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それを見越し創造主が配慮してくれたのか縁のある土地の土地神は気の合うことが多く、そして縁のある土地の一つに「川の集水域」があるという。集水域は流域とも呼ばれるがそれだと意味が解り難いので集水域で説明すると、同じ川に雨が流れ込む地域となる。言い換えると「川が水を集める地域」だから、集水域ということ。この大河はこの星最大の大河なことに加えて蛇行を繰り返すため集水域は約1千万平方キロあり、これは地球最大の集水域を有するアマゾン川の四割増しに相当するそうだ(ちなみに1千万平方キロは日本の約26倍だね)。
ここまで広いと「気の合う者達の中でも特に気の合う者」が出てくるのは必然であり、そうして作られた集団の一つに「花畑会」がある。この大河の両岸には広大なお花畑が広がり、そのお花畑は妖精達にとっても好ましい場所とのこと。自然をこよなく愛するこの星の人々は商業用の花も慈しみ大切に育て、それが妖精達の高評価に繋がっているみたいなのだ。色とりどりの広大なお花畑に観光客が歓喜するのもまこと喜ばしく、それゆえ「空間を占める最も強い意識は、他の生物の意識に影響を及ぼす」が妖精に作用した。どういうことかと言うと、膨大な観光客の大多数は女性で歓喜が強いのも女性だったため、女性的な意識を持つ土地神が花畑会には多いそうなのである。かくしてその集団の一員である挨拶に来てくれた土地神も、
「プライベートでは私も、こうして女として過ごしているのです」
になったという訳。話の一区切りを迎え、「ああなるほど」と俺は相槌を打った。でもそれは、会話の流れとしてそうしたに過ぎない。本心は「解明されたのは半分がせいぜいかな?」といった具合だ。土地神はそれを機敏に察し、説明を再開してくれた。
妖精達にとって縁のある土地には、むろん超山脈もある。妖精族が聖地として崇めるオリュンポス山を中央に擁する超山脈は、全域が準聖地として崇められているそうだ。ただ白化組織の意向により、超山脈を担当する土地神や妖精は偉いなどと妖精達は決して考えないようにしているという。それは俺も完全同意だけど、だからといって影響皆無にならないのは人も妖精も変わらない。挨拶に来てくれた土地神は「代表を押し付けられることが多いんですよね」と、肩を落としていた。
その様子に今後の展開を予想して背筋が寒くなったのは脇に置き土地神によると、この大河の源流は、超山脈最大の天然のお花畑がある場所でもあるという。南半球に位置する超山脈で山肌を緑が覆っているのは第一山脈北麓しかなく、またその中央はオリュンポス山の神気を最も受けるため神々しい場所が多々あり、その一つがお花畑なのだそうだ。俺が土地神巡りで訪問したのは冬だったこともありお花畑の存在を知らなかったが、花がなく若干気落ちしている妖精達にお茶とお菓子を振る舞ったのは「たいへんありがたかったです」と、土地神に改めてお礼を言われた。「次は美雪の歌付きで訪問しますね」「私も一生懸命歌います」「ありがたさの極みです、心待ちにしています」 というやり取りを挟み、説明は続いた。
オリュンポス山の神気を受けて育ったお花畑のある場所を源流とする大河の両岸に広大なお花畑を人族が造ったことを、妖精族は非常に喜んだ。その花々を人族は慈しみ愛したため妖精族は益々喜び、そして観光に訪れる人族の女性が花の香りを纏っていたことが、妖精のみならず大河の集水域の大半に影響を及ぼした。集水域に降った雨が人と妖精と土地の影響を受け、極々微量だが花の香りを纏うようになったのである。極々微量ゆえそれを嗅覚で捉える人族は年に一人か二人しかおらず、けど俺は神話級の健康スキルに助けられ、その一人か二人に入ったらしい。それは置き、そんな人数ゆえ水が花の香りを纏うようになることは人族に知られていないが、この星の科学技術なら機械測定可能で、然るに美雪はそれを知識として知っていた。その知識が、大河の川下りを始めるや実体験にかわる。すると俺に内緒で某妖精頭が美雪を訪ね、こう請うたそうだ。
「その妖精頭はこう言ったの。『白銀王が花の香りを河に感じて話題にしたら、花の妖精長が挨拶に伺いたいと申しております。お許し願いますか?』 花の妖精長さんに前回お会いしたときは母さんがいた関係で性別のない公式の容姿をされていて、花の妖精長も俗称だったため使っていなかった。花の妖精長の噂は聞いていたからお会いしたかったけど、妖精達にとっては筆頭大聖者たる星母様のご降臨なのだから無理は言えなかった。それがこうしてバカンス初日の午前中に叶うなんて、夢のようだったの。翔なら花の香りを知覚できるって、私は知っていたから」
翔ありがとう~~と、美雪は俺の腕に額を当ててぐりぐりする。これは美雪が最大級に甘えているときの、お約束の所作。俺は三秒間だけ有頂天になり、美雪を抱きしめた。続いて二人で姿勢を正し、輝力製の座敷に座る花の妖精長に改めて挨拶した。甲板に八畳の座敷を輝力で造り、輝力製のお茶とお菓子を振る舞いつつ説明を聴いていたのである。お茶とお菓子を楽しみつつなので話はのんびりになり、でもそれが優雅な川下りに見事マッチして、俺達三人は穏やかかつ和やかな時間を共有していた。気候もうってつけの、4月のそれだったしさ。
ちなみにここは南半球だから、単純に考えると気候は日本の1月半ばに相当する。でも蛇行する大河が赤道に最も近づく場所を選んだことと無風の好天に恵まれたことの相乗効果により、うららかな春の見本のような日になっている。目覚めの春を迎えて動植物も元気いっぱいだし、良いこと尽くしだ。天候はひょっとすると、母さんが便宜を図ってくれたのかもしれない。バカンス復活を喜ぶ美雪に、母さんも頬をほころばせていたしね。
あと比較的最近知ってまことバカの極みなのだけど、美雪は姿を隠すことを強いられない限り、俺と二人っきりでいなくてもさほど悲しくないらしい。さほどというのは二人っきりの時間が少なくなると拗ねるのは避けられないからであり、けどそんなのはほぼ全てのカップルに当てはまるから、美雪が特別では決してないのである。ただ難しいのは、二人っきりの時間が少なくなるの「少なくなる」が人によって大きく異なることだろう。でも平行世界のハーレム俺ならいざ知らず、こっちの俺はその難しさの適用外。美雪と二人だけで過ごした時間をしっかり記録し、拗ねさせぬよう万全の注意を払うようにしていた。




