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百合は眺めるものじゃないんですか? ~NTRダメ絶対な世界で×××の才能に目覚めた私がNTRっちゃうわけにはいかない!~  作者: ヱ川陸
第2章 普通の姉妹じゃなくなった話。

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第29話 回想:『破壊の惨劇』 <眼鏡視点>


 私は下十条さん、正確には下十条ユリという人間をよく見つめている。



 最初に”その子”を認識したのは小学一年生で同じクラスになってから、よく笑う子・そしてクラスの中でもトップクラスに可愛い子・美少女という認識ぐらいだった。


 あんまり似ていないけど、将来すごい美人になりそうなこれまた美少女なお姉さんがいて、更に姉似でまた美少女な妹がいることも後で分かった。


 小学校に入って・入学式から一ヵ月ほど経ってからその子を中心に変化があった。


 まずはその子の口調が少しお嬢様風? 高飛車風? 傲岸不遜っぽい喋り方になり、そして今までの小学生標準的私服から闇色のドレスを着るようになった。


 それだけなら一人のクラスメイトがお嬢様趣味に目覚めてコスプレ的なことをやりだしただけだったかもしれない。



 ただその子は…………ものすごく人を褒める。



 趣味も特技も容姿も、何かしらいいところ・秀でたところ・オンリーワンなところを探し出しては褒める。


 トップクラスの美少女で傲岸不遜風な喋り方なのに内容は相手をひたすら褒めちぎるのだから、それはもう相手としたらたまったものじゃない。


 この世界では思惑あって褒める・思ってもいないことを言えばシステム上は悪意判定とみなされる可能性がかなり高く、つまりはその褒めムーブは本音から出ている可能性もまた高くなるわけで。


 案の定クラスメイトの多くがその子に陥落していった、悪意や敵意こそなくとも好ましくは思っていなかった人でさえ堕ちる。


 人たらしの才能だけなのか、それとも別の何かが働いていたのか、正直今になってもわからない。


 私は最近変えた眼鏡を誰よりも早くに気づいて・そして『お眼鏡を変えたのですね? 理知的さを醸し出しながらも可愛らしさも兼ね備えていて、綺麗なオニキス色の瞳がよく見えてとてもよくお似合いですわ』と褒められて危うく落ちかけた。


 よく考えたらその子は小学二年生の頃でよくもそこまでの語彙力があったものだと思う、実は”回帰”した (容姿年齢をボディメンテなどで下げた大人などを指す) 人じゃないかという噂もあったけど、証明し・開示した自身の年齢は私たちと同じだった。



 その子は自分を『悪役令嬢を目指していてよ』と言っていたけど、次第に増えるファン・配下・信奉者……などから”女王”のようなポジションになっていき、そしてその子はいつしかこの小学校の名前を冠した”西茜の女王”と、そして配下とされた周囲の人物は”クイーンリリィガード”などと呼ばれたとか呼ばれなかったとか。


 その子はあらゆることにも寛容で、例えばとある獣人の子が『あなたに褒められた毛並み、是非あなたの下に敷いてもらいたいのです!!』一見猟奇的な提案、ようは椅子にしてほしかったらしい…………そういう性癖の人もいるよね、でその子は『構いませんわよ』と受け入れる。



 かくして四つん這いになった獣人の女子を椅子にして座る、踏んでほしいと逝ったMっ気のある女子を足置きにする、後ろで髪を嗅いでいたいという女子数人が後ろに控える、いよいよ女王ムーブをする下十条さんが誕生した。



 今の世界で”それが”できるのはお互いの同意がある為で、そして座られている・踏まれているその女子達も小学生女子がしていいかわからない表情で明らかに喜んで・悦んでいるので”いじめ”とは誰からも認識されないし。


 そして配下の一人のタイムキーパーによって厳密に休み時間内のみ、それらの一連の流れは行われるので授業風景はいたって普通でその時は全員が小学生相応の生徒に戻っていた。



 ちなみに私や、その子の幼馴染数人は”配下のよう”にはならなかった。


 私は委員長として中立でいようと思ったし、配下落ちしかけたし正直ちょっと羨ましくはあったけど、遠目に見るのが私の性には合っていた。


 蒲田さんや大船さんのような幼稚園からの幼馴染たちとは、お嬢様喋りこそそのままに・幼馴染側は普通に友達として接しているので噛み合ってはいない、けれど会話は成り立っているしその関係性は強かった。


 一方で女王の配下たちの女王への熱は加速、好むもの・好意を抱くもの・そしてガチ恋勢などが大量生産され・それでも不和とならないようにその子の前ではそれを全員が隠し通していた。



 そんな女王と配下と幼馴染と一部普通に接するクラスメイトで推移し続けた、あるタイミングで”それ”は起こる。


 

 のちに『破壊の惨劇』とも呼ばれた事件……嘘です、私が勝手にそう名付けただけですが。


 それは女王の配下だけでなくクラスメイトの多くが入っているスマホなどの端末に入ったメッセンジャーアプリのグループ内にて、いつも通り会話が行われている中に投下された”ある画像”だった。



『下十条さんと美男子のツーショット! これは推せる!』



 それは明らかに盗撮であり、実際にその写真は盗撮判定されたことで今はアプリ側から削除されている。


 そこには──直近と思しき容姿の下十条さんと、同い年ぐらいの若い男子 (?) とのツーショットにして…………下十条さん側からその若い男子に頬にキスをする決定的写真だった。


 女王の配下……ファンであり信奉者であり恋する人物であったその子に、好きな人がいる・それも頬チュー場面などを切り取られていればどう思うかどうか。


 裏切られたかと思うかどうか、否だった。



 脳破壊。


 

 誰も裏切られたとは思わなかった。


 そしてこんなに美少女なのだから彼氏の一人もいるだろうというのも、誰も彼も”あえて”思考から外していただけであって十二分に考えられることだった。


 ただ受け入れられない・拒絶反応・現実逃避・そして心身の不調を来すほど……配下とされていた者たちの脳は尽く粉々に破壊された。


 意中・信奉・好意を抱いていた人間に彼(・)氏(・)がいるということに配下のほぼ全員が強い精神的ショックを受けた。


 

 そしてこの世界では、正確にはこの国は”NTR”の類を許さない。



 この場合は”ボクの方が好きだったのに”ことBSSか”私の方が好きだったのに”かWSS、実際には相手が先かもしれないのでなんとも言えないのはこの際置いておくとしても。


 そしてその”NTR”判定は正確無比で、本人が”寝取られた”と思った・近しいことを考えるに至るだけでクロとなる。


 ただこの場合は”寝取った”ことになるのかどうか、その当事者である”寝取られた”とされるかもしれないその子がそう判定されるのか。


 実際その二人は配下への悪意を持って”NTR”をしたことにはならなかったし、あくまで周囲の人間がそう思っただけならばどうなるのか。



 な(・)か(・)っ(・)た(・)こ(・)と(・)に(・)す(・)る(・)。



 NTRをなかったことにする、”寝取られた”と思い込んだことを・配下たちの気持ち・発想を・思考をなかったことにするのがこの世界のアンサーだった。


 それはその子に配下の子達が抱いていた愛情も・恋情も・熱情もまるごとなかったことにした。


 そうして出来上がったのは『何(・)故(・)か(・)最(・)近(・)ま(・)で(・)一(・)緒(・)に(・)い(・)た(・)気(・)が(・)す(・)る(・)ク(・)ラ(・)ス(・)メ(・)イ(・)ト(・)の(・)子(・)』という残り滓の認識だけが残る元配下たちだった。


 そこには友情も恋愛感情もない、結果的に他人でしかない元配下たちがその子……下十条さんからやんわり離れていくのは不可避だった。


 

 ちなみに私は”脳破壊”されなかったし幼馴染の数人も対象外だった、私も正直心に来たと言えばウソになる……けど、私が現物を見る前に画像は消されてしまったし、何かしらの違和感があった。


 まずそのツーショットの写真が合成かも疑うし、そもそも誰がどんな意図で上げたものなのか。


 そしてそのツーショットを上げたアカウント・ユーザーはそのあと退会している、処分を受けたのか・自ら退会したかも謎だった。


 この世界では悪意は成り立たない、貶めようとして・グループの不和を誘おうとしての行動は投稿・メッセージ送信などの類でもできないように出来ている。



 ならばその写真の持ち主は悪(・)意(・)な(・)く(・)、残っていたメッセージ文からして”単にいい写真が撮れたから見せた”だけの可能性も捨てきれなくなってくる。



 ちなみにその写真をこっそりスクリーンショット保存していた蒲田さんが、のちに下十条さんの姉にその写真の真実を問い合わせたところで衝撃の事実が発覚する。



『その人はひいおじいちゃんね』



 確かにこの世界で”回帰”する人は珍しくない、それはもちろん親族の類であっても。


 だから誰もその想像をせずに、その画像と文章の先入観から同い年の男子で彼氏の類だと断定してしまっていた。


 あくまでも曾祖父に曾孫が頬チューをするという微笑ましいはずの構図が、その惨劇を引き起こしたというのが一連の結末だった。


 しかし一度”NTR”判定されて”なかったことにされた”元配下の感情が遡及して戻るわけでもなく、この真実を教えたところで「そうなんだー」という他人事しか返ってこなかった。


 ただそれでも私は知っている。


 魂に刻まれたその多くの感情が完全・完膚なきまでに消えることはなかったのか、それからも元配下の子たちは時折その子のことを”理(・)由(・)も(・)分(・)か(・)ら(・)ず(・)目(・)で(・)追(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)”ことを。


 

 それから下十条さんは悪役令嬢……女王ムーブを辞め、そして中学校に入ってから一ヵ月ほどして今度は中二病に目覚めることとなる。


 オルタナティブ・リリィ、そんな彼女もまた多くの人を巻き込み・そして幸せにして・好かれていく、そしてまた──『惨劇』をその子は知らずに起こしていたとは露知らなかった。


 そしてまたその子から人が離れていくキッカケが人(・)為(・)的(・)だ(・)っ(・)た(・)か(・)も(・)し(・)れ(・)な(・)い(・)ことを、私は今も疑いの目を持って考えている。



 

 それからまた数年、高校二年生となりすっかりモブ女子に溶け込むムーブ (でも美少女が隠しきれていない) で女子カップルなどを眺めることがライフワークになったという下十条さんが、”破壊”され・”消された”はずの元配下たちの多くの感情を呼び覚まし、そしてカオスを呼び込むこととなる。



 というかなにあのエ(・)ロ(・)い(・)下(・)十(・)条(・)さん、いきなりどういうこと……!?


 イメチェンってレベルじゃない!


 

 ────私は下十条さんとずっと同じクラスメイト、??の会ではハンドルネームは<眼鏡>で、よく学級委員長をやってるだけの普通の女子。


 私は下十条さんをずっと見つめて・見守って────眺めている。

<カクヨムでも連載中>

貴重な第三者視点、NTR禁止法は徹底しています。

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