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「翔さん、よく見るとドングリが二種類あるんです。知っていたら教えてください」「いいよ。ドングリって、帽子を被っているみたいだよね」「はい、この可愛い部分ですよね」「そうそれ。小さい帽子はコナラ、大きい帽子はミズナラだ。コナラは火持ちが良く薪として好まれ、ミズナラは頑丈で香りが良いから家具やウイスキーの樽に使われる。それに加えてどちらも日本では」「どちらも日本では?」「さあ翼さん、あれが見えるかな?」
俺は翼さんの死角の左前方を指した。100メートルほど離れた場所に、長さ1メートルほどの原木が大量に立てかけられている。その途端、翼さんは全身を輝かせた。
「わっ、椎茸がたくさん! 次は椎茸なんですね、やった~~!!」
そう、翼さんが椎茸をニコニコ食べている様子なら、これまで無数に見てきたからさ。
二人で小走りになり、椎茸栽培の場所にやってきた。コナラやミズナラの原木一本につき見事な椎茸が10個ほど生えている光景に、翼さんは興奮しっぱなしだ。釈迦に説法だろうけど、一応説明する。
「美味しい椎茸を見分けるコツは三つ。傘が丸く肉厚で反り返っていないこと、軸が太く強固なこと、裏のヒダが白もしくは薄い黄色なこと、の三つだね。さあ翼さん、食べられるだけ収穫してください。そうそう言い忘れていたけど、次のテーブルには甘栗もあるからほどほどにね」「甘栗も大好きです、バンザ~~イ!!」
栗は俺も大好きだから今度は最初に収穫して、散策中に調理しておこう。などと次回の計画をワクワク立てつつ、美味しそうな椎茸を俺達は選んでいった。
輝力製の籠に椎茸をたっぷり入れ、テーブルを目指す。途中から甘栗を焼く匂いがしてきて、翼さんは我慢できなくなったらしい。「先に行って準備します!」と殊勝なことを言い、テーブルへ一目散に駆けて行った。ま、喜んでもらえるのが一番だね。
あのテーブルには炭火焼き器が内蔵されていて、炭に火をあらかじめ付けておいた。ならばこの作業をと、翼さんは椎茸の傘を濡れたキッチンペーパーで丁寧に拭き始めた。拭きながらヒダを凝視し、虫の有無も忘れず確認している。うん、言うことなしだ。よってその作業は翼さんに任せ、俺は俎板と包丁を輝力で創った。続いて塩と醤油とバターをテーブルに並べたところ、翼さんは椎茸の軸を包丁で切り離し始めた。その真剣な表情に、椎茸の炭火焼きをどれほど楽しみにしているかが窺え、自然と笑みが零れた。
軸を取り終えた翼さんは椎茸を裏返し、網の上に並べていく。次いで塩を一摘まみし、適量をヒダに振りかけていった。それが終ると、焼き上がりを待つことしか残されていない。大好物を待つことだけに時間を使わせるのはしのびなく、
「はいどうぞ」
もう一つの大好物の甘栗をてんこ盛りにした皿を、翼さんの手元に置いた。
それからしばし、対面に座る翼さんの満面の笑みを見続ける時間が続いた。甘栗も椎茸も、最高に美味しかったようだ。奮発した玉露も褒められたし、もてなしは及第点として良いだろう。俺は満足し、おもてなしの前半を終えたのだった。
翼さんは小食ではなく、かといって大食いでもないけど、今回はいささか食べ過ぎたらしい。テーブルで少し休みたいと恥ずかしげに言わせてしまう前に、俺から休憩を提案した。にこやかに了承され、たわいもない会話をする穏やかな時間がすぎていく。気温を調整しているので寒くないし、そろそろいいだろう。頃合いを計り、俺は切り出した。
「翼さん。ここ二カ月ほどの俺について、話していいかな?」
ここ二カ月間ほど、俺は翼さんに連絡を一切しなかった。母さんが先生を勤める歌の授業の受講を含む準四次元会合にも、一度も出席していない。そして翼さんは、「その二カ月間は自分の掛けた電話から始まった」と考えているに違いないのだ。今回ほどあからさまではないが以前も似たようなことがあり、あのときは冴子ちゃんに睨みつけられたけど、そういえば今回はそんなこと無かったな。まあ冴子ちゃんからの連絡自体が、なかったけどね。それはいいとして俺の申し出に翼さんは、
「もちろん構いませんが・・・」
と了承しつつも途中で言葉を切り、俺の顔をまじまじ見つめた。仮に翼さんが俺の心の中を見渡そうとしているのなら「ヒエエッ」とのけ反ったけど、その気配はない。ただ見渡そうとしていないのに筒抜けになっている気がしきりとして、でもそれは99.99%以上俺の自業自得だから、俺はされるがままにしていた。その最中ふと、空飛ぶ絨毯に乗る前に感じた「女は強しなのか、俺が弱しなのか、それとも強弱ではないのか?」の答を得られる予感がしたのは、なぜなのだろう? しかしたとえ何があろうと、99.99%以上俺の自業自得なのは確実。俺は俎板の上の鯉になった心づもりで、翼さんのまじまじ見つめを受け入れていた。そして遂に、翼さんが口を開く。
「翔さんは、私に負い目がありますよね」「はい、このコロニーに負けないほど大きな負い目があります」「まったく、そんなもの感じなくていいと言葉を尽くして説明しても聞く耳持たないでしょうから、負い目があるなら、翔さんより先に話す権利を私にくださいませんか?」「もちろんです、どうぞお先に!」「ふふふ、ありがとうございます」




