第25話 ユリは私の妹 <スズラン視点>
とある日、風紀委員と生徒会合同でやっている登校時間帯の校門前挨拶に私は参加しないことになった。
思ったよりも風紀委員側から校門前に立つ人数が確保出来たというのが理由らしく、それで私は休みになったみたい。
そうなると授業が始まるまで時間があるので、私は生徒会室で生徒会役員の雑務などをすることに。
そうして生徒会室での作業を終える頃、挨拶終わりに生徒会室に立ち寄るはずの生徒会役員の一部が帰ってこないことにふと違和感。
あとで担任から生徒会役員と風紀委員と一部の生徒を中心に一時限目を使って抜き打ちで健康診断が行われたと聞かされて。
こういうことはたまにあるのでこの時は特に疑問にも思わなかったのだけど。
そんな私にとってここ最近で一番の衝撃になる、その日の放課後生徒会室へのの移動中に窓から見た光景で。
「好きですっ! ──」
その張った声で認識したのはその文言、場所としては校門前で愛の告白と思しきものを行っているようね。
こういうこともたまにはある……と思いかけて見た校門前には──
「え」
私の妹のユリと、確か一年生の宮浦さん? の二人がいて、そして宮浦さんが…………ユリに告白をしていて。
……………………。
確かに私の妹は可愛い、おそらくユリが想像する以上に多数から好かれているのは確かなことで────それでも私たちは見守るだけと決めていたはずで。
それでも今の今までユリに浮いた話が無かったのが不思議ではあって、いやでもそんなことあったらお姉ちゃんとしてちょっとお相手とみっちり相談というか話し合いをしなければいけないのだけど。
私としては妹の自由恋愛を応援したいところだけど………………したいところだけど、悪意をもって接すること出来ないこの世界でユリを害することが出来ないのは分かっていて、それでも身体検査は必要だとは思うのだけど?
そもそもどうしてこのタイミングで、そしてユリに私たちとしてはノーマークだった宮浦さんが告白を…………?
宮浦ミヤコさん、一年二組で小学校も中学校もユリと一緒だったのは把握していて、それでも何故かユリとの接触はこれまで一度もなかったと思っていて。
いつ好意を抱いた? それも告白するまでに至った? どういう考えで、どこに惹かれて、どうして今日告白をしたのかどうか。
……想像以上に私は動揺しているらしいわ、告白=付き合うというわけではないけれど、もしも……もしもを想像して…………ダメだわ。
この思考を強くすると消されてしまう、そんな直感。
だから私は心を落ち着かせるの『私はユリにとってただ一人のお姉ちゃん、未来永劫お姉ちゃんだから』…………よし。
「っ…………!」
ユリと目が合ってしまった。
そのあとは全部は聞こえない会話をとぎれとぎれに聞きながらずっと窓の前で固まっていて、そしてユリと宮浦さんの二人が別れたところではっと我に返る。
「生徒会室に行かないと……」
今すぐにでもユリを追いかけたい、でも私は……私はあの子が憧れてくれた・かっこいいと言ってくれた生徒会役員を全うするの。
それがお姉ちゃんとして決めたことだから。
…………その日の生徒会役員会議は上の空だった、あとでログをチェック。
告白してきたという宮浦さんのことを聞こうと思って生徒会業務が終わって急いで家に帰ってきたら、ユリの部屋に誘われた。
その時の私はどんな表情だったのかしら、五分間待ってもらったのも落ち着くためで…………私にとって”最悪”な想像をしておきましょう。
例えば『結婚を前提に付き合うので家を出ていきます、今までありがとうお姉ちゃん』とか。
つらい、とてもつらい。
家を出ていく必要はないんじゃないかしら、今までありがとうというのはその別れの言葉みたいで引っかかるのだけど。
勝手に想像してダメージを受ける…………どんなことでも受け入れなさい下十条スズラン、私の愛した妹の選択なのだから。
泣きそう。
せめて幸せになってねユリ、あなたのいない世界であなたを思いながらこれからを生きていくわ──
そうして招かれた部屋で、ユリに自身がサキュバスハーフだと告白された。
…………最悪の想定を考えると大したことないわね!
なにしろ物心ついて十何年もずっとあなたを見てきた私が断言出来るわ、少なくとも家を出るとか妹をやめるとかの告白じゃなくて良かった!
とはいっても、ユリの告白も大事なことには違いないわね……しっかりと聞いておきましょう。
私の知っているサキュバス像、夢魔的なものだと思っていてその解釈であってるそう。
……リンさん、私にとっての父親とリンさん方の祖母のスイさんもサキュバスハーフでトェイさんが純粋なサキュバスというのは驚きだったけれど。
つまりはユリがサキュバスハーフというのは先天的・遺伝によるもので後天的なものではない…………それにしても、どうして”今”分かったのかしら。
『実は私、今朝やらかしちゃって。というかサキュバスの異能に覚醒しちゃって』
『通学路と校門前でその…………サキュバス由来の”催淫”の異能が発動してしまいまして、周囲に居た女性を催淫状態にしてしまって』
催淫!? それは一体どういう、というかどうなったの!?
そうして知らされたのはユリが女性に”催淫”と男性に”嫌悪”を発動してどうなったか、そして異能対策課が出てきてある程度対策をしたこと、そして週末に病院に行くことで。
そして別のある情報筋でユリに身体変化が訪れたということと、それに付随してか今のユリにはつい見惚れてしまうというようなことも聞いていた。
けれど私としてはそれどころじゃなくて”ユリ”を見ていたからその変化に関して”今は”意識していなかったけれど。
そう、ユリが自身がサキュバスハーフなのを知ってどう思っているか……問題はないのか、そこが一番気になってしまうわ。
『問題ないってことはないけど、受け入れなきゃいけないしね。出来れば人に迷惑はかけたくないけど』
『最初はちょっと不安だったけど、リン母さんやおばあちゃん・トェイさんが同じならそうでもないかなって…………お姉ちゃんは私のこと怖い?』
怖い? …………考えたこともなかったわね、だから私は即答し否定する、
だって目の前にいるのは紛れもなく私の妹のユリだもの、姿形も種族も関係ないことだわ。
私が”可愛い”と思って”好き”を自覚したあの頃から根本は変わっていない……いえ、正確には色んな表情や挙動を見れてもっと”可愛い”くて”好き”になっているのだから。
『ありがとうお姉ちゃん』
ッ…………! ハートを射貫かれたような感じってこういうことを言うのかしら、可愛くて愛しくて好ましい感情が際限なくあふれてくる。
確かにこの子の笑顔はこれまでも破壊力が高かったけれど、そこにサキュバスハーフの効果を重ね掛けするととんでもない威力になるのね。
そこで気を逸らす為に改めて見たユリの身体変化…………すごいわね、でも別人というよりも成長した延長線上という気がするのでそこまで違和感ないわ。
そうしてユリの告白が終わって。
………………宮浦さんのことを聞き忘れたわ!?
大きな安心感と宮浦さんのことを聞けなかったモヤモヤに悶々としながら翌朝を迎える。
その翌日にはユリの容姿は以前のものに戻っていて…………違うわね、触ってみた感じ肌つやは素晴らしいわ?
『……どうかした?』
『え!? いや、なんでもないよ!?』
私の手から逃れるように離れたユリ…………なななななな何か、気に障ることでもやってしまったかしら???
いや、でも、どちらかというと頬が赤い気がするわね? 熱があったら大変だわ、といつものように私はユリのおでこに手のひらを乗せる。
熱はない……でも、なにかしら、これは、ええと、その、ユリに触れた私の手が、私が──
『好き』
意図しない言葉が私の口から漏れてしまう。
好き、私はユリのことが好きで。
可愛くて愛おしくて仕方なくて、でもこれは姉として妹を思っているだけであって…………?
『私もお姉ちゃんのこと好きだよ?』
『ッ…………!?』
ユリは少し首をかしげるようにそう言った、ユリとしてはそんな意識した行動ではなかったのでしょうね。
でも私は……私に対していったその言葉が姉に対するものであったとしても、お姉ちゃんのことが好き、私が好き、好き…………ッ!?
今ここで自分の口を塞がないと何か”今まで通りの姉妹でなくなってしまうような”決定的な言葉があふれ出てしまう気がして、それを本当に私は望んでいることなのかしら……ユリが望んでいることなの?
それでもユリから目は離せない。
『お姉ちゃん?』
『っ……生徒会が、あるから、先に行くわねっ……!』
そうして私は生徒会を理由にユリから逃げ出した、このまま一緒の空間にいたら私はユリ相手に何をするか分からなかった。
私はユリのことが好きだけど姉妹でいたいから、それを壊したくないから……ユリは私の妹なのだから。
でもこの想いが熱が消えることはなくて、そうしてユリが病院に行く日を控えた前日に私たちの間に決定的な出来事が訪れる────
<カクヨムでも連載中>
お姉ちゃんの葛藤です。




