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ビブリオテイカ/零葉の錬金術師  作者: 浦早那岐
ディケル・ソロウ2
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じゃあ、またな

 プルディエールは遠くを見つめて言う。

 始めから完全な一つのものとして自分を見られなかったが故に、わたしは融合というものに何ら抵抗がなかったのだろう。

 そろそろ戻るがいい。リベルは早めに復元するのだぞ。


 ああ、わかった。オレは言った。とはいえ、死ぬために引き戻すのはためらわれる。

 なあ、プル。オレは呼びかける。早めと言っても復元も簡単じゃない。呪印だってある。そうすぐってわけにはいかないかも……


 弱気になるな、ディケルよ。背布も呪印も、要は人なのだ。わたしの場合、混ざって新たな環が形成され一つの意識になってはいるが、それは色の違う砂粒を混ぜ合わせ、離れて見ているようなものだ。間近で見れば、それは色の違う砂粒。

 同じように呪印の力でリベルの表層と混合しているようでも、依然として境目はある。ただ騙されているだけだ。人と人は混ざり合わない。人はやはり一塊なのだ。

 そして矛盾するようだが、砂粒の混合であるわたしもやはり一つの塊。それは背皮と呪印の混合とは違う。前者は意味の結合がなされている。後者の場合、それはない。

 それにわたしの混合はわたしにしかわからない。砂粒の混合を間近で見られるのはわたしだけなのだ。わたし以外の誰にとってもわたしは一塊なのだよ。

 ディケルよ。人の意識を探れ。呪印と背皮を分離するのは人の意識の境界だ。


 わかった。期待に添えるよう頑張ってみるよ。だからおまえも一つ頼まれてくれるか?


 この期に及んで何かあるのか?


 リベルの刻を止めてほしい。まだ生きていて欲しいんだ。オレは言った。


 プルディエールは困惑したように微苦笑したように思う。オレの意図を測りかねているようだ。


 復元はする。オレは言った。ただ、タイミングはオレに任せてほしいんだ。それにあいつのこともある。ダーシアンだ。あいつともケリをつけなくちゃならない。


 プルディエールは驚いたように目を見張った。まさかあの子のことを考えているとはな。しかしなぜだ?わたしが死ねばそこでケリがつくではないか。


 プルディエールはダーシアンのことをあの子と言った。やはりあいつの知らないところで死なせるわけにはいかない。ダーシアンが大切に想っている人間をオレは知らないが、あいつはここにもその部分があると考えている。そしておそらくそれは間違っていない。望みを持っているうちは、それがどんなに細い糸でも、人は折れずにすむが、望みが絶たれたとなればどういう挙に出るか予想がつかない。それに、なによりオレもあいつの気持ちはわかる。


 とにかくオレに一任してくれないか。オレは頭を下げた。


 プルディエールはすぐに首肯した。わかった。ダーシュを頼む。


 オレは同期を解こうとして一つ了承を得ておくほうがいいと考え、訊いた。ヴェルメラは知っているよな。あいつにおまえを持ってくるよう言われたんだが……特に問題はないよな。


 プルディエールは眉をひそめる。ヴェルメラ……ああ、いつかのわたしの片割れか。まだ生きておるのか。


 オレはヴェルメラと会ったときの状況を話した。


 なるほど影化でのぅ……構いはせんが、あの者はわたしを復元し、再度融合して以前の姿を取り戻そうとするやもしれんの。まあ、それも一興だが。しかしわたしの状況を話してはおるのだろう?毒を承知で融合するかはわからぬな。どちらでもいいぞ。おまえに任せる。なんだ、その顔は。一任してくれと言うたではないか。


 そうだな。わかった。オレは微苦笑して言った。


 さて、それでは眠りにつくとしよう。会えて嬉しかったぞ、ディケル。


 オレもだよ。じゃあ、またな。


 プルディエールは初めて会ったときと同じ、少女の顔で微笑んだ。

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