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失踪した従姉妹の黒歴史異世界小説を読んでみて。

これラストです。

 話を読み終え、私はそっとノートを机に置く。 


 異世界の旅々ノート2の『お姫様と仲良くなった話』という題名の話を読んで私、()()()()が最初に呟いた言葉というと。


「えぇ……なにこれぇ……」


 という、疑問と戸惑いと共感性羞恥心の混じった感想だった。


 そこには、ゆり子ちゃんが考えて書いたであろう異世界の物語が、まるで日記の如く記述されていた。いたのだが。


「ハァ……」


 私は何という黒歴史を読んでしまったんだろう。まさかゆり子ちゃんがこんな異世界モノの小説を書いていたとは。

 いや、まぁ、うん。とりあえず話の内容とかに色々とツッコミたい事があるが、まず一つ言わせてもらいたいところは、だ。


「…………自分を主人公にしてるの、これ?」


 うーん、これはとんだ黒歴史だ。自分の欲望や願望を小説で書くというのはよくある話だが、まさか自分を自作小説の主人公にするだなんて。

 あぁーあぁー、これは恥ずかしいぞ。最強な自分が、悪い勇者を暴力でコテンパンに懲らしめて、しかも一国のお姫様を自分に惚れさせてるじゃないか。これはこれは、とんでもない。とんでもなくチンケな黒歴史だこれは。


 いや、いやいや待て待て、まだこれがゆり子ちゃんの願望を書き連ねたものとは断定するには早い。いくら自分を小説に出したからって、これがゆり子ちゃんの妄想と決めつけるのはゆり子ちゃんに失礼というものである。

 もしかしたら、これは本当にゆり子ちゃんが体験した事で、本当に異世界を旅して、本当にお姫様に惚れられて…………。


「…………いや、無いわ。どう考えてもゆり子ちゃんの願望だわこれ」


 ダメだ、ごめんゆり子ちゃん。どう理由を考えてもアナタのこの自作小説を黒歴史じゃないって否定できそうにない。

 うん、これは黒歴史だ。完全にそうだ。何度だって言える、これはゆり子の黒歴史異世界小説だ。


「ハァぁぁぁ…………」


 深く、そして長いため息を吐いてから、私はテーブルに置いておいた、異世界の旅々ノートの"3"と"4"に目をやる。


 ハァ、こんな黒歴史が3冊もあるだなんて。本当にゆり子は熱心に書いたんだなぁ。


 そんな感じで、私はこのノートを読んで少し戸惑いを隠しきれなかった。そして、少し頭を悩ませた。


「うーん。これ……どうしよう……」


 こんな黒歴史を題材にして、異世界モノのラノベを書くなんて、ゆり子ちゃんに面目ない気もする。とゆうか、流石にこんな内容で編集の小娘や編集長が納得するとは思えない。

 やっぱりこれはゆり子の尊厳と自尊心の為、私が物置にでも厳重に保管するか。さてさて、それじゃあ気を取り直して、段ボールの中の異世界ラノベを読むとするかなぁ…………。


 ――ピピピピッ、ピピピピッ。


 そんな事を考えていると、突然テーブルに置いておいた携帯が鳴った。画面を見てみると、あの編集の小娘からの電話だった。

 取り敢えず、すぐに私は電話に出る。


「もしもしキリヤマです」

『あ、キリヤマ先生!天城です!いま電話大丈夫ですか?』

「問題ないけど…………って、そうだそうだ。さっきの話なんだけど。流石に異世界モノを書くなんて出来…………」

『あっ、それですそれです!異世界モノについてなんですけども』

「……?」


 私の話を遮るように異世界モノという単語に反応した小娘は、陽気な軽〜い感じでこう言った。



『アレだけですからね!つまらない異世界モノじゃダメですからね!!そんなもの書いてきた日には、私、()()()()()()()()()()()!!』



 ……………………は、はいぃ?『ゆ、る、し、ま、せ、ん、か、ら、ね』だぁ?



『まっ、ベストセラーばんばん出してるキリヤマ先生なら問題ないと思いますけどね!それじゃあ、これで失礼します!あっ、原稿楽しみにしてまーす!』

「えっ、まっ、待って天城さん」


 と、最後にお世辞を言うのを忘れずに通話を終えようとする小娘に、先程と同じように「待った」をかける。


『はい、どうしました?』

「……えーと、それだけ?」

『ん?"それだけ"とは?』

「いや、いやいや。要件はそれだけなの?他に何かあるんじゃないの?」

『無いですよ!これだけです!それじゃあ、私も忙しいので!』

「えっ、ちょっ…………」


 ―― プツリっ。ツー、ツー、ツー、ツー。


 私が話そうとしているのにも関わらず、またしても小娘は通話を切りやがった。


「忙しいなら電話するなよ……」


 そう呟いて、ベットに携帯を投げ捨ててからソファーを立つ。

 あの小娘、これだけの為に電話しやがって。しかも何、許さない?駄作を作ったら許さない?

 へー、なかなかどうして、言ってくれるじゃないの。


「そっちがその気なら……」


 私はテーブルに置いていた異世界の旅々ノートの"2"を手に取り、いつも小説の作業をしている隣の部屋へと向かう。

 そしていつものように作業用のデスクに座り、パソコンを立ち上げる。


 …………さっきの電話で、もう私は怒った。あの小生意気な編集の小娘にも、そして何より純文学作家の私が異世界モノを書くのにOK出した編集長にもだ。


 だから、少しアイツらに嫌がらせをしてやろうと考えた。どういう事をやるかというと、簡単だ。

 今読んだ異世界の旅々ノート2の内容をパクって提出してやろうと思う。


 だって私はラノベ作家ではないんだ。どう考えても異世界モノなんて書けないと思う。なら、せめて私が敢えてこのチンケな小説を書いて、それをわざわざ読む編集長と小娘をからかってやろう。そう考えたのだ。


 それに、別に真面目に書かなくてもいいじゃないか。元はと言えばアッチが勝手に決めた事だし、私は今、3本の書籍シリーズを連載してもいるんだ。4本目何て体力的に無理だし、採用されないようにおふざけで書いてやればいいじゃないか。


 あぁあぁそうだ、これはおふざけだ。そして編集者たちへの抵抗と嫌がらせだ。ふんっ、なぁにが『絶対に許しませんからね』だ。こっちの台詞だっての。


 よ〜し、ゆり子ちゃんが勇者をコテンパンにして鬱憤を晴らすのなら、私は執筆で鬱憤を晴らす。そういうことだから、嫌がらせで書いてやろう。


「ふふふふふふふっ。あの小娘と編集長の困り顔が目に浮かんでくるわ」


 一応ベストセラー作家の私がこんな小説を書いてきた事で、2人は困惑するであろうなぁ。


 そして私は今回読んだ『お姫様と仲良くなった話』の内容を参考に、自分がこれまで書いてきた中で一番酷いと思えるぐらいの異世界小説を一晩で書き上げ、編集の小娘に提出するのだった。




 ☆☆☆☆☆



 ――3日後



『大好評ですよキリヤマ先生、例の新作!』

「えぇ………………」


 ……書いた異世界モノのウケがかなり良い事を小娘が電話で伝えてきた。


『いや〜、流石はベストセラー作家!純文学だけじゃなくって、異世界モノのラノベだって書けちゃうんですね!』

「えっ、ねぇ、嘘でしょ?そんなにウケ良いの?」

『はい!もう編集部で話題ですよ!いやホント、やっぱりキリヤマ先生は凄いなぁ!』

「……………………」


 この事実に言葉を失う。まさか、まさかあんな内容の話が好評だなんて…………。

 異世界モノだから?異世界モノだから、こんなに評価良いの?私が書いたモノがこれなら、世に出回ってる異世界モノはどんだけ凄いのよ。


 いや、可笑しい。これはどう考えても可笑しい。あんなのが評判な訳ない。どういう事なんだこれは…………。


『これはキリヤマ先生。当然書籍化しますよね?当たり前ですよねぇ!!』

「…………へ、へっ!?しょ、書籍化!?」


 小娘の発言に今度は耳を疑う。う、嘘でしょ、冗談じゃないわよ。書籍化するのコレ?マズい、それは流石にマズい。従姉妹の黒歴史が世に出回るのはマズい。全力で止めなければ。


「あ、天城さん。ちょーと考え直して。ホントに、本っ当にあの小説は書籍化するような内容だったかしら?」

『え、いやいや!何言ってるんですか!当然でしょ!アレは書籍にした方が絶対良いに決まってます!編集長だって納得してるんですから!』

「い、いやでも流石に……」

『まっ、とゆうわけで!これからも執筆がんばってくださいね。キリヤマせーんせっ!』

「えっ、いや、ちょっ、まっ、待って!書籍化はマズ……っ!」


 ―― プツリっ。ツー、ツー、ツー、ツー。


 またしても、小娘は当然の如く私の話を最後まで聞かずに通話を切った。


「嘘でしょ……」


 とゆうことで、そういうことで。私が嫌がらせで書いた小説…………もとい、従姉妹の黒歴史である『異世界の旅々ノート』は書籍化することとなったのだった。





 ☆☆☆☆☆





 某県、どこにでもあるような、さびれたちっぽけな公園。

 夕暮れ時でもう人はいない、そんな場所の公衆トイレの中からピカリと凄まじい閃光を放つと共に、テクテクと一人の少女が出てきた。


「ふぅ、今回の異世界も中々面白かったなぁ。まさか転移した先が『タイムマシンがある異世界』だったとはねぇ」


 そんな事を呟きながら、ゆり子は公園を出て家族が待っている我が家へと帰路を歩く。


「しっかし、まさか旅先の異世界を時間旅行が出来るとは。未来に行ったり過去に行ったり………………これはまた"日記"を付けるのが大変だ」


 帰り道、繁華街を歩きながらそんな事を呟いていると、ふとあるポスターが目に入る。それはよくゆり子が学校帰りに立ち寄る本屋で、店のガラス扉に貼ってあった。

 ポスターには可愛らしいタッチで描かれたアニメキャラクターと共に、


『あのキリヤマ・カオルコ原作のライトノベル、【異世界旅行娘"ユーリコ"】7月よりアニメ化決定……!!』


 と大々的な謳い文句が書かれてあった。


(へー、そうなんだ。聞かない名前だけど面白いのかな?)


 そう思いながらゆり子は再び歩き出し、スマホでポスターのアニメについて検索しようとする。が、ゆり子はスマホの画面を見て、ピタッと立ち止まった。


「…………何、これ」


 …………自分宛に大量のメールが届いていることに気づいた。その数は余裕に3桁は超えている。これにはゆり子も驚いたが、しかしもっと驚いたのはそのメール達の内容だった。

 送り主は家族を初めてクラスメイトからバイト先の人達まで、全員『どこにいるの?』だとか、『早く帰ってきて』だとか、ゆり子の安否を心配するような内容を送っていた。


「えっ、なになになに…………マジでなんなのこれ??」


 あからさまにテンパるゆり子。どれもこれも『自分が失踪でもしているか』と思わせるメールの数々…………。

 そんな中、一番最後に来ていたメールにはこう書かれていた。送り主は母だった。


『ゆり子へ。


 貴方が失踪してから、もう四年が経ちます。お母さんやお父さん、妹の渚は今でも貴方が無事でいる事を願いながら、一生懸命に生活しています。


 そういえば一年ぐらい前に、貴方の部屋にあった本を、いくつか従姉妹の薫子ちゃんにあげました。貴方、「本が増えすぎて本棚に収納出来ない!」困っていたし、小説家として頑張っている薫子ちゃんに使われる方が良いのでは思います。薫子ちゃんの小説も今度アニメになるみたいだし、ゆり子もきっと喜ぶわよね?

 なんだか、ノート的な物もあったけど、アレもラノベなの?お母さんラノベってよく分からないから、それも薫子ちゃんに送ってしまいました。もし違ったらごめんなさいね?


 あぁ、またゆり子の顔が見れる日を心から待っています。

                      

                      母より。』



「失踪してから四年って、それってつまり…………」


 ここからゆり子が恐る恐るスマホを確認して、自分が3年後の未来へ帰ってきた事を知り、驚愕する事については、読者の想像に苦しくないだろう。

 ――――そしてそこからゆり子が我が家に帰り、家族に抱きつかれ大喜びされた後、自分の『異世界の旅々ノート』が書籍化、アニメ化され、更に驚愕することも想像に苦しくない筈である。

最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます。

この作品は執筆活動において練習用の作品ですので、ぜひぜひ酷評や批評、改善点などをコメントしてもらえると嬉しいです。

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