省妖精課の新設により、妖精達の意向を政府や社会が汲む体制が確立した。妖精推薦席は、その最高成功例の一つと言えるだろう。文字どおり「妖精の推薦があって初めて確保できる席もしくは場所」は現在、自然を目玉にする観光地の全てに設けられている。妖精は、自然を保つべく創造主が創造した意識生命体。この意識生命体は成長するため、自然を保つという本来の仕事を「美しい自然をより美しく保つ」という仕事に成長させた個体が、時間経過とともに現れるようになった。その者達は人族でいうところの庭師や芸術家のように働き、人族の言うところの絶景を長い年月をかけコツコツ造り上げていった。つまり観光地の目玉である絶景は、妖精達の気の遠くなるような時間と労力によって造られていたのである。

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