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ビブリオテイカ/零葉の錬金術師  作者: 浦早那岐
日和田潤
21/117

ライセンス

 それからすぐ、ヒソクは頻繁に顔を出すようになった。

「マスター、まだ見えないんですか」

 日和田が黙っていると、すっかり常連顔が板についたヒソクは一人で話を進める。「だから女の子ですよぉ、わたしみたいなかわいいコです。ホントは見えてるんでしょ?教えてくださいよ、悪いようにはしませんからぁ」

「何の勧誘だよ。悪いようにしないっつうヤツが一番信用できないんだよ」

 信用はできないが、ヒソクが日和田など比較にならないほど刺青人皮に通じていることはわかってきた。しかしなぜ日和田の刺青のことを知っていたのか、いまだに口を滑らせない。

 日和田も背中の刺青ついて黙秘し続けているだけに、問い質すことができないのが歯痒い。

「それにしても閑古鳥が鳴いてますねぇ、経営大丈夫なんですか?」

「大きなお世話だよ。だいたいおまえがいる時間が早過ぎるんだ。これでも赤字にはなってないんだよ」

「マスター、そういうこと言ってると赤字になるんですよ。大手チェーンだって、一店舗は十年もすれば売上落ちてくんですから。テコ入れしましょ、テコ入れ」

「テコ入れってもなぁ、簡単に言ってくれるけど」

「いい仕事紹介しますよ。いいコンサルも。しかもタダ。無料、フリーコンサル」

「詐欺だろ、それ。しかも別の仕事かよ。それはテコ入れじゃないだろ」

「まあまあ、一回会ってくださいよ。いいお客さんになるかもしれませんし」


 数日後、ヒソクは件のコンサルタントを連れてきた。午後九時を過ぎており、他にも客がいたのでこの日は顔つなぎだけで終わった。

 コンサルタントは中東の中古車ディーラーのような初老の男で、名はアスワド。浅黒い肌に黒縁の眼鏡をかけていた。刺青持ちに加えて彫る側でもあると言った。注文したのは置いているのを忘れかけていたような蒸溜所の十五年もの。確かにいい顧客にはなりそうだった。

 日を改めて、今度は早めの時間に来店したアスワドから、仕事が稀覯本の鑑定であり、その本が一部の特殊なものであること、それは刺青とも深く関わっていることなどを聞いて、日和田も興味を持った。彼自身の身体のことなのに、背中の刺青についてほとんど何も知らないままだったからだ。

「刺青が入った皮膚のことを、関係者は背皮と呼んでいる。マスターの背中のものがそうだ。剥がされたものは背布といって、リベルという本の表装に使われることが多い」

 人皮装丁の本が存在することをそのとき初めて知った。しかしリベルとは、ネットで検索して出てくるそうした書とは違うものらしい。

 リベルとは、その表装になった皮膚の持ち主の人生を追体験できるものだとアスワドは言った。しかしながら誰にでも可能というわけではなく、特別な能力とそれを伸ばす修練が必要らしい。

 残念ながら日和田に読むことはできないだろうと言われ、またその通りだった。基本ができていないというよりは、基本すらないからだ。話は半信半疑だったが、好奇心も手伝って、日和田はアスワドから基本を教わることに同意した。

「仕事に必要な資格とかあるんですかね」

「あるよ。リベル鑑定士の資格だ」

 アスワドはカウンター越しに日和田を見据える。「リベル鑑定士は基本的に民間ライセンスだ。発行している団体は幾つかあるが、マスターには大手の一つ、ビブリオテイカの発行するライセンスゲットを目指してもらおうと思っているんだが……」ふとアスワドの口元が綻ぶ。「いずれにせよ、まずは訓練だ。楽じゃないぞ」

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