その20
目が覚めたあとも、せりかはしばらくベッドから起き上がれずにうずくまっていました。あと少しで、もしかしたら殺されていたかもしれなかったと思うと、今更ながら、からだががたがたとふるえだします。
――でも、りりあさんはどうなったんだろう、たましいが消滅したんじゃなかったの? それに、彩乃さんは大丈夫だったのかな? あの、アーヤって人に、からだをのっとられたんじゃ――
せりかはぎゅっと、ひざをかかえて抱きしめました。リリアンナの高笑いする顔が、不意に頭によみがえってきます。せりかは首をふりました。
「とにかく、彩乃さんが無事か確かめないと」
幽体離脱していたときには、すぐ近くに思えたのですが、実際歩いて行くとなると、彩乃の住むマンションまで、かなりの距離があるのでした。川沿いの道をかけ足で進んでいき、ようやく彩乃のマンションに入ります。エレベーターがいつもよりもゆっくりに感じて、せりかはもどかしそうに足ぶみします。
「彩乃さん!」
インターフォンを押すと、すぐにドアが開きました。
「せりか! 大変なの、とにかく入って」
「よかった、あのアーヤって人に、からだをのっとられたんじゃないかって、心配してたの」
「わたしは大丈夫だけど、とにかく入って」
ぐいっと手をつかまれて、せりかは部屋の中へ引っぱりこまれました。ドアにカギをかけると、彩乃はドアスコープから外を見ました。
「どうしたの?」
「せりか、あいつに、リリアンナに会わなかった?」
「えっ?」
ドアスコープから目を離すと、彩乃は無言でせりかを寝室へと連れていきました。
「あっ、りりあさんが」
幽体離脱したときは、確かに彩乃の姉のりりあがベッドに眠っていたはずです。そのベッドが空になっています。
「どうして?」
「わたしもわからないわ。とにかく、わたしが目を覚ましたときには、すでにお姉ちゃんのからだはなかったの。もともとお姉ちゃんとリリアンナは、同じ肉体を共有していた。わたしとアーヤもそうよ。だから、お姉ちゃんのたましいがなくなった今は、リリアンナがあのからだの主になっているのかも」
「そんな、じゃあどうすれば」
「とにかくまずは、リリアンナを探さないと、どうにもならないわね。ドリーミアンの次元だから、精神世界の中みたいに自由自在にはできないと思うけど、それでもあいつらにはドリーミアンから得たエネルギーがあるわ」
「でも、いったいどうやってエネルギーを貯めたりしているの?」
「せりかのクレと同じシステムよ。ただ、エネルギーがたまるのがクレじゃなくて、お姉ちゃんのからだだってだけ」
せりかは目をまるくしました。
「じゃあ、そのエネルギーを開放したら、夢の中と同じように」
「力を使うことができるでしょうね。あいつらは、それを使ってドリーミアンの次元を侵略しようと考えていたの。最終的には、全てのリアリアンが、夢の力を得てこの次元にやってくるはずよ。それがあの女の計画なの」
「どうしよう、早くとめないと!」
せりかの言葉に、彩乃の表情が暗くなりました。
「でも、居場所がわからないわ。たぶんどこかに隠れて、時を待っているんだと思う。でも、夢の中と違って現実世界じゃ、わたしたちはナビゲーターも出せないし」
「じゃあ、どうすれば」
ピリリリと、甲高い音が鳴ったので、せりかがびくっとしました。着信音のようです。彩乃もとまどいながら、ベッドの枕元においてあったスマホを取ります。
「あっ、勇樹さんからだわ!」
「勇樹さんって、夢の中で会った、あの男の人?」
「うん。とにかく出てみるね」
彩乃はスマホの画面にタッチしました。聞き覚えのある声がします。
「彩乃ちゃんか? おれだ、勇樹だ! すぐにテレビをつけてくれ」
彩乃はせりかの手を取って、自分の部屋へ連れていき、テレビをつけました。おなじみのニュースキャスターが、ガラス張りの建物の前に立っています。
「本日早朝にテロリストによって占拠された首相官邸内には、人質として職員たちが拘束されたままとなっています。テロリストグループの国籍や人数は不明で、現在自衛隊が突入作戦を検討しているとのことです」
「なにこれ? テロが起きたの?」
「チャンネルを変えてみてくれ。テロリストが声明を発表している動画があるはずだ」
いわれるままに、彩乃はリモコンを押していきます。そのうち、マイクに向かって女性が話している映像が映りました。
「あっ、リリアンナ!」
本日1/28の投稿はこれで終了となります。その21から、最終話であるその25までは、明日投稿する予定です。17時台から一時間ごとに投稿する予定です。
明日もどうぞお楽しみに♪




